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郁達夫 『楊梅酒』 (3)

 彼の風貌は七、八年前と少しも変わっていないばかりか、東京の大学予科に入学した当時と比べても、寸分違わぬようだった。口の下まで生やした頬髯ほおひげもやはり十数年前と同じで、三日前に剃ったばかりのように、ちょうど一、二分の長さにそろい、遠くから見ると、彼のあごは逆さに掛かった黒漆こくしつ木魚もくぎょに似ていた。不思議なことに、私と彼とは四、五年の間ともに学び、帰国してから七、八年会っていないというのに、彼のこの頬髯ほおひげは、いつ見てもそれ以上に短いことも長いこともなかった。まるで彼の母親が彼をこの地に産み落としたそのときから、このひげはあんなふうに生えており、彼が死ぬまでもずっと、変わらぬかのようであった。ひとしきり泣いた後のような腫れた眼も、相変わらず学生当時のままで、ただぼんやりと鼻先を見ており、かすかに不可解な笑みを含んでいる。ひたいは依然として広く、頬骨も依然として高く、頬骨の下の頬も依然として深く落ちくぼみ、そこにお猪口ちょこがすっぽり入るほどだった。彼の年齢も、学生時代とまるで変わらぬかのようで、二十五歳から五十二歳までの間の、どの年齢だと言われてもそのように見えるのだった。

 汽車から降りて、駅の近くにある英語と数学の夏季講習を行う塾に向かった──この学校はまったく残念なもので、上海でよく又貸しされている屋根裏部屋のような二部屋だけの教室であった──そこへ入ると、彼はちょうど授業をしているところだった。黒ずんだ小部屋に、十四、五歳の頭の足りなそうな生徒が八、九人ほど座っており、ただ呆然と黒板を見つめていた。先生である彼は背中を向け、ぶるぶる震えっぱなしの手を伸ばし、ひたすら黒板に数学の公式と演習問題を書きなぐっており、しんとした部屋の中で、カツカツカツという彼のチョークの音だけが響き渡っていた。彼の丸くなった背中と汗でぐっしょり濡れた夏布かふの長衣が、私の注意を引いた。下の階で大家さんに彼の名を言ったとき、上にいた彼にもきっと聞こえていたはずで、この静まりかえった教室に、私が一歩ずつのぼってくる足音も、彼に聞こえないはずはなかった。私が二階に上がり切ったとき、生徒らの目は残らず私の方へ向けられたことで、それは証明されたが、常に神経がいくぶん麻痺しているような人間である彼は、それでもまったく振り返ろうともせず、依然として公式を書きつづけ、そのため私は後ろ側の空いた席にそっと座らざるを得なかった。彼は公式と演習問題を黒板に書き終えると、また最初から最後までひと通り読み直し、書きまちがいの有無を確認し、また黒板に向き直って空咳からせきを二、三度すると、またチョークを置いて、体に着いたこなをはたき落とし、ゆっくりとこちらへ体を向けた。このときには彼の額や口の周りが、すでに大粒の汗でいっぱいだった。彼の赤く腫れ上がった眼も、おそらく汗で覆い隠されていたせいか、彼はずっと私が見えておらず、平然たる調子でまたしばらく話し始め、ようやく数学の授業が終わったことを告げると、学生たちにもう一つの小部屋に行って英語の授業を受けるよう伝えた。教室がワッとざわめいたかと思うと、生徒らはわれ先にと隣の小部屋に駆け込んだので、私はゆっくりと立ち上がり、彼に近づき、手を伸ばして彼のじめついた肩をぽんと叩いた。


〈原文〉

  他的相貌,非但同七八年前没有丝毫的改变,就是同在东京初进大学预科的那一年,也还是一个样儿。嘴底下的一簇绕腮胡,还是同十几年前一样,似乎是刚剃过了三两天的样子,长得正有一二分厚,远看过去,他的下巴像一个倒挂在那里的黑漆小木鱼。说也奇怪,我和他同学了四五年,及回国之后又不见了七八年的中间,他的这一簇绕腮胡,总从没有过长得较短一点或较长一点的时节。仿佛是他娘生他下地来的时候,这胡须就那么地生在那里,以后直到他死的时候,也不会发生变化似的。他的两只似乎是哭了一阵之后的肿眼,也仍旧是同学生时代一样,只是朦胧地在看着鼻尖,淡含着一味莫名其妙的笑影。额角仍旧是那么宽,颧骨仍旧是高得很,颧骨下的脸颊部仍旧是深深地陷入,窝里总有一个小酒杯好摆的样子。他的年纪,也仍旧是同学生时代一样,看起来,从二十五岁到五十二岁止的中间,无论哪一个年龄都可以看的。

  当我从火车站下来,上离车站不远的一个暑期英算补习学校——这学校也真是倒霉,简直是像上海的专吃二房东饭的人家的两间阁楼——里去看他的时候,他正在那里上课。一间黑漆漆的矮屋里,坐着八九个十四五岁的呆笨的小孩,眼睛呆呆地在注视着黑板。他老先生背转了身,伸长了时时在起痉挛的手,尽在黑板上写数学的公式和演题,屋子里声息全无,只充满着滴滴答答的他的粉笔的响声。因此他那一个圆背和那件有一大块被汗湿透的夏布长衫,就很惹起了我的注意。我在楼下向他们房东问他的名字的时候,他在楼上一定是听见的,同时在这样静寂的授课中间,我的一步一步走上楼去的脚步声,他总也不会不听到的。当我上楼之后,他的学生全部向我注视的一层眼光,就可以证明,但是向来神经就似乎有点麻木的他,竟动也不动一动,仍在继续着写他的公式,所以我只好静静地在后一排学生的一个空位里坐落。他把公式演题在黑板上写满了,又从头至尾地看了一遍,看有没有写错,又朝黑板空咳了两三声,又把粉笔放下,将身上的粉末打了一打干净,才慢慢地旋转身来。这时候他的额上嘴上,已经盛满了一颗颗的大汗。他的红肿的两眼,大约总也已满被汗水封没了罢,他竟没有看到我而若无其事地又讲了一阵,才宣告算学课毕,教学生们走向另一间矮屋里去听讲英文。楼上起了动摇,学生们争先恐后地奔往隔壁的那间矮屋里去了,我才徐徐地立起身来,走近了他,把手伸出向他的粘湿的肩头上拍了一拍。

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