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老舎『断魂槍』

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1935年作の短篇小説。老舎(1899-1966)、北京出身。代表作『駱駝祥子』、『四世同堂』など。
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記事一覧

老舎 『断魂槍』 (1)

 沙子龍の鏢局[武芸者を集め、旅人や荷物を盗賊から守る護送屋]はすでに宿屋への鞍がえを決…

老舎 『断魂槍』 (2)

 沙子龍が痩身矮躯で、機敏かつ強靭で、その二つの眼は霜夜にきらめく星のようであることを知…

老舎 『断魂槍』 (3)

 彼のもとで腕を磨いた若き門下たちは、しばしば彼に会いに来た。彼らの多くは、これといった…

老舎 『断魂槍』 (4)

 それでも、彼らはあちこちで師匠のために吹聴して廻った。一つには、彼らの武芸が由緒正しく…

老舎 『断魂槍』 (5)

 王三勝――沙子龍の門弟頭――は土地廟の一角を陣取り、武器をずらりと並べた。褐色の嗅ぎタ…

老舎 『断魂槍』 (6)

 大柄で強面の王三勝は、その大きな黒い眼玉をひん剥いて、辺りを見まわした。声をあげる者は…

老舎 『断魂槍』 (7)

「おみごと!」  北西のほうから、髭の色褪せた老人が答えた。 「えっ!」  王三勝は言葉の意味が分からぬようだった。 「おーみーごーと、と言ったんだがね」  老人の口ぶりは人を小馬鹿にするようだった。大刀を下に置き、王三勝は皆が顔を向ける北西のほうを見た。誰もこの老人のことなぞ相手にしなかった。小柄の干からびた体に、紺の粗い木綿の長衣をはおり、顔は皺だらけ。眼は深く落ちくぼみ、口のまわりには色褪せた細い髭がまばらに生え、肩にはみすぼらしい枯れ草のような辮髪をのせ、

老舎 『断魂槍』 (8)

 見物人がぞろぞろと引き返してきた。隣の熊使いがどんなに銅鑼を鳴らそうと無駄だった。 「…

老舎 『断魂槍』 (9)

 周囲はまたも沸き返った。王三勝は汗にまみれ、もう槍を拾おうとはせず、大きく眼を剥き、そ…

老舎 『断魂槍』 (10)

「孫どの、お国は?」 「河間の片田舎でな」  孫老人も少し穏やかになった。 「『棒一月、…

老舎 『断魂槍』 (11)

 客が入って来るのを、沙子龍は表の間に出て待っていた。互いに拱手の礼を交わして腰を下ろし…

老舎 『断魂槍』 (12)

「弟子をもつのも大変ですな!」  孫老人が言った。 「わたしは弟子を取ったことなどありま…

老舎 『断魂槍』 (最終回)

 孫老人は立ち上がった。 「わたしの腕をご覧にいれよう、芸を学ぶに足るものか、とくと見て…

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老舎 『断魂槍』 (翻訳後記)

 老舎といえば、『駱駝祥子』という長篇や『茶館』などの戯曲で知られているが、短篇も多く残している。この『断魂槍』という短篇は、彼の自信作の1つだったようだ。  3人の登場人物のキャラが立っていて、異色の題材ながら読みやすい。持ち前の軽妙なユーモアは控えめで、それこそ無駄のない武術のように、文章が簡潔で力強い。元々この話は長篇にする予定だったのを、方向転換してだいぶコンパクトに仕上げたということらしい。当時の情勢を俯瞰するようなやや大仰な冒頭はその名残かと思われる。  老舎