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老舎 『断魂槍』 (6)

 大柄で強面こわもて王三勝おうさんしょうは、その大きな黒い眼玉をひんいて、辺りを見まわした。声をあげる者はなかった。彼は上着を脱ぎ、紺碧こんぺき力帯ちからおびを締めなおし、おなかをギュッと押し込める。それからてのひらに一つ唾をして、大刀だいとうを手に取った。

「皆さま、てまえ王三勝おうさんしょうがまずは一式ご覧に入れましょう。ただでは致しませぬぞ。終わりましたら、いくらかでもお投げいただきたい。銭がなければ『いいぞ』のひと声でも。これは商売ではござらぬゆえ。では、とくとご覧あれ!」  

 彼は大刀を引きよせ、眼を剥きだし、顔を締まらせ、胸筋きょうきん老樹ろうじゅの根っこのごとく隆起させた。グッと踏み込み、刀を水平に振りかざすと、大きな赤い飾りふさが肩の前で揺れた。サッと鋭く、あるいは振りかぶって、あるいは真上から、あるいは横からと軽快に身をひるがえしつつ大刀を振りまわし、その手は風を作ってビュンビュンと唸りをあげた。突如、彼は大刀を右のてのひらで旋回させながら、身を屈めた。辺りはしんと静まりかえり、飾り房の鈴のだけが微かに鳴っている。さっと刀が戻り、勢いよく踏み込むと、体はピンと伸び、群衆から頭ひとつ出て、さながら黒い塔のようだった。王三勝は構えを収めるなり、「皆さま!」と声を発した。一方の手に大刀を持ち、一方の手を腰に当て、四方を見まわす。ぱらぱらと数枚の銅銭が投げ込まれ、そのつど彼は軽く頷く。そしてもう一度「皆さま!」と発したが、いくら待てども、彼の足もとは依然きらついた薄っぺらい銅銭が数枚のままで、後方にいた連中なぞはこっそりとその場を離れていった。彼は怒りをぐっと呑み込み、「だれも分かっちゃいねえ!」と小声でグチを漏らした。それは誰の耳にも届いた。


〈原文〉

  王三胜,大个子,一脸横肉,努着对大黑眼珠,看着四围。大家不出声。他脱了小褂,紧了紧深月白色的“腰里硬”,把肚子杀进去。给手心一口唾沫,抄起大刀来: 
  “诸位,王三胜先练趟瞧瞧。不白练,练完了,带着的扔几个;没钱,给喊个好,助助威。这儿没生意口。好,上眼!” 
  大刀靠了身,眼珠努出多高,脸上绷紧,胸脯子鼓出,象两块老桦木根子。一跺脚,刀横起,大红缨子在肩前摆动。削砍劈拨,蹲越闪转,手起风生,忽忽直响。忽然刀在右手心上旋转,身弯下去,四围鸦雀无声,只有缨铃轻叫。刀顺过来,猛的一个“跺泥”,身子直挺,比众人高着一头,黑塔似的。收了势:“诸位!”一手持刀,一手叉腰,看着四围。稀稀的扔下几个铜钱,他点点头。“诸位!” 
  他等着,等着,地上依旧是那几个亮而削薄的铜钱,外层的人偷偷散去。他咽了口气:“没人懂!”他低声的说,可是大家全听见了。 

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