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老舎 『断魂槍』 (1)

 りゅうひょうきょく[武芸者を集め、旅人や荷物を盗賊から守る護送屋]はすでに宿屋への鞍がえを決行していた。

 東洋の夢は否応なしに揺り起こされ、マレーやインドの森に棲む虎どもの咆哮ほうこうは、砲声によって打ち消された。半ば寝ざめた人びとは、眼をこすりこすり、神と先祖に祈りをささぐも虚しく、あれよという間に、国土と自由と主権を失うことになった。門の外は肌の異なる者によって立ち塞がれ、その銃口はまだ熱を帯びている。彼らの長い矛や毒の矢、鮮やかな蛇もようの分厚い盾が何の役に立とう。先祖も先祖が崇めてきた神々も、まったく使いものにならぬのだ! りゅう[清朝の国旗]を掲げるこの中国くにも、もはや神秘の色は消え失せ、汽車が墓場を突っ切るように走り、風水も損なわれてしまった。穂のように並ぶナツメ色のひょうきょくの旗、緑のサメ皮のさやに収まる鋼の刀、鈴を鳴らし歩く塞外さいがいの馬、世渡りの知恵と隠語、侠気と名声、そしてあのりゅうでさえ、その武芸も、事業も、すべてが昨日の夢となった。今は汽車と機関銃、さらには通商とテロの時代である。噂では、皇帝の首を狙う者もあるという。

 これは用心棒の武芸者たちがめしの食い上げに追い込まれながら、国技がいまだ革命党と教育家によって提唱されぬ頃の話である。


〈原文〉

  沙子龙的镳局已改成客栈。 

  东方的大梦没法子不醒了。炮声压下去马来与印度野林中的虎啸。半醒的人们,揉着眼,祷告着祖先与神灵;不大会儿,失去了国土、自由与主权。门外立着不同面色的人,枪口还热着。他们的长矛毒弩,花蛇斑彩的厚盾,都有什么用呢;连祖先与祖先所信的神明全不灵了啊!龙旗的中国也不再神秘,有了火车呀,穿坟过墓破坏着风水。枣红色多穗的镳旗,绿鲨皮鞘的钢刀,响着串铃的口马,江湖上的智慧与黑话,义气与声名,连沙子龙,他的武艺、事业,都梦似的成昨夜的。今天是火车、快枪,通商与恐怖。听说,有人还要杀下皇帝的头呢! 

  这是走镳已没有饭吃,而国术还没被革命党与教育家提倡起来的时候。


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