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史達祖  「綺羅香・詠春雨」

寒気を連れて 咲こうとする花をいじめ

もやをかけて 柳の枝をぐったりさせる

千里の雨は 過ぎゆく春を なんとか遅らせたいのだ

朝から晩まで 暗く霞んでいて

愁いのなか 舞い飛ぼうとしては 急にんだりする

蝶は濡れた自分の羽の重さに すくんで西園にしぞのに落ち

燕は巣作りの泥の湿りに 喜んで飛びまわる

それより何より 逢瀬おうせの邪魔をされるのがつらい

道がぬかるんでいて あの人の車はついに来なかったよ


見渡すかぎり 川面に霞が立ち込め

ここへきて春のうしおも 急に激しくなり

渡し場を見つけるのも難しい

遥かにかすむ山並みは

すすり泣く謝娘おんなの眉のよう

崖に打ちつける波は 青々と高まり

紅い花びらを 悲しげに連れてゆく

想い出すのは 梨の花が飛ばぬよう門を閉ざし

灯火ともしびのもと夜ふけまで語り合った あの日のこと


做冷欺花
將煙困柳
千里偷催春暮
盡日冥迷
愁里欲飛還住
驚粉重 蝶宿西園
喜泥潤 燕歸南浦
最妨它 佳約風流
鈿車不到杜陵路

沉沉江上望極
還被春潮晚急
難尋官渡
隱約遙峰
和淚謝娘眉嫵
臨斷岸 新綠生時
是落紅 帶愁流處
記當日 門掩梨花
剪燈深夜語


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