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未来はフィールドの中に

「千マイルブルース」収録作品

高原の野営場で出会った女性は、トンデモな依存症であった……。


未来はフィールドの中に

 しかし、ヘンな女だ。
 俺はテントの出入り口から、サイトの端を窺っていた。バイクに寄り添うように小さなテントがひとつ。その前で、若い女性がひとりで食事をしているのだ。カッパ姿で、時折雨粒を落とす頭上を仰ぎながら。さらには食事が終わってもテントに入ろうとせず、どんよりとした空の下でじっとしている。まるで、天からの啓示でも待っているかのようである。
「……まあ、関わるのはやめておこう」
 俺は梅雨の間隙かんげきを縫い、高原の野営場に来ていた。さすがにこの時期、キャンパーは来ない。だから小雨の中で彼女を見つけた時には、同じ変わり者同士だと喜んだ。しかし、変わり過ぎていた。挨拶にも応じてくれず、隣にテントを張ろうとすると物凄い形相で睨みつけてくる。ならば、と彼女から一番離れた、このバンガローの近くに設営したのだ。
 俺は、彼女からバンガローに目を移した。
 ここのバンガロー棟は、このひとつを残しすべて施錠されている。出入り口の張り紙には、「緊急避難所としてのみ使用を認める」とある。管理人のいないシーズン前ということもあろうが、どうやら避難小屋として、あえて鍵をしないでいるらしい。ともかく、ひどい降りになるようならここに逃げ込めばいい。それにしても……。
 俺は上空に目を転じた。
「天気予報では晴れだったのになあ……」
 うらめしい思いで、俺は辺りに首を巡らせた。鈍色の雲が周囲の山を覆い、このサイトにもガスが漂い始めている。ここは標高が高く、晴れていれば絶景の野営地なのだが。俺はポケットラジオのFMで、気分を変えてくれる放送局を探した。すると伸ばしたアンテナの向こうに、ザックを背負った登山姿の男が現れた。折り畳みであろう傘を差した、温厚そうな初老の男性である。
 俺を認めたらしい男が、こちらにひとつ頭を下げてきた。そうしてやってくると、バンガローの張り紙に目をやり、空を仰ぐ。俺は脱いでいたカッパをはおり、テントから出た。

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