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最終地のプレゼント

「千マイルブルース」収録作品

全国をバイクでまわり献血する男。
迎えた47番目の夜……。


最終地のプレゼント

「しかし、またバイクかあ。いや、いいんだけどね」
 ラジオのボリュームを絞りながら、管理棟のオヤジが困惑顔で言ってきた。面倒臭そうに身を乗り出し、バイクはあっちね、とキャンプ場の奥を指差す。俺はそちらに背伸びした。さすがは十二月。テントとバイクが一組だけ。同じく変わり者のライダーか。苦笑しながら手続きを終え、俺はバイクに跨った。
 俺は今年最後のキャンプがしたくなり、雪の降らない暖かなこの地までやって来た。だがオヤジのあの対応。どうやらこの時期、バイク乗りは歓迎されないらしい。いや、どの季節でもそうかもしれないが。
 バイクを止めて先客ライダーに挨拶すると、俺はなにか引っかかるものを感じた。年下であろうその男に、どこかで会った覚えがあるのだ。
 荷を解きながらチラチラ見ると、その男は不思議な姿勢を続けていた。しゃがみこみ、腕時計に反対側の人差し指を当て、じっと表示を見つめている。そう、その格好だ。以前もたしか、そんな姿を見て訝り、声をかけたのだ。そしたらその腕時計が特殊な……。
 俺は男に近づき、そっと首を伸ばした。やはりそうだ。血圧を測っているのだ。
「……前に、どこかのキャンプ場で会わなかった? たしか、ツーリングしながら献血をしているとか言ってた人でしょ」
 俺がそう訊くと、逆です、と男が表示から目を離さずに言った。
「献血が目的でツーリングしていまして」
 測定値に満足したのか、笑んだ顔がこちらに向いた。
「そういえば、お会いしたかもしれませんね。もう、ずいぶんまわりましたから」
 やはりそうだった。全都道府県で献血をすると言っていた男だ。訊くと今日もこれから街の血液センターに向かうという。たしか数年前のあの時点で、もう半分以上まわったと言っていたが……。
「それで、この県で、いくつ目なの?」
「47番目です」
 俺は一瞬、計算ができなかった。
「……それってもしかして、今日で目標達成ってこと? 全国制覇?」
 男が嬉しそうに頷いた。いやいや、なんともすごい記録に立ち会ってしまったようだ。感心していると、男が身支度を整え立ち上がった。しばらくテントを見ていてくれないかと頼んでくる。すでに買い出しは済ませてあるし、俺は構わない。引き受けると、男は笑顔でバイクを発進させた。

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