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梅雨の大敵と、生まれ変わる私。

控えめに言って、又吉直樹である。

髪が。

又吉直樹さんの
素晴らしい文才やファッションセンス、
醸し出すオーラを全て抜き去り、
髪型だけ憑依したのが私である。

又吉直樹さんは、
全てが合わさって又吉直樹さんなので、
髪型さえもオシャレに見える。

一方の私はというと、
育児という修行中の身。
オシャレとも化粧とも程遠い寺籠もりのような生活を送っている。
髪型だけ又吉直樹では、ただの残念な人である。

中学生でくせ毛が発動してしまったのも
又吉直樹の要因の1つである。

私のくせ毛は笑えるくらいウネウネする。

これも私の個性です!!!とか、
芸人目指してるからこれくらい残念な髪質で良かったです!!!とか言えたら良かったんだけど、そこまでハートも強くないし芸人も目指していないので、残念の極みである。

雑誌でよく見る
「癖をいかした〜」という言葉にも疑問しかない。
癖を上手にいかすなどという考えは
オシャレ上級者が勝手に言っているだけで、
一般市民は癖の前に平伏し、癖によって支配されていくしかない。
くせ毛を前にすると我々は無力である。

外出時は余りにも髪がボサボサなので、
ひとつに結んでキャップの隙間から髪を出す
というのが、私のお決まりの髪型である。
髪が余りにもバサバサなので、
でっかいホウキのお化けが歩いている状態である。
道ゆく小学生に、「あの家のおばさんはいつもホウキの仮装をしているね。毎日ハロウィンだと思ってるんじゃね?」などと陰口を叩かれていても致し方ない。

最後に美容院に行ったのは
去年の1月だ。

コロナが猛威をふるい出した時、
私のお腹には2人目の子どもがいる事が分かった。
不要不急の外出を控えるよう言われ、
私は絶対にコロナにかかってはなるまいと
必要最低限の外出しかしなかった。
10月に出産を終えたが、
まだ小さい次男に、何かあってはなるまいと、
やはり美容院に行くことはなかった。

気付けば美容院に行かなくなり、
1年以上経っていた。

髪の毛の用語で「プリン」というのがある。

髪の毛を染めている人が、
根本から地毛の黒い部分が伸びてきて、
染めている部分と根本の黒い部分とで
はっきりと分かれて見える事から
「プリン」のように見えるダサい状態の事である。
パステルのなめらかプリンでは無く、
おじゃる丸の好きなぷっちんプリンを想像して欲しい。

私の髪はプリンの状態もゆうに超え、
耳までは黒、
耳から下は茶色といった、もはや往年のロックンローラーでも長年リングに立ち続けるプロレスラーでもしない髪色になっていた。

酷い有様である。

2月に誕生日を迎えた私は、
その日の夜、
旦那の作る御馳走を皿を舐め回すほど食べ、
お腹がはち切れそうなのに更にケーキを食べるという、傍若無人ぶりを発揮していた。

いつもはストップをかける旦那も、
誕生日ばかりは大目にみてくれる事をしっていたので、ここぞとばかりに私に眠る大食いの力を解き放っていた。

食後に息子と旦那がプレゼントをくれ、
1人ギャアギャア騒ぎながら喜んでいると、
何やら誕生日カードを見つけた。

開けてみると、
私への感謝やおめでとうといった言葉がかかれている。
息子の絵も上手である。
感激しながら裏を見ると、


『骨盤矯正チケット』『美容院チケット』

!!!

私は声にならない叫びをあげた。

なんという事だろう。
痒いところに手が届くとはこの事である。
旦那も息子も
私の日頃の積み重なるネチネチとした攻撃により、痒いところに手が届きまくる男に成長したのである。
感心しきりである。

しかし次男の世話もあり、
すぐに又吉直樹を卒業することは出来なかった。

気が付けば5月も終わりである。

美容院に行かなくなってから、
もう1年半が経とうとしていた。
そんな時、テレビから恐ろしい言葉が聞こえてきた。

「梅雨入り」である。

くせ毛の人は分かると思うが、
梅雨程恐ろしい時期はない。
くせ毛の人の髪は、梅雨前線が近づくと
鬼太郎の妖怪アンテナのごとく髪の毛が反応する。
鬼太郎のように真っ直ぐビビビとなるのではなく、
ウネウネのグニャグニャのバッサバサになる。
アホ毛だらけになる。
妖怪を感知するどころか、妖怪そのものになってしまう恐ろしい時期である。

梅雨という言葉がテレビから聞こえ出し、
私の髪の毛はウズウズし始めていた。

梅干し!と言われて口の中に唾液が溜まるのと
全く同じ現象である。

それと同時に、保育園からのお便りで
「6月に懇談会があります。」という一文も見つけた。保護者が一堂に会する私の苦手なイベントである。

他の保護者の方達に会うのにこんな髪だとちょっとな…
外面が象の皮膚ばりに分厚い私は、うーんと思い悩む。

時は満ちた。

行くべき全ての条件が揃った。
行かない理由は何もない。
私は旦那にお伺いを立て、
遂に休日、美容院を予約した。

美容院での時間は夢のような時間であった。
これをリフレッシュと呼ばずして、
いつをリフレッシュと呼ぶのか。
あっという間に3時間程経ってしまった。

私は生まれ変わった。

美容院の床には、
犬のトリミングの後のような
クルクルホワホワした毛が大量に落ちている。

鏡に映る私は
控えめに言って

広瀬すずである。

髪が。

美容師さんの手により、
又吉直樹改め、広瀬すずに髪型の変貌を遂げた私は
高鳴る胸を抑えきれず家に帰った。
玄関を開けると、

「わー!ママ可愛い〜!」

「え!めっちゃいいじゃーん!」

我が家の男達がチヤホヤしてくれる。
私をチヤホヤしてくれるのは
もうこの世でこの男達しかいないのである。
さすがの一言に尽きる。
この褒める作業まで込みで美容院である。
家に帰るまでが遠足と同じ原理なので仕方ない。

私に取り憑いていた生き霊がとれたかのようにスッキリし、梅雨を感じさせない頭の軽さになった。
控えめに言って最高である。
旦那と息子達に感謝しかない。

夜の洗髪は控えるように言われていたので、
その日はシャンプーせず眠る。

翌朝目覚めても、サラサラツルツルの髪にテンションがあがり、私の心はトキメク。
心なしか足取りも軽い。

夜息子とお風呂に入り、
普段は自然乾燥という髪のダメージに1番悪とされている所業をしていた私も、
珍しくドライヤーで乾かそうという心持ちになった。

髪の毛を乾かし、
鏡に映る私は

控えめに言って、

髪の毛を少し切った又吉直樹である。

…戻った。


髪を少し切った又吉直樹は
切なさを押し殺しながらiPhoneを開き、
昨日広瀬すずになっていた時に
調子に乗って旦那に撮ってもらった写真を眺める。

広瀬すずの髪型の私が
恥ずかしそうに微笑んでいる。


笑える。


美容師さんはやはりプロだと噛み締め、
今日も私は髪を結び、
キャップを被る。

一生シンデレラはキツイが、
一日シンデレラはたまには悪くない。

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