見出し画像

半ネコから学んだ新しい世界

クライアントと新商品開発をご一緒している時、企業利益といった"利己的"な発想よりも"利他的"である方がZ世代はすんなり受け入れてるのかな、と感じることがあります。これはどうしてなのでしょう。

個人的な見解で恐縮ですが、2007年夏から起きたリーマンショックを経験した親たちの元で小学校時代を過ごしたZ世代ゆえに、自分だけが利益を追求する社会ではいけないという利他の精神や思いが徐々に浸透し、そして保ちながら育ったからなのが要因ではないかと思っていたりします。つまり後天的な理由です。

***

さて、前々回前回のnoteでは、それぞれ「目的」と「観察力」をテーマにここに記させていただきました。

本日のnoteでは、これら2回でお伝えしてきた考え方や動きを統合したときに見えてくる新しい世界について考えてみたいと思っています。
では、最後までお付き合いください。

オープンイノベーション

ここ数年の動きでしょうか。企業や大学・研究機関、地方自治体、市民が連携して共創する"オープンイノベーション"という考え方について目にするようになってきました。残念ながら日本には根付いていませんが、これは2000年にヘンリー・チェスブロウ氏(ハーバードビジネススクール)によって提唱されたものです。

オープンイノベーションの概念である目的を明確にして、内から外への知識の流れを活用することは、従来までの広告やメディア空間だけではなく、経験の場、地域/都市空間に寄与するとして都市開発という切り口で注目されてきました。そこで今回は、エコシステムとしての都市開発のケースに触れてみたいと思います。

第1の視点:地方金融機関

京都信用金庫(京都、滋賀、大阪に展開する老舗信用金庫:92店舗)の場合、顧客とは定期預金などの既存顧客だけでなく、地域住民と地域住民などの地域との関係性でも顧客と考えています(このケース紹介は、一橋大学の野中郁次郎名誉教授からのものです)。

京都信用金庫は、目先の利益を優先しがちな流れとは一線を画し、中長期に顧客との信頼関係を作ることを優先している。全ては「絆づくり」から始まるという考えのもと「ビジネスマッチング掲示板」という仕組みによって営業店の担当者同士の情報を共有し,顧客同士の出会いを繋いでいる。
※掲示板への登録4388件,役職員からの返信4940件、お客さま同士の引き合わせ1368件、お客さま同士の成約429件(2019年実績)。

(『共感が未来をつくる』野中郁次郎編著:千倉書房)

この"ビジネスマッチング掲示板"という仕組みに本部は介入していません。距離が離れていても、普段は接点がなかったとしても営業担当同士が相談し合うことによって、顧客が有する「モノ・技術・サービス、情報」を繋ぎ、顧客の"売りたい・買いたい・組みたい・知りたい"という課題解決を仲介しています。

これは「顧客→地域住民→地域共同体」を巻き込んだ概念に近いと思いますが、メガバンクなどでは実現が難しい金融機関の顧客との関係性の在り方であるとも言えます。野中先生はこれを"全員経営で顧客との紐帯を作る動き"として説明されていました。

つまり、最も重要なことは京都信用金庫がプロジェクト進行の最初に「21世紀のコミュニティ・バンクとは絆づくりである」と目的の設定したところではないでしょうか。もしこの共通目的の設定がなければ,顧客の捉え方や管理の仕方は、このようにクリエイティブではなかったはずです。おそらく自社の定期やローン顧客管理が主目的になっていたのかもしれません。

会社一丸となってあらゆる役職のメンバーが共通目的に腹落ちしながら進め、顧客との関係性は変わり、管理ではなく、極めて創造的で動的なデータ開発を行っていく。これは,エコシステム体系の都市のケースの一つだといえるでしょう。

第2の視点:"食"を通じた地方再生

 生産者と繋がる街を変えるきっかけに「食を通じた地方再生で日本を元気に」と謳ったプロジェクトがあります。

 「地方創再生とはそこに本当に住みたいと思うこと」と定義し、退屈、卑屈、窮屈を阻むのは『食』であり、街を変えるきっかけにする。その為に
農家の生産者と繋がり知り合い対話し交流する場。たまに行くのではなく、そこに"住まう"というコンセプト。参画企業は大和証券、大塚製薬、マインドフルネスサロン MELON、共立メンテナンス、ロピア・ホールディングス等といった完全な異業種ながら、"サウナで日本を元気にする"アプローチを複数企業で展開しています。

これは、目的の共通化などエコシステムとして都市の中に場を作成しているケースの一つであるといえましょう。

第3の視点:隈研吾の"半ネコの視点"

コロナ禍最大の教訓は、"ハコ"は危ないことでした。考えて見れば、我々は今まで全く真逆の考え方で生きてきましたよね。"ハコ"の中で働くことが、最も効率的であり安全であるというのが常識だったからです。

一方で隈研吾のいう"ハコ"とは、建築業界の20世紀でいうコンクリートや鉄などの素材での人間を集積する建築物のことを指しているようですが、この"ハコ"は危ないという彼の発想をマーケティングで解釈するならば、一社だけで売上を上げて効率を追及するビジネス、従来の効率市場の発想への警鐘と私は捉えました。すでにお気づきかと思いますが、まさに今のコロナ禍の発想と同義なのではないでしょうか。

隈研吾は"ハコ"を出て、公共空間に新しい価値を見出しました。そしてその回答を見出したのは、"半ネコ"の存在であるといいます。

半ネコは、家ネコでもノラネコでもありません。家ネコとは、家というハコに閉じ込められたネコであり、コロナ禍以前のハコに閉じ込められた人間に似ています。一方都市においては完全なノラは稀であり、実際のノラの多くは複数の人間からご飯(餌)をもらいながら、ハコを脱出して都市を自由に生き抜く半ノラ状態であるといえるのです。

「半ノラの猫にGPSを取り付けて、彼らの視点から見た東京の地図を描いた。その地図、その移動の線の集積から伺える彼らの生活実態は、ハコから抜け出すという大きな一歩を踏み出そうとしている僕らにとって、とても参考になり大きな勇気を与えてくれた」

(隈研吾展より; 新しい公共性を作るためのの5原則)

半ネコは、実は私の家にも時々やってきます。隈研吾はその半ネコの動きから、従来までの"ハコ"から脱却して、自由にイキイキとした時間と空間の在り方を想定し、提示していたのだと思います。
これは先にお伝えした、オープンイノベーションの"エコシステム"のメタファーとしても捉えることができるでしょう。

まとめとして

視点1〜3は、従来のKPI(重要業績評価指標)を設定するカイゼン型のロジカルシンキングからは出てこない思考法かもしれません。

先の2回のnoteでお伝えしたように、弊社がクライアントと行っているプロジェクトは、まず「目的」を創出し、それを共有化する為に徹底して、皆さん同士で対話しながら思いを語り、相互主観から共感を創出していくという
"ビジョン思考"をベースにしています。

そして、この作業を行なっていると社会的価値観創造が不可欠になり、次第に一社だけでなく、複数の企業で共通目的を実現することになることも増えていくのではないか、と実感してもいます。まさに半ネコの行動にみたものです。グレーゾーン、それは「知を生み出すこと」であるわけです。

これはまさにプラットフォーム型の新しい日本の進化形であるでしょう。地域活性化や再生として、中央集権ではなく地域を巻き込む形になり、参加企業各社のR&Dが新しい視点になったり、大学研究機関を巻き込んだり、市民や顧客が協業プレイヤーになっていくのかもしれません。2030年を目標とされているSDGsを達成する具体的行動は、地域特性を考慮に入れたものにした時にさらに進化するでしょう。

直近3回を通して私が皆さんにお伝えしたかったことは、これからの企業活動は自社の売り上げだけでなく、社会的価値に言及し最高善を求めることが重要ではないか、ということです。

そして、その時に必要になるのは従来のマーケティング活動からさらに一歩進む世界。「目的」を創造することからはじめて、「観察力」を高めることでより他者理解を深め共に共感、共鳴し、融合していく。結果として、オープンイノベーションエコシステムがはじまる。そんな時代がもうそこにきているのだと思いませんか?

さて、私はまた明日の朝やってくる半ネコのご飯を用意しよう。

(完)