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ジブリパーク戦略 -"見守る接客"とは

今月1日、愛知県長久手市の愛・地球博記念公園内に「ジブリパーク(https://ghibli-park.jp/)」がオープンしました。"森と相談しながらつくっているスタジオジブリの世界を表現(世界観)する"というコンセプトで、"見守る接客"という東京ディズニーランドにはない戦略が注目されています。

また、Bunkamuraで現在開催されている"イッタラ"のフィンランドデザイン展(https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/22_iittala/)が話題になっています。東京国立博物館(https://www.tnm.jp/)では創立150年を迎えて国宝89点を公開し、日本の文化の在り方を示しています。

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日本経済厳しい状況、円安と物価の上昇。訪日客増加と人手不足。連日の北朝鮮のミサイル連射・・・。明らかに物語は、未來に向けられています。しかし決して未來や運命を見通すことはできません。

問題は変化が起こる瞬間=変曲点です。この変曲点の時期と質は、価値ある情報です。その変曲点に対応するには不確実さを前提にした、その複数の変曲点と影響を思い描くことではないでしょうか。

そこで今回は、シナリオ・プランニング、未來に対して可能性のある物語を紡ぎだすこと及び世界観作りのプロセスを考えてみたいと思います。

「世界観づくり」のプロセス

事例1)"ジブリパーク"の世界観にみる顧客づくり

「客数より世界観」という質を重視。試される戦略 (売り込まなくてもお客様が集まる仕組みづくり)に注力。人数を制限して、ジブリの世界観に共感するファンのみを集める場にする。

(中京大学 内田俊宏客員教授 談)

スタジオ・ジブリが運営する会社「ジブリパーク」は、日時指定で12月まで年内定員5,000名で、完売したそうです。主な施設は以下の通り。
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「ジブリの大倉庫」・・・ジブリの映画の絵コンテや小道具の展示
「青春の森」・・・耳をすませばの再現
「どんどこ森」・・・となりのトトロの舞台
(*2023年度中に、「もののけの里」「魔女の谷」の2区画が加わる)
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ここでのポイントは、東京ディズニーランド誘致の直近ピークと比べて年間180万人は、10分の1以下の水準であることです。入場定員の1人あたりの面積から割り出して,派手なアトラクションやショー、絶叫マシンがありません。

 「ジブリパークは広い。人を増やすと魅力が落ちる」

(阪南大学山内孝幸教授)

︎係員は"見守る接客"で、顧客に対して監視ではなく、温かく見守りセルフで体感と楽しさを、来園者自ら見つけるまで説明をしないアプローチをしています。楽しさを押し付けない。ジブリの世界観への共感は気付きにあると考えているようです。

この手法は、従来までの客数を追うテーマパークとは大きく異なります。ジブリの名物プロデューサー鈴木俊夫氏ですら「俺には真似できない」と褒めたと伝わってきました。

ここで考えられる「世界観のプロセス」にはストーリーがあり、それに共感するには、顧客自らがその価値を発見することにあります。これは、マーケティングの本質である、売り込まなくても、お客様が集まる仕組みがあり、
信頼関係が形成でき、リピーターになり得ること
ではないでしょうか。

事例2)「千と千尋の神隠し」の世界観プロセスにみる自己変革

ジブリが創りだす「世界観のプロセス」には、ストーリーテリングとして、自己変革、自己成長を見いだしています。例えば「千と千尋の神隠し」には次のように考えられるでしょう。
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起:
異世界に迷い込む千尋。
引っ越しの途中、不思議なトンネルを抜けたら、異世界へ。
好奇心のまま、店に入って食べたら両親は豚になる。
大アクシデント。
承:
ハクに助けられた。
千尋は、千として、油屋で働く。
転:
カオナシの変化
結:
千尋が変わる。力強く、変化する。
トンネルを抜けて、新しい千尋になる。
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この「世界観のプロセス」のポイントは、"主人公の千尋が、ある障壁(壁)と境界(縁)を感じ、その後葛藤が生じて、自己成長し新しい自分になる"
と説明できるかと思います。

事例3)イッタラの世界観にみる国民国家の自己確認

フィンランドで「カレワラ」は、"英雄の知"意味する民族叙事詩として1835年に出版され、1917年のロシアからの独立に向かう大きな刺激を当時の知識人に与えました。

その後、この「カレワラ」が持つ世界観は、フィンランドの"イッタラ"のガラスデザインとして、日常使いの多機能なガラス製品に石やしずくが水面に落ちた時の輪状に広がる「水紋」を意味するデザインに展開。フィンランドデザインの両親といわれるカイ・フランクにより、不要な装飾や余分なものを削ぎ落とし,普遍的で機能的かつ汎用性の高い食器作りに至っています。

これは、歴史的観点から、新たなる物語を語りながら、世界観を作って,自己認識するケースであると認識できるでしょう。「世界観のプロセス」には、神話的なレベルから、実用文化レベルまで様々な物語を紡いでいくようです。

「世界観のプロセス」と物語づくり

世界観のプロセスとは、物語りの構造をするケースと似ています。これらの「世界観のプロセス」によって新しい自分に変革することではないかと考えます。

■はじまり:
序論(導入部)
現実の説明、核心となる問題がある
■展開:
転換点、分岐点、核心となる問題の本質がわかる
急転、山場、異化効果、
ユーザーが危機から逃れようとするが、その結果から更なる窮地になる
■終結:
ユーザーが窮地を逃れ,精神の浄化や抑圧から解放される

上記のステップは、マーケティング本質と世界観を作ることは、極めて似たものであることであると示しているのではないでしょうか。
売り上げを即上げるとか利益を出すことではなく、我々の壁を乗り越える、ことが、自己変革(会社改革)に役に立つ。それは、暗黙知や文脈を伝えるからです。︎

つまり、世界観のプロセスを作ることは、個々の内面的側面から、企業やブランドの世界観、さらには国家や社会のレベルにまで及びものであるとも言えるかもしれません。

日常の中で,自分自身の内面に目を向けて、自分自身の存在を問い直すことから始める。今、私たちに必要なのはまさにここであると私は考えます。

まとめとして

これらから学べることは、当該商品について、商品機能,効能効果からの第一次機能からのアプローチやプロモーションで売り上げを短期的に上げるだけでは、世界観は形成できないということです。

世界観を構築する為に必要なことは、
・求めようとしている結果が、本質的価値を含んでいるか
・それは、社会的価値を持つものなのか否か
・商品だけではなく、生活者に新しい豊かな生活をもたしているものなのか
・個人だけではなく家族の関係性、地域のコミュニティまで関わるのか
・その世界観の中には、夢やビジョンが内包されているか否か
・現状に満足することなく、自己の超越ができているか
・世界観のプロセスには合意形成が重要(例:ビジョンムービーなどを作成し視覚化して共有化する等)

等、いくつか上げることができるでしょう。

そして何よりも。世界観を創造するためには、自分(企業)を知ることから始めないと理解できないことではないでしょうか。

(完)

(*トップ画面写真は、共同通信配信より転用) 

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