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謹賀新年 2023 : 元旦全面新聞広告分析

あけましておめでとうございます。

元旦の朝、いつもの年と同様に朝3時に起きて中央紙(朝日、日経、読売、毎日、産経、東京)の広告15段(全ページ)の分析を致しました。

この分析は今年で21年め。今年は広告分析に止まることなく、各紙の一面めや社説と合わせながら面白いと感じた視点も加筆してみます。
よろしければお付き合いください(以下、2022年の参考)。

2023年 各紙一面のタイトル比較

朝日新聞:「誰もが孤独の時代 人間性を失わないで」
日経新聞:「グローバル化止まらない」
読売新聞:「日韓レーダーを接続」
毎日新聞:「日台軍事連絡ルート」
産経新聞:「民主主義を守る闘いは続く」

上記5紙と異なり興味深い視点、東京新聞での題字は「話し合いをらあきらめない」というものでした。内容としては、"みんなが社長、みんなが従業員"は、私にとって共感できるタイトルと考えます。

東京新聞の視点の興味深さは、社説"「我々に視点」を与えよ"にも繋がります。ここで記載されていることを読みながら私の頭に過ったのは、アメリカ人気歌手アリアナ・グランデの楽曲「pov」です。

サビの部分である「I’d love to see me from your point of view(私はあなたが私を見るのと同じように自分自身を見たい)」。本当に他者の視点で自分を見ることができたなら、全く違う自分に見えるかもしれない。これは、自分を知る、新しい自分を見出すという「センスメイキング理論」にも通じるののかもしれない、と。

2023年 新聞全面広告総評

では、広告分析に話を戻しましょう。

2023年、新聞広告6紙に掲載された全面広告は、トータルで171ページでした。これは昨年の164ページを超えて過去6年間で最多数でした。メディア中心がインターネット広告となったと言われるこの時代に,何故か元旦新聞広告が増えているというのも気になりますね。

加えて今年から元旦広告に再び復帰した花王(読売新聞と東京新聞)、新たに三井物産が日経新聞に掲載した志広告、Amazon(全紙)の初売りなどのプリミティブな広告。各社ともこの昨年から今年で広告表現を変えてきていることも気になります。

一方、姿を消した代表的広告では、やはりM &Aでの西武百貨店でしょうか。毎年知己に富んだ文化や時代性を感じさせる表現が消えたことは残念でなりません。更に遂にヤマト運輸も今年からなくなりました(毎年徐々にヤマト運輸は広告表現に勢いなくなっていて気になっていたことも記しておきましょう)。

年初の広告表現は単なるモノを売る広告や、自社アピールだけではなく、私たちに新たなるメッセージや共感するものが主目的だといえます。その視点で、ここからは、個別にみてみましょう。

「Xの時代へ。」 -筑摩書房-

筑摩書房。これは5段原稿ではありますが、新しい未来への方向性を指しているのではないかと興味深く感じました。
ボディーコピーに使っている「X」は、否定するバツではなくお互いの力を増やすカケルの時代にしていきたい、としている。編まれてきた言葉を掛け合わせ、それぞれ自分自身の言葉を紡いでいこうとする姿勢。ここで「聞く」ことが循環しているときのみ「社会」というものはかろうじて成り立つのではないか、そんな風に感じました。

「いま、サッポロは、なにをカイタクしているのだろう。」 - サッポロビール株式会社-

食のメーカーとしては、商品価値や機能性ではなくはじめて企業の在り方と、顧客との関係を訴求しようとした正月広告表現だと言えます。

・人材の多彩な"らしさ"を、カイタクする。
・地域の魅力を開拓する。
・グローバルな市場をカイタクする。
・お酒の可能性をカイタクする。
・持続可能なモノ造りをカイタクする。

誰かのいちばん星であれ。毎年箱根駅伝の広告であるサッポロビールの存立基盤を自ら問う広告です。

「幸せよ、続け。」- ヘーベルハウス-

ヘーベルハウスといえば、数年前までは強固なヘーベル板の広告しかしていなかった会社が、「幸せな時間は,住まいの中で生まれています。お帰りなさいと家族が迎えてくれる幸せ。ポカポカのお風呂で,心とからだをいたわる幸せ。食卓から「おかわり」が聞こえる幸せ」と、家族の幸せな時間を提供する会社に今年の広告では変化を感じさせられました。

同様に、毎年不動のビジュアルであった積水ハウスも、ボディコピーは変化させながらも、"未来へとバトンを繋ぐ約束の歌"などと、未来を紡ぐビジュアルになっている。住宅業界の変化を感じます。

花王とトヨタの類似広告表現の意図

「もったいないを、ほっとけない。」と久しぶりに正月広告と登場した花王と、トヨタタイムズとして広告掲載を行った2社。この酷似広告(カラーとトップ発信方法)は何を示唆していたのでしょうか。

①全体の文字も写真もコーポレートカラー(緑色で統一している花王、赤で統一するトヨタイムズ)で表現
②ESG視点の企業の想いを、独占インタビューとして掲載(長谷部佳宏社長と、豊田章男社長)
③未知の未知へとして、花王のイノベーションを訴求(化粧品ボトルもリサイクル、130年の技術史など)。トヨタは、日本の底力を世界に示す重要な局面へとし、トヨタ生産方式豊田章男の解釈やトヨタ決算を読み解く四つのポイントなどを訴求。

この2社の正月広告から読み取れること、それは、株主とインナー対策にかなりウェートをおいたもののような気がします。

「その志で、世界を動かせ」 - 三井物産-

日経新聞の30段原稿に、三井物産社員の216名が顔とそれぞれのvisionを訴求されています。パーパス経営を広告表現にするとこうなるという内容ですが、こちらもまた実はインナー広告なんでしょうか?

216名の言葉を拾ってみると、
・幸せ happy
・明るい未来
・元気
・レジリエンス
・未来を創る
・挑戦
などと記されていますが、個別のスローガンのようなものと会社としての志がどのように繋がっていくのか、是非知りたいところです。

これまで弊社として商社の方々とも仕事して参りましたが、今後は更にこの「志」というキーワードの存在価値は問われて来るのかもしれません。

「感動で,世界をつなぐ。」- SEIKO-

これまでは、スポーツタイプのSEIKOとグランドSEIKOといった形で、商品広告中心に行ってきておりましたが、今回"セイコーグループ"として初めて表現されていました。

この動きは、SONYさんと同じ"感動"がキーワードになる前兆なのでしょうか。ソニーグループの前社長である平井氏の時、「ソニーとは何の会社か」「ソニーらしさ」とはと問い続けておりましたが、この時に繰り返し出てきていた「ソニーは感動を届けよ」と強調され大切にされたのは、ストーリーでした。これら解釈の集約化の作業で、この原稿が単なるシナジーではなく感動がイキイキ我々に見えるのではないかと期待したいですね。

「理性に立ち返る----」-岩波書店-

難解な「スピノザ全集」について、"21世紀という人類という長い夢が追い立てられるように覚めようと、再接近の気配がきている”と捉えた岩波書店の
気概を感じます。

「人間たちが理性の導きから生きるということは、稀にしか起こらず、むしろ彼らの多くはねたみ深く、互いに不快な存在となるようにできている。
にもかかわらず人間たちは孤独の生を貫くことはほとんどできず、その結果『人間は社会的動物である』というあの定義が多くの人々のお気に入りとなった。そして実際に、人間の共同社会からは、害に比べてれば、はるかに多く利便が生じるようになっているのである。」

スピノザ全集 第3巻エチカ 第4部 人間の隷属,あるいは感情の力について」

「肌を心を 人生を、ケアしていく」- KOSE-

化粧の在り方、本質を捉え直し、久しぶりに正月に掲載された化粧品広告は、資生堂でもポーラでもなく、KOSEのモノの広告を超えた人生ケアでした。世界で活躍するスポーツ選手を男女関係なく、人間力として清々しく表現した点では、今回際立って見えたといえます。

cf. 今年初めて登場した新サムライマックの大人を楽しめや、村上宗隆を使用したLarkの「かっ飛ばせ,新しい時代へ」とは全く異なるスポーツ選手捉え方ですね。

まとめとして

昨年から今年にかけ、ウクライナへのロシア侵攻、三年目となったコロナ禍、原料価格高騰や極端な円安が我々の生活に大きな変化をもたらしました。これらにより、二極化は益々進行し、グローバリゼーションや資本主義そのものを再度長い人類の歴史から考えることが必要になったとも言えるでしょう。そして、既にESGやSDGsのあり方も、見直す時期に来ているのかもしれません。

これらを背景に、2023年の元日広告は危機感を持って、自らの存立基盤を明らかにしたものであるのかを期待しました。特に食品関連はどう考えるのをもっと明らかにすべきではないだろうか、と。しかしながら、こうして分析をしてみたところ、サッポロビールにその変化の兆しをみることはできたものの、残念ながら表層の形だけのパーパス経営の表明やスローガンが多く見られると感じるのは、言い過ぎでしょうか。

日本電産株式会社の創業者であり、代表取締役会長兼最高経営責任者永守重信氏は、成長の欲望が世界を繋ぐと進言します。政治とビジネスは切り離すとも発言されていますが、中国の政府の影響を考えると、そうとばかりは言えないのではと感じます。

そんな中で東京新聞で斉藤公平氏が論じた「初めの一歩」は家庭で職場で明示している発言に清々しい気持ちになります。pov(Point Of View)、つまり自らの視点を持つことの大切さ、自分ゴトで考えることが、今年ますます重要になることでしょう。

イノベーションという言葉をまだ技術革新だとしか捉えられていない企業が、知のイノベーションを引き起こす必要について、私は今年皆さまと改めて一緒に考えていけたらと思っています。

皆さま、お正月から長文お付き合いありがとうございました。
ご意見賜われたら幸いです。

改めて、今年もよろしくお願い申し上げます。

(完)

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