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謹賀新年 : 元旦全面新聞広告分析

あけましておめでとうございます。
今年も私なりのペースでこの場で様々な発信をしていきたく思っています。お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

元旦全面新聞広告分析について

2022年初めての投稿は、元旦全面新聞広告6紙(朝日、日経、読売、毎日、産経、東京)分析をお届けしたいと思います。実はこの分析は、今年で20年となります。これまでは弊社とお取引きいただいた方だけお送りしていたのですが、今年はこのnoteでお付き合いただいている皆さまにも是非お届けしたいと思い立って書き留めています。

元旦の広告分析は、"経営者がこれからの一年について自社を如何にすべきを表明したり、生活者にだけでなくインターナルである社員の方やお仕事関係者、業界、マスコミ、株主に発信されるメッセージとして注目されるものである"と私は考えます。デジタルの時代になり新聞はどうだ、と言われてはいるにも関わらず今年の分析広告数は164ページ。最近5年間では最多となりました(もちろんデジタル連動も増えてきています)。
これって興味深いことだと思いませんか?

それでは、今年注目した6点を以下に記載しています。少し長くなりますが、お付き合いくださいませ。

「資生堂」の曖昧さ

資生堂は大晦日(12月31日)に「美のイノベーション」として、ミッションを宣言されました。

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 - 資生堂は、149年間の道のりを歩んできました -
       OUR MiSSION is "BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD.

魚谷社長が語るのは3点です。
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1)2022年には、これまで抑圧されてきた生活洋式が活動的なものへと一気に転換するのではないか。
2)人々が交流し、社会生活を営む中で、化粧により美しく装うことや健康的でいることは非常に大切な要素である。
3)受け継ぐべきは継承し、一方では社会の変化に自らも変わっていく、これらを実現するキーワードは「柔軟性」である。
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最後に直筆で、魚谷氏自らが【希望】と書いて締めています。

私がこの広告表現に対して(少し厳しめに)申しあげるならば、"INNOVATION"は技術的なことではなく、この場でなんとかお伝えしている「知のイノベーション」と捉え、要素を組み替えて新しい概念に再編集する視点であればと思います。当然魚谷氏にはその思いはあるとは思いますが、この宣言だと曖昧と感じました。

VUCAの時代。時代の変化に合わせる、将来の変動を予測するというアクションでは遅れをとってしまいます。デジタル時代の変化のスピードは、半端なく早く受け流す覚悟と、受け流す力が必要です。デジタルは従来の直線的成長ではないのです。むしろ自分モードで考えた好きなことや妄想を持つことをした上で、トライ&エラーを繰り返すこと。イタレーションして精度を上げることが重要だと言えるでしょう。

魚谷氏のメッセージである"美の力を通して笑顔と幸福感あふれるよりよい社会の実現に貢献していく"だけでは、今までの延長路線に見えてしまうかもしれません(少なくとも曖昧という意味でもあります)。

12月28日に日経新聞コメンテーター中山淳史氏が以下のようなことをお話しされていました。
「日本は『あるべき型』の革新で戦えているだろうか。幸せや豊かさを社是に掲げる企業は多いが、提案や発信力が弱い可能性がある」
まさに資生堂は、その事例に当てはまっているように思います。

アメリカの経営学者クレイトン・クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」によると、技術的革新には「破壊的」と「持続的」があり日本企業は、後者に親和性を感じていることが指摘されていますが、これは実は同時にするものだと思うのです。前回のnoteでお伝えした「あたりまえ→あまのじゃく」へのような転換こそが企業にとって必要になっていると私は思わざるを得ないのです。

「トヨタ自動車」のジレンマ

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次は、トヨタ自動車に注目してみましょう。

私たちは、できる。

日本自動車工業会、日本自動車部品工業会、日本自動車車体工業会、日本自動車機械器具工業会、日本自動車販売協会連合会は、朝日、日経、読売、毎日、産経で、30段広告を2年続けていますから、特に目立ちます。
昨年「私たちは動く」とありましたから、今年はその第2段階になります。

最近、トヨタ自動車は2030年までに世界で販売する新車350万台にするとの表明しました。これはトヨタの年間1000万台の3分の1に相当します。
自動車業界は、従来の延長にない技術と販売方法の節目に来ているはずです。そしてトヨタには一億人を超える新車と保有の顧客がいます。

今回の広告ボディコピーに「自動車業界550万人の力が、チャレンジすればなんだってできる。」と表現されていましたが、EVの本質が電池の安全性と車体組み立てであり、地産地消型とすれば、今こそ破壊的な革新がトヨタに求められることにならないのかと思案するところです。

「積水ハウス」と「ヘーベルハウス」のソフト訴求

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我々の「あたりまえ」が問われ始めているのでしょうか?あたりまえじゃない朝をたくみに演出した積水ハウスが3点めの注目広告です。

ハウスメーカーが、自社のハード商品機能の良さだけをいう中で、積水ハウスは以下を問います。

あたらしい年の はじまりの朝 家族は揃う
あけまして おめでとう すこし あらたまって

その表情は 輝いて 朝のひかりに
ほころぶ うすべにいろの 花のようだから

そんな新春 あたらしい春と 呼ぶのかもしれない
まだこんなにも さむいさむい 冬の朝日なのに


あたりまえのように 思っていたことが
あたりまえじゃないと あたりまえに思えてきて

あたりまえだと思っていたことに違和感を感じることを訴求することで、共感づくりに挑戦したのかもしれません。

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これと同様にヘーベルハウスも、例年の強固なヘーベル板ではなく「家族のしあわせの舞台」として自社を表現していました。
ハウスメーカーの変革の時が来たのかもしれませんね。

「西武 そごう」の存在意義

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「わたしは、私」シリーズで、西武 そごうは百貨店の存在意義を明確に示しています。

 なくてもいいと言われるものと、
 私のこころは生きていく。

紙面のQRコードをスキャンすると、この熊のぬいぐるみを”ペンシルドローイングアーティスト梶原誠氏"が描いています。なるほど、、、百貨店の存在価値は「心の栄養」だったんですね。

ある政治家の言った「不要不急」への反発を巧みに織り込んだこの西武 そごうの15段原稿に共感を覚えますが皆さんの心にはどのように届けられたでしょうか?

参考>> 新潮社の5段広告

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 おとなだって、はじめは
 みんな子どもだったのだから。(「星の王子さま」サンテグジュペリ)

忙しさにかまけて私たちが忘れがちな、大切なもの。
スマホで検索しても決して見つからない、こころのふるさと・・・。
そんな「原点」を思い起こしてくれます。
これは、西武 そごうと共通していて共感いたしました。

「岩波書店」から自分モードの大切さを教わる

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「私たちは明日を知るために、
 過去に遡る」

私たちがどこから来たかという確信は、私たちがどこかへ向かっていくという確信と切り離せません。
「未来に向けて能力に自信を持てなくなった社会は、過去における社会の進歩についての関心もすみやかに失うでしょう(E.H.カー「歴史とは何か」)。」

難解であるテーマですが、センスメイキング理論の原点が詰まっていると考えます。自分モードで考えられ得るベースを形成することが今の私たちには重要なのです。過去から学ぶこと、ありますよね。

「東和薬品」:DX宣言をする会社がないのは何故なのでしょうか? 

最後となりますが、ここ数年DXを課題とされている企業さまのご相談をよくお受けしてますが、今年も元日広告でそのことに触れているものはほぼありませんでした。

唯一、東和薬品が日経新聞において「新常態デジタル変革 ヘルスケアの未来」として、吉田逸郎社長と慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室 宮田裕章教授の対談記事広告があったくらいでしょうか。

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DXでは「何の為に何を変革するか」について、しっかり定めなければなりません。これは走りながらではなく、まずは先に決めることだと私は思います。

昨年登壇させていただいた「日本マーケティングリサーチ協会」のセミナーでいただいた質問に「X(トランスフォーメーション)は最後にする」という企業がありましたが、目的なくデジタル化してしまえば、従来の効率化だけのIT化と同じになってしまうでしょう。組織も自律分散型や創発性を認めないで、官僚的階層的組織でないと動きづらいはずです。リサーチ方法も違います。自己変革しない限り、DXの第1歩は踏み出せないかもしれません。

まとめとして

2022年元旦の広告表現を皆さまと一緒に見てきましたが、VUCA時代に従来同様の業務の進め方をおこなっている、もしくは暗中模索のまま新年を迎えてしまった企業が多いのかもしれないという懸念が私の中に過ぎりました。
自己変革せず、表面上変えたようにしても、DXは進まないし、ましてや知的イノベーションなど引き起こらないのではないかと思います。

日本の長期停滞傾向は、最初にお伝えしたようにこうした新聞広告表現に実は表れてしまうものなのです。元日に発せられる広告というものは単なるコミュニケーション表現ではなく、企業の思いやあり方や未来像を示している、だからこそ私は注目し続けてきたのです。

2022年。今こそ自分達の思いを明確にストーリー化し、経営陣だけではなく社員全員が"自分ゴト"として考えなければないないのではないか、と痛切に感じた正月の朝(...いやもう夜)でございます。

皆さま、長文お付き合いありがとうございました。
ご意見賜われたら幸いです。

改めて、今年もよろしくお願い申し上げます。

(完)