meat goodbye.
たのしむことはあきらめた
つらい練習なんてまっぴらだ
それなら好きな人とディナーにいくよ
先日、やってしまった。
左脚を踏み込んだ瞬間に「ギュルンッ!!」と。
ふくらはぎが、ちぎれた。
これは、あれだ。
たぶん、いま話題の肉離れ。
体の中には37兆個の細胞があるらしいけど、一度離れてしまった細胞は、またいつか出会えるんだろうか。
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バンバン追い越していく。
この街と景色にこびりついた記憶から逃げるように、タクシーは明治通りをすすむ。いいぞ、運転手さん。すべて追い越してくれ。
帰りのタクシーの窓から原宿のイルミネーションがみえる。好きな人の誕生日の前日、閉店間際にかけこんでケーキを買ったお店、はじめてのダンスのパフォーマンス、うちのわがままで可愛い犬、はじめての行きつけの美容室、東京ではじめてできた友達の生き別れたお父さんに会ったのも、ぜんぶこの街。栄養失調で入院してしまったきり連絡がとれなくなってしまった友達は、今ごろどんなことに笑い、どんなことに悲しむのだろうか。
お元気ですか。僕は脚が痛いです。
一つ謝りたいことがあるんだ。二人でカップラーメンを食べたとき、残りのスープにご飯を入れて食べたら美味しかったよね。うちのご飯がカビていたことは悪かったと思ってる。
この日はぐっすり眠った。
*
次の日に病院にいった。
眠いしめんどくさかったのだけど、起きたらふくらはぎがパンパンに怒っていたので、やっぱり行くことにした。めんどくさがり屋の自分ともこれでサヨナラだ。
のそのそと歩いていたら、肉屋のお母さんに見つかってしまった。いつも電話で「はい!肉屋です!」と言って、決して店の名前を教えてくれない肉屋のお母さん。僕はここの焼売が好きだ。
「にいさん!どうしたの⁈」
「怪我しちゃいましたー」
「ちょっと!うちも大変だったのよ!」
といろんな話をしてくれた。立っているだけで結構痛いのだけど、たぶんいま僕はこの街で一番この肉屋の内部事情を知っている。人生いろんなことがある。
病院で診察をしてもらったら、先生がとびっきりの笑顔でおっしゃった。
「肉離れです!」
「ありがとうございます。」と返した。
だいぶ前から腰も痛かったので、レントゲンも撮ってもらった。
先生が笑顔で「曲がっているね!」とおっしゃったので「これは右曲りですか、それとも左曲りですか」と返した。右らしかった。
僕の背骨はだいぶ頑張っていたようだ。
右曲りになるまで頑張っていたなんて、なんていいヤツなんだ。
でも、ちょっと申し訳ない気持ちになった。
薬局では、店員さんが僕のところまで薬をもってきて会計をしてくれた。有難いと言うか、もう、ほんとうに助かる。
僕は、やさしい人が好きなんだと思った。
帰りに肉屋に寄った。
お母さんと話すのは、たのしい。
ここの焼売は、おいしい。
豚バラを300g買った。
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バンバン通り過ぎていく。
だれかの優しさと親切を。
いいぞ運転手さん、飛ばしてくれ。
どんどん追い越していく。
笑顔と整理できない気持ちを。
そうだ運転手さん、その調子だ。
その人の笑顔の理由を僕は知らないし、知る必要もないのかもしれない。
右手に湿布、左手に豚バラ300g。
これさえあれば、生きていける。
大丈夫。湿布を貼って、包帯を巻けば、立っていられる。
はちみつレモンが好きだ。
家に帰ったら、友達からメールがきていた。
なんていいヤツなんだ。
いますぐ会いにいきたいが、残念ながらmeat goodbye。
いつも言葉をかけてくれる人がいて
いつも言葉をかけていた人がいた
さよならの数は一緒にいた証拠で
その証拠に僕のふくらはぎはパンパンだ
いつだって一緒に踊ってる。
あきらめてゆっくり治すよ。ありがとう。
今日は疲れたので、好きな人と豚バラでも食べることとする。
タクシーの窓からみえるイルミネーションも、閉店間際にかけこんだケーキ屋も、東京ではじめてできた友達も、ぜんぶそれだけで最高だったし、やさしかった。あなたが笑っていようが、涙を流していようがその理由は僕には関係なくて、ただ話してほしかった。
だって、あなたを思うとこんなにたのしい。
運転手さんがおっしゃった。
「お気をつけて」
「meat goodnight」と返すこととする。
今日もぐっすり眠れそうだよ。
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