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男が「いつかJKになりたい」と思える2作品

今回は、青春物のアニメについて書こうと思う。
私にとって青春物の最高傑作といえる作品がふたつあって、それがどっちも甲乙つけがたいんだよ。
そのふたつの作品というのが、
・宇宙よりも遠い場所(制作・MADHOUSE、監督・いしづかあつこ)
・響け!ユーフォニアム(制作・京都アニメーション、監督・山田尚子、石原立也)
である。
奇しくも、両方とも女性が主人公、女性が監督という作品だね。

じゃ、まずは「宇宙より遠い場所」から触れておこう。
この作品は、NYタイムズ「2018年最も優れたテレビ番組」海外部門10選に入賞したことで有名かと。
文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品にもなったという。
まあとにかく、クオリティは業界のお墨付きってことだ。
しかし原作なしのオリジナルでここまでやるって、ホント大したもんだよ。

「宇宙よりも遠い場所」

この作品の一番のストロングポイントは何かといえば、間違いなくそれはキャストだろう。
・水瀬いのり(Re:ゼロから始める異世界生活)
・花澤香菜(PSYCO-PASS)
・井口裕香(とある魔術の禁書目録)
・早見沙織(魔法科高校の劣等生)
全員主演級ばかりで、実に豪華。
この4人組が作品のヒロインであり、彼女らが南極に行くというストーリーである。
恋愛要素は皆無で、純粋な友情物語だな。
この4人の中でぶっちぎりに印象に残るのが、やはり花澤香菜である。
もはや別格。
花澤さんはいつもの透き通ったヒロイン声ではなく、ここでは敢えて低い声を出していて、それが見事にハマっている。
むしろ私は低い声の方が彼女の巧さが際立つと思っていて、「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」の黒猫役でもそうだったけど、不器用な女の子のキャラ表現が実に秀逸なんだわ。
この作品で有名なのが、神回とされる第11話。
かつてヒナタ(井口裕香)を退学に追い込んだ昔の友人たちが、彼女が南極に来て有名になった途端、まるで何事もなかったように接触を図ってきた。
それにキレたシラセ(花澤香菜)がドスのきいた声で啖呵を切るシーン。

泣けるアニメ企画でいつも上位に入っている、このシーン

私はヒナタと違って性格悪いから、ハッキリ言う。
あなたたちは、そのままモヤモヤした気持ちを引きずって生きていきなよ。
人を傷つけて苦しめたんだよ。
そのくらい抱えて生きていきなよ。
それが人を傷つけた代償だよ。
私の友達を傷つけた代償だよ。
今さら何よ。
ざけんなよ!

このシーンは、何度見ても鳥肌が立つ。
さらに、それを上回る神回とされる第12話。
南極で遭難して亡くなったシラセの母が生前使っていた、形見のパソコンを基地で発見した4人。
部屋にひとり残ったシラセは、パソコンを開く。
すると、今までずっと自分が死んだ母宛に送ってきたメールが、パソコンに一気に着信し始める。

溜まっていた未読メール、その数は1000を超えていた
それを見て、「お母さん、お母さん」と叫びながら嗚咽するシラセ
シラセが嗚咽し続けるのを聞きながら、部屋の外で声を殺して号泣する3人

この時も、花澤香菜の嗚咽がめっちゃ巧いんだよなぁ。
これ見て泣かん人は、多分この世におらんだろう。
また、この時にかかる音楽も切なくていい。
この演出、いしづかあつこって天才じゃね?

「響け!ユーフォニアム」主人公の黄前久美子

さて、次は「響け!ユーフォニアム」だ。
これは制作が京アニなので、もうその時点で一定のクオリティは保証されている。
この作品は、何といっても主人公の黄前久美子に尽きるだろう。
非常に珍しいヒロイン像なんだ。
ヒロインのくせに、キャラがモブなんだから。
ホント、ただ傍観してるだけなんだよ。
最初から最後まで、特に彼女は活躍しない。
吹奏楽部内で様々なトラブルが生じ、その渦中に彼女は身を置くものの、別に彼女がそれらのトラブルを解決するわけじゃないんだよ。
トラブルは、彼女の関与とは無関係に解決されていく。
彼女は、ただ振り回されてオロオロしてるだけの存在なんだよね。
彼女よりももっとヒロインっぽいキャラは他にいて、たとえばトランペットの高坂麗奈だったり、未経験者の加藤葉月だったり、オーボエの鎧塚先輩でもいいさ。
実際、映画「リズと青い鳥」では鎧塚先輩がヒロインになってて、そこでの大前久美子はセリフがひとつだけの完全なモブだった。
まぁ言ってみれば、この「響け!ユーフォニアム」という作品は彼女がモブからヒロインへと脱皮していく過程を描いた物語ということさ。

映画「リズと青い鳥」は「ユーフォニアム」のスピンオフ
鎧塚先輩を演じる種崎敦美の凄みを思い知らされた名作である

これが男の作家なら、主人公は間違いなく滝先生に設定するよ。
弱小吹奏楽部を鍛え上げて、全国レベルの強豪へと導いた先生目線での青春サクセスストーリーにしがちだよね。
ところが女性作家は、そういう作りにしないわけだ。
いやいや、こういうところがホント女には敵わんよなぁ・・。

で、このヒロイン黄前久美子を演じたのが、黒沢ともよ。
今でこそ黒沢さんは有名声優だが、この「ユーフォニアム」の時点での彼女はまだ無名だったはず。
おそらくオーディションで主役に選ばれたんだろうが、脇を固める声優さんたちがみんな有名な人たちばかりで、きっと黒沢さんも恐縮しただろうね。
だけど、逆にそういう恐縮してる感が大前久美子像には合ってたというか、
黒沢さんのモブっぽさが合ってたというか、意外とうまい人選だったと思うよ。
彼女はもともと女優さんで、演技の巧い人なんだろう。
子役出身で、女優としての芸歴は長いらしい。
私が「巧いなぁ」と思ったのが、自宅で両親や姉と会話するシーンである。
家庭内での女子特有の愛想のない空気感、これがめちゃくちゃリアルで私は笑えたんだけど。

でさ、最初のうちはどこか冷めてた黄前が、周囲に感化されてだんだんと
「うまくなりたい」と思っていく過程を黒沢さんは生々しく演じてるのよ。
ひょっとして【吹奏楽部における黄前久美子=声優界における黒沢ともよ】なんじゃないか?と感じるほど。
女優本業の黒沢さんが、だんだんと「声優としてうまくなりたい」と思ってるかのようで、このへんはややドキュメンタリータッチだよね。
そして遂に黄前が爆発するのが、あすか先輩に吹奏楽部を辞めさせまいと
食い下がる例のシーン。

大好きなあすか先輩に噛みつく黄前久美子

子供で何が悪いんですか!
先輩こそ、何でオトナぶるんですか!
全部分かってるみたいに振舞って、自分だけが特別だと思い込んで、
先輩だって、ただの高校生なのに!

改めて黄前のセリフを見ると、全然大したこと言ってない。
なのに、何でだろう。
このシーンは、めちゃくちゃ鳥肌が立つのよ。
子役をやってきた黒沢さんが、「子供で何が悪いんですか!」と啖呵を切ることのリアリティ。
まさに本領発揮、といったところだろうか。
おそらくだけど、この時点での黒沢さんてまだ声優経験が浅くて、技術的には彼女より巧い人なんて、他にいくらでもいたと思うのね。
それでも彼女を山田尚子監督が抜擢した理由って、やっぱり【黒沢ともよ=黄前久美子】を感じたからだと思うんだ。

黒沢ともよ

案外、声質や技術といったものより、声優さん本人のキャラや背負ってきた人生みたいなものが抜擢の決め手になることもあるんじゃないだろうか。
そういや昔、何かのテレビ番組で「攻殻機動隊」の少佐&バトーを演じてた田中敦子さんと大塚明夫さんのふたりがゲスト出演してたのを見たんだ。
おふたりのビジュアルを見るのはその時が初めてだったんだけど、第一印象は「うわっ、これってリアル少佐&バトーじゃん!」という感じだった。

田中敦子&大塚明夫

田中さんは凛として強いタイプの美女だったし、大塚さんはワイルドながらも優しさを滲ませた超絶ダンディ。
まんま、少佐とバトーのキャラじゃないか。
その時思ったのよ。
キャストの選抜基準って、声だけでないんじゃないか、と。

ちょっと話題は変わるが、「ユーフォニアム」の声優といえば、後藤先輩の声に皆さんは違和感を感じなかったか?

後藤先輩
後藤先輩役を演じた、声優・津田健次郎

まず後藤先輩の重低音ボイスを聞いて、「こんなオッサン声の高校生は
おらんやろ」と誰もが思ったはずだ。
しかも演じてるのが、あの津田健次郎だぞ?
津田さんといえば、「3度のメシより人を殺すのが好き」というキャラを
今まで数多く演じてきた悪役のスペシャリストである。
ここに敢えて津田さんを起用したということは、つまりクライマックスには後藤先輩が部員たちを次々と殺していく展開になるぞ!と思ってたんだが、そうはならなかった。
後藤先輩は、普通にいい人でした・・。

しかし「ユーフォニアム」も「宇宙より遠い場所」も、本来ならアニメより実写ドラマ向きの素材だよね。
何で実写化しないんだろ?
ただ実写化したところで、おそらくアニメの水準は超えられないだろう。
それほどに、この両作品における声優たちの演技は神懸かってるから。
今後、この両作品を超える青春物が出てくることを期待してます!

私が「ユーフォニアム」でダントツに好きなのが鎧塚先輩だ
青春物に出てくる女子グループは、必ずといっていいほど輪になって寝転ぶ

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