マガジンのカバー画像

山際響:短編集

26
山際響の短編まとめです。
運営しているクリエイター

#蛙

飛行機雲

飛行機雲

 雨上がり特有の土の匂いが、開いた窓から流れ込んできた。
 秀樹が顔を上げると、プラスチック制の水のない水槽が、白いレースのカーテンに撫でられている様が見えた。カーテンと水槽が擦れる音を聞きながら秀樹は窓を見た。カーテンの合間から見える空は、まるで溶鉱炉のように赤かった。次に水槽の中で佇んでいる黄色と黒の肌を持つカエルを秀樹はしばらく眺めていたが、空からの飛行機の音で、集中が途切れた。秀樹は立ち上

もっとみる
夏の淫らな蛙

夏の淫らな蛙

 あの夏、私は一人の男を穴に閉じ込めた。
 私も他の多くの人々と同様に、私の心を深く傷つけるものは、残念ながら死んでも仕方がないと思っている人間だった。
 
 あの日、私は自分の家へと続く畦道を歩いていた。私の両脇から水田に潜む夏蛙の鳴き声が聴こえてくる。一体どうして夏蛙の声はこんなにも私を落ち着かせてくれるのだろう。蛙の鳴き声など、煩いだけだろう、とある友人は言ったが、私はそうは思わない。人の意

もっとみる