見出し画像

オバハン、デスメタルに驚く

 それは、去年まだコロナがまだ始まっていない年末にさしかかる頃の事でした。私達のバンドは、外国人に招待されて香港の離島にライブに行きました。

メンバーの誰とも知り合いじゃない外国人からFacebookのファンページにお誘いが来て、「離島遠征!?」と浮足立った私達。

去年は、デモが過激化して暴動が至る所で巻き起こっていた香港。

ちょうどこの頃、複数の大学で立てこもりが起こり、一番大規模な理工大学での激しい攻防戦が繰り広げられ、武器庫から武器を略奪して、弓矢を警察官に向けて打ったり、レンガを投げて一般人を怪我させたりという事があった相当危ない時期。

画像1

暴動に巻き込まれたら、という恐怖から、離島に行ったらその夜はそのまま島で一泊して、翌日、日中の移動にしようという話になり、泊りでの遠征ライブとなりました。

メンバー四人の他に、こんな危ない状況なのに(信号機があちこちで破壊されバス移動がままならなくなっていました)応援にかけつけてくれた友人達と一緒にフェリーに乗り込み、いざ離島へ。

島に到着して歩いて行くと、ちっちゃいレストランバーで、ライブステージはなく、店の入り口を塞いで、そこにドラムセットが置いてありました。

裏口からお店に入ると、私達に声をかけてくれた外国人Eさんが店のスタッフと話していました。どうやら、そのバーは西洋人がオーナーのようで、店のスタッフも西洋人です。

私達を見ると「Hey!」とすぐ気づいて寄って来て、お互いに挨拶。

呼ばれて行ったのに、「あ~、よく来たね~まあ、楽しんでいって」的な軽い感じでした。(・・・や。多分。英語わからんから知らんけど。)

その日は5バンド出演予定で私達は2番目。7時過ぎからです。

うちのドラムは、お店のスタッフに

「君がドラムかい?じゃあこのドラムセット任せたから」と完全バラバラ状態のドラムをセッティングさせられています。

(うわ・・最初からカオス・・・)

雰囲気に気圧されながらも、まだ一時間半くらいあったので私たちは、そのお店でご飯を食べることにしました。サラダやピザや肉、そして酒。(私はお酒飲みませんが)

料理が出そろう頃には、セットを終えたドラムも合流し

「カンパーイ!!」

と、もう既に打ち上げ的な感じで始めたのに、周りではお店のスタッフがどんどんテーブルを片付けていきます。

あれよあれよという間に、ライブ空間でテーブルが出ているのは私達のトコだけになり、それも早く片付けたそうに、横に立って私達が食べるのを見ています。

「あれ?今料理揃ったトコですけど?・・」

なんて申し開きが出来そうな空気でもなく、私達を呼んだEさんも苦笑いしています。さすがの私達も食事を楽しんでいる場合ではなさそうだと、残りを掻き込んで慌ただしいディナーを済ませました。(・・やっぱりカオス)

すると、あごひげを生やした、いかにも機材に強そうな香港人男性が、機材のセッティング、テスト、男性が一人でギターを3つあるアンプに順番に繋いで相性確認しながら、マイクのボリュームの調整などを他のスタッフに指示を出しています。別の香港人がドラムをチェックし始めました。

そうしている間に、周りにはたくさんの外人さん達が立っていました。

ギュワギュワギュワギュワギュワ~~~~~~~♪

と試し弾きにしては、耳障りが過ぎる大音量の不協和音が掻き鳴らされたかと思ったら、それがそのまま、ドえらく調子の外れたアメリカ国歌を奏で始めました。

「?????」

あ?これがトップバッターのバンドか!?

バンドと言ってもギタリスト一人、ドラム一人で、二人の演奏は全く合っていませんが。

その余りに意表をついたパフォーマンスに、私はメンバー達と顔を見合わせながら見ていると、それらがいつの間にか曲っぽいものになっています。

進むにつれて、バラバラにやっているように見える中に、一つの形が出来上がっている事に気づきます。(耳が慣れてきたっちゅうか・・)

そして、一曲一曲が短い!1~2分くらいで突然打ち切られるように終了します。私達のライブの応援で来てくれた先輩級ベーシストが、

「デスメタルって割とこういう感じなのよ。自分の思いの丈をぶつけるだけぶつけてあっさり終わるのよ。」(注:先輩は男性です)

と教えてくださいました。

これまで「デスメタル」というジャンルは名前は知っていたものの、メロディーがあってないような、ボーカルはただ怒鳴り、楽器はただ鳴っているくらいのイメージしかありませんでした。

トップバッターのそれも「デスボイス」という程のデスさはなく、ただ男声の全魂込めたガナリ声なだけですが、楽器もただ掻き鳴らしてるだけのようであって、あれ?実はテクニシャンなのか?と思わせるぐちゃぐちゃなだけではないものを感じさせます。

だんだん、彼らの潔いまでの短い曲が心地よく、上手く聞こえてきます。

ヘビメタの私達が出したことのない程の大音量もだんだん気にならなくなってきました。

「え~、デスメタルいいじゃ~ん!」

って気持ちになりました。

しかも、周りの外人さん達はどうやら彼らのファンのようです。とてもエンジョイした様子で、ノリどころのよくわからない曲にノッて身体を揺らしています。

それに続いた私達。まず自分でもトップバッターの二人とは比べ物にならない自分達の音圧のなさに唖然。私たちは人数だけでも彼らの倍いるのに音圧が全く足りません。そしてチカチカ光るミラーボール的なスポットライトで、手元も全く見えません。

見ている人もそれなりに乗ってはいて、自分達もいつも通りの演奏はしているものの、先のデスメタルのあの圧倒的大音量から比べれば、私たちのヘビメタなんて、静かな子守唄みたいなもんです。

私の脳内ではお通夜のような静けさでした。

失敗したわけではないのに、不完全燃焼感が強く残ったライブとなりました。

先輩からも「今日初めてあ~た達の演奏が正統派に思えたわ」と言われました。

耳をつんざくような爆音で、演奏なのか遊んでいるのかわからないようなパフォーマンス、技術の問題ではない会場全体を喰ってしまう「ぶちかます」事の重要性を学びました。(←やっぱり私達マジメだな・・)

ま、ライブも無難に終わり、みんなで深夜までワイワイ飲み食いして楽しい思い出にはなりましたが、デスメタルインパクトは深く私の心に残ったのです。

画像2

そして今年、このコロナで、在宅を機にこれまで邦楽ロックばっかりだった私は洋楽も勉強しなおそう、と色々聞き始めました。

そんな中、私がパフォーマンスのお手本にしているギタリストを検索していた時、尊敬するアーティストに書いてあったのがマイケルアモットというギタリストでした。

調べてみると、アーチエネミーというメロディックデスメタルのギタリスト。ヨウツベ先生でチェックすると、美しい女性ボーカル。

(ん?女性なのにデスメタル?)

とそそられて聴いてみると、女性なのに、まさにデスボイス!

そしてメロディックとつくだけあって、楽器隊が奏でる美しいメロディライン。その対比に、今度こそ引き込まれました。

(女性でも、あんな声出せるんだ!)

と興味が湧き、ちょっと出してみようとしたら、一発で喉を傷めました。(良い子の皆さんは真似しないでね)

下のアーチエネミーのビデオをご覧になれば、デスボイスがどんなボイスかご理解いただけますが、デスボイスの説明を読みたい人はこちら

というわけで、ずっと敬遠してきたデスメタルがココに来て好きになりましたオバハンです。



デスボイス繋がりで、本日の記事の最後は

日本が誇るコアメタルバンド、マキシマム ザ ホルモン

で締めくくりたいと思います。

超クールな楽曲とデスボイス。それなのに、ボーカル、ギターの亮君とドラムのNAOさんが実の姉弟で、この二人を中心に繰り広げるサザエさん劇場的なほのぼのしたやり取りが超絶かっちょいい曲との激しいギャップを産んで、何故か和んでしまうバンドです。

お茶目で可愛いメンバー達。

曲は「これからの麺カタコッテリの話をしよう」です。痛風をこれだけカッコよく歌い上げるのは世界広しといえども彼らくらいでしょう。ではどうぞ!


サポートしていただけるとありがたいです。