僕の彼女はミノムシ vol.3ミノムシと音楽

ミノムシは今日の午後は1時間、ミノである布団で休んだだけで元気だった。ミノムシは音楽聞きながら絵を描くのが好きで、jazzやヒーリングを聞いている。今日は珍しく歌もので浜崎あゆみを聞いていた。
「絵が進まないね」
『アユはBGMにならないんだよ。歌詞の1つ1つに引き寄せられるんだよ。それにてっちゃんの曲だからかな。胸にグッとくるんだよ』
ミノムシは小室哲也を「てっちゃん」という。僕としてはあまりよく思えない。昔はglobeのファンだったから尚更。それを言うと、
『ファンじゃない。KEIKOになりたかった。KEIKOのキーは私のキーだもん』
その隣にいたのは誰なのか。でも、僕はミノムシが唄うglobeを聞いてるのが好きでもあった。僕は複雑な思いだった。

今はスピーカーの前の机に向かって椅子に座って聞いているミノムシ。
昔はその手にブックレットがあってCDと一緒に唄っていた。足でステップを踏んでもいた。
ミノムシは『音楽に恩返しがしたい』と言っていた。ボイトレを受けて、チャリ乗ってても、家でも唄っていた。チャリに唄いながら乗るなんて怪しいやつである。家で唄うなんて近所迷惑でもある。
『うん。近所の人には、「あのお宅の娘さんは」って言われてたでしょ』
僕の実家はその近所でミノムシはご近所で評判、の「歌のうまい娘さん」だったのだ。どんな意味が含まれているにせよ、上手かった。

しかし、ミノムシは再会したときには唄うのをやめていた。 ミノムシに何があったのかわからない。僕は実家を出ていた。この町で一緒に暮らすようになって聞いてみた。
「何で歌わないの?」
『もう1曲唄いきれる熱さがないんだよ』
寂しそうにボソッと言った。
僕が町を出てミノムシと離れていた5年の間に何かがあった。尋ねると『私のヒミツ』と言って口元を上げて笑った。それが作り笑いであると僕が気がついてることをミノムシは知らない。

ミノムシは僕とまじわったあと、globeの"ひとりごと"をささやくように口ずさむ。それが心地よかった。

ミノムシは歌をたくさん知っていたわけではない。
実家にいた頃、カラオケによく行ったけれど、いつも同じ歌を唄っていた。ミノムシの心に届いた、ミノムシの心の歌があったんだ。ミノムシが歌ってきた音楽は大切なものなんだ。
僕と言えば、歌は下手でミノムシに"黄昏ロマンス"と"ハネウマライダー"と"蝙蝠"を唄って、と言われてそれは歌えた。練習した。

ご飯の時だけだ。僕の部屋で音楽がかかっていないのは。それ以外はずーっと音楽がある。ミノムシは頭痛の時は森の音のヒーリングを聞いている。お風呂も防水スピーカーで流している。

今日はアユを聞いているミノムシ。クレヨンの箱を開けているけれど、画用紙には青いボールペンで歌詞がメモしてある。それはイイ感じの言葉だった。
時々『WOWow』と勝手にフェイクをいれる。突然声を出すので僕はビックリしていた。
ミノムシは心の中で今でもずっと唄っているんだ。

僕はミノムシがもう一度歌えばいいのにな、と思う。諦めきれない夢であるのを僕は知っている。

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