坂内 佑太朗|Yutaro Bannai

ニューヨーク州立大学ジェネセオ校 経済学&黒人史

坂内 佑太朗|Yutaro Bannai

ニューヨーク州立大学ジェネセオ校 経済学&黒人史

最近の記事

vol 12. 1967年の人種暴動と'68 Kerner Commissionが予言したアメリカの未来

vol 12.では今日のBlack Lives Matter(以下BLMと省略)の歴史的背景,特にキング牧師が暗殺される前年1967年に起きた人種暴動とそれによりリンドン・ジョンソン大統領によって結成されたKerner Commisionによる報告書ついて書きます。伝えたいのは,George Floydさんの死に端を発する今日のBLM抗議運動ですが,黒人にとって「抗議」と言う2文字は数世紀前から宿命づけられていると言っていいほど身近な存在であり,平等への戦いは今になって絶頂期

    • vol 11. アメリカで黒人のまま生きる

      アメリカ・ミネソタ州で黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警官に暴行され窒息死した事件をきっかけに,人種差別に抗議する声や運動は全米のみならず,世界中に広がっています。しかし,アメリカにおいて黒人への警官暴力は特に珍しいことではありません。Black Lives Matterというスローガンは2012年以降にSNS上で生まれ,今や「黒人の命は大切」と邦訳までされて国内の新聞やメディアの一面にまでその名を刻んでいます。もちろん黒人が不当に殺害されている事件は今回が初めてではなく

      • vol.10 黒人男性と白人女性という構図

        2020年になってからアメリカでは長年に渡り続いてきた人種差別問題が一層明らかになってきています。5月25日にミネソタ州で亡くなったGeorge Floyd氏や,ジョージア州でランニング中に射殺されたAhmaud Arbery氏,そしてケンタッキー州のBreonna Taylor氏の死など。また,新型コロナウイルス による死者数の大半を黒人が占めている事実も人種間における医療レベルや居住区,職業格差を明らかにしています。今はFloyd氏はの死をきっかけに,全米のみならず世界中

        • vol 9. 奴隷制と分断されるアメリカ

          vol 1~8.では現代のテーマを扱ってきました。vol 9.では南北戦争前のアメリカに時代を戻します。1861年4月から4年後の1865年4月まで,アメリカは北部のアメリカ合衆国(United States of America)と南部のアメリカ連合国(Confederate States of America)の2つに分断され,未曾有の米国人戦死者を出すことになる戦争南北に突入しました。この北部と南部の間の溝を広げた非常に重要なひとつの問題として奴隷制が挙げられます。今回

        vol 12. 1967年の人種暴動と'68 Kerner Commissionが予言したアメリカの未来

          vol 8. 続・BLMの抗議運動

          vol 7.でBlack Lives Matter(通称:BLM)の誕生とソーシャルメディアによる新たな闘争の形に触れました。vol 8.でも引き続き,BLMの抗議運動をまとめてみます。 BLMと政治家 抗議運動と言うと,行進や座り込みなどをイメージするかと思います。また,BLMの抗議運動の多くも,非暴力による直接行動と言う抗議形態を取っています。一方,実例は少ないですが,BLMの活動家が白人政治家の集会に乱入した事件もあります。最も顕著な例は,2015年8月8日にシアトル

          vol 8. 続・BLMの抗議運動

          vol 7. Black Lives Matterの誕生と特徴

          vol 6.ではBlack Lives Matter(通称BLM)誕生のきっかけとなった,黒人射殺事件を取り上げました。今回vol 7.では,BLMの発足と彼らが用いてる様々な抗議手段についてまとめていきます。 BLMの創設者 まず,BLMの創始者を紹介しましょう。Patrisse Cullors氏,Alicia Garza氏,そしてOpal Tometi氏の3人です。1950-60年代の公民権運動と大きく異なる点は,まずこの創始者3人ともが黒人女性であるということです。ま

          vol 7. Black Lives Matterの誕生と特徴

          vol 1. ザックリとした黒人史

          vol 1.では,あまり馴染みのない黒人史を,ザックリと要点を取り上げながら説明します。日本で黒人史という学問を耳にする機会は少ないかと思いますが,アメリカ合衆国が誕生する以前(英国植民地時代)から存在してきた歴史の長い学問です。 黒人の呼称アメリカで言う黒人とは,「アフリカ系アメリカ人」を指し,アフリカ出身の黒人,もしくはその子孫であるとされています。一般的な呼称は,African-Americanであり多くの米大学で,学部名として用いられています。また,BlackやBl

          vol 1. ザックリとした黒人史

          vol 4. 不公平な暴力の背景

          vol 2,3では現代社会に蔓延している,警官による黒人への過剰暴力を取り上げてきました。vol 4ではその歴史的背景に,私なりに迫ってみます。数多くの説がある中で,私が最もそれらしいと考えるものを紹介します。 囚人貸出制度1865年4月Appomattoxで南軍のR.E.リー将軍が北軍のU.グラント将軍に降伏し,南北戦争が終わりました。敗れた南部は米国政府主導の下で再建期を迎え,人種平等や黒人議員の選出などの改革を迫られますが,1877年に政府が撤退すると白人至上主義団体

          vol 4. 不公平な暴力の背景

          vol 3. 増え続ける暴力と奇妙な理由

          vol 2に引き続き,今回も警官による黒人への過剰暴力/殺害をテーマに取り上げます。vol 3では,個々の事件ではなく,その全体図に迫ってみます。 <1,400字> 警官による射殺の実態アメリカにおいて黒人が警察により殺害される事件の全体図を見てみましょう。まず知ってもらいたいのは,法執行機関がアメリカ全土における警官による殺害,又は暴力の統計データを収集し損ねていることです。各州や各群によって,殺害を報告する基準が異なり,殺害方法によっては報告を義務付けられていない地域も

          vol 3. 増え続ける暴力と奇妙な理由

          vol 2. 警察による黒人への暴力

          アメリカでは,2012年より黒人の権利や人権を訴える抗議活動"Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)"が大きな社会運動となっています。この抗議運動は,主に「警察による黒人への暴力又は殺害」というSystemic Racism(制度的人種差別)に端を発しています。あえて構造的と言い表す所以として,現代の黒人差別は"個人"の偏見ではなく,差別要素を含む法律や制度によって社会全体に人種差別が蔓延している特徴的な現象が挙げられます。今回は,制度的人種差別の

          vol 2. 警察による黒人への暴力

          vol 6. 黒人の死と動き出す黒人社会

          Black Lives Matterは警官の黒人に対する過剰暴力に抗議すべく,SNS上で誕生しました。そのきっかけとなった黒人射殺事件を今回は取り上げます。 Trayvon Martin氏の死2012年2月26日。フロリダ州Sanfordで当時17歳だった黒人青年Trayvon Martin氏が,ヒスパニック系で当時28歳だった白人の元自警団員George Zimmermanにより射殺されます。26日の夜,フードを被っていたMartin氏は近くのセブンイレブンでSkittl

          vol 6. 黒人の死と動き出す黒人社会

          vol.5 黒人コミュニティと居住区の不平等

          高級住宅街と貧困街。アメリカのみならず世界各国,そして日本にも居住区域間における経済格差や公衆衛生の違いが存在します。各地区や通り一本を挟むだけで,受けられる公共サービスに違いが生まれています。貧困地区では,公立学校の質や医療レベルが低く,新鮮な食料が手に入りづらい,衛生環境が整っていないなど様々な問題を抱えています。今回は,アメリカにおいて郵便番号がもたらす人種間の棲み分け問題に触れてみることにします。 はじめに,南北戦争後のアメリカまず時系列順にお話しします。19世紀の

          vol.5 黒人コミュニティと居住区の不平等