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vol 1. ザックリとした黒人史

vol 1.では,あまり馴染みのない黒人史を,ザックリと要点を取り上げながら説明します。日本で黒人史という学問を耳にする機会は少ないかと思いますが,アメリカ合衆国が誕生する以前(英国植民地時代)から存在してきた歴史の長い学問です。

黒人の呼称

アメリカで言う黒人とは,「アフリカ系アメリカ人」を指し,アフリカ出身の黒人,もしくはその子孫であるとされています。一般的な呼称は,African-Americanであり多くの米大学で,学部名として用いられています。また,BlackやBlack American,Afro-Americanなどもあります。長年,NegroやColored Peopleという呼称も使われていましたが,1980年頃にほぼ姿を消しました。しかし,2010年の国勢調査ではNegroという人種区分が使われ,抗議が殺到しました。

こちらの米・TIME誌では,国勢調査の際に用いられる人種の選択肢に関する意見が述べられています。一方,実際に56,000人以上の方がNegroと選択し,アイデンティティを示す言葉だと見る向きもあります。

また,黒人を侮辱的に意味する中傷語としてNワードがあります。もし知りたい場合は,ご自身で検索してみて下さい。

黒人史に触れる

これから,一緒に黒人史を学んでいけると嬉しいです。それではまず,歴史の大枠からお話ししましょう。

黒人の歴史は1619年に奴隷制として幕を開け,1865年に合衆国憲法修正第13条をもって公式に廃止されます。246年間を奴隷の身分として耐え凌ぎ,そして今日2020年までの155年を名目上,自由の身分で過ごしてきました。厳密に言うと,1619年に英領ヴァージニア州に連れてこられた最初の20人のアフリカ人は奴隷ではなく年季奉公人(一定期間の奉公が終われば自由の身になれる)として雇われていました。昨年2019年は,奴隷制が誕生してから400年目であり,改めてアメリカ奴隷制の歴史を認識するために,米・New York Times紙がThe 1619 Projectを主催しています。

しかし,人種間における奴隷制への移行は避けられず,1641年にマサチューセッツ州が初めて奴隷制を合法化し,それからは綿花やタバコなどの農作物の労働力として,アフリカ人奴隷は動産(不動産以外の物や財産)として拡大しました。その後もAtlantic Slave Trade(大西洋奴隷貿易)により,1807年までアフリカ大陸から奴隷が運ばれ,1861年に南北戦争が勃発した際には,最終的に約400万人の奴隷が北アメリカには暮らしていました。奴隷制の歴史をナショナル・ジオグラフィック誌が簡潔にまとめています。

1865年には北軍が勝利し,リンカーン大統領の奴隷解放宣言に支えられ,修正13条により憲法上では奴隷制が幕を閉じました。新たに自由となった元奴隷はFreedpeopleと呼ばれます。しかし,憲法改正は必ずしも黒人への差別や暴力の終わりを意味せず,それから数世紀にわたって幾重もの壁を乗り越える必要がありました。戦後の南部再建が1877年に終わりを迎えると,南部はKu Klux Klanに代表される白人至上主義団体や人種差別制作を押し進める当時の民主党に牛耳られるようになります。

そして,人種隔離を徹底すべくJim Crowという法律が多く制定されます。しかし,1950-60年代の公民権運動では多くの活動家によるおかげで,3つの人種差別を禁じる法律が制定されました。すると,人種差別は次第に目に見て分かる明らかな差別形態から,制度に組み込まれた構造的人種差別へと巧妙に変貌しました。現代社会に蔓延する,その最たる例が警官による黒人への過剰暴力であり,それに抗議するBlack Lives Matterが大きな波紋を呼んでいます。

余談ですが,1995年まで米・ミシシッピ州は奴隷制度廃止の条項を州憲法に含んでいませんでした。1865年の時点では,ミシシッピ州議会は奴隷廃止を否決し,130年後の1995年にアメリカ最後の州として奴隷制の廃止を公式に承認したのです。

終わりに

さて,vol 1.では黒人史をザックリと振り返りました。但し,黒人の歴史は必ずしも負の側面のみで語られるのでは不十分であり,ジャズやブルース,ゴスペル,ヒップホップなど現代にも残る文化的功績や文学作品も数多くあります。20世紀初頭には南部から約600万人の黒人が北部の都市部へ移動し,各地で多く芸術的作品が生み出されました。最も活発な都市の1つであった,ニューヨーク市ハーレム地区にちなんで,その時期をハーレム・ルネサンスと呼びます。

次回は,現代社会の闇・警官による黒人射殺事件についてまとめます。それでは,またお会いしましょう。

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