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vol 2. 警察による黒人への暴力

アメリカでは,2012年より黒人の権利や人権を訴える抗議活動"Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)"が大きな社会運動となっています。この抗議運動は,主に「警察による黒人への暴力又は殺害」というSystemic Racism(制度的人種差別)に端を発しています。あえて構造的と言い表す所以として,現代の黒人差別は"個人"の偏見ではなく,差別要素を含む法律や制度によって社会全体に人種差別が蔓延している特徴的な現象が挙げられます。今回は,制度的人種差別の一例である,警察による黒人射殺の事例を取り上げましょう。<1,584字>

Ahmaud Arberyの射殺事件

まず直近の事件として,Ahmaud Arbery氏の事件を見てみましょう。25才の黒人男性であるArbery氏は,今年2月23日ジョージア州ブランズウィック市で,ジョギングしていた最中に,白人の父子により射殺されました。白人父子はArbery氏が強盗事件から逃げる犯人だと勘違いし,殺害したと述べています。そしてこの2人は,今月7日になって初めて起訴・逮捕されました。

空白の2ヶ月

さて,ここで奇妙な点が浮上します。白人父子の逮捕に至るまで,2ヶ月以上の空白期間が生じているのです。逮捕に至ったきっかけは,5月7日に公表された事故当時の様子を捉えた映像でした(ネット上でも閲覧可能)。その動画には,路上で銃に撃たれるArbery氏が映っており,この2日後に白人父子は逮捕されました。

もし,この動画が公表されていなかったら今回の逮捕に至ったのかと問われると,それは甚だ疑わしいです。実際の映像が無ければ,証拠として提出出来ないだけでなく,現代のアメリカ社会の闇を照らすことも出来なかったでしょう。つまり,公然と日中に黒人が急襲され,そしてその場凌ぎの言い訳で逮捕を免れると言った明らかな白人優越社会の一片を,動画があるからこそ目撃できるのです。死をもって人間の尊さが証明されるようでは,いつまで暴力の元に晒せ続けられねばならないのでしょうか。

黒人にとっての正義とは

また,米・Wired誌のJason Parham氏が興味深い見解を述べています。

Justice for black people often requires an accelerant—your story alone is never enough(邦訳:米国では黒人に対する正義が追求されるには、必ずそれを後押しする「何か」の存在が必要になる。人種に基づいた差別があったという事実だけでは不十分なのだ。)Wired日本語版より引用

その"accelerant"に値するものは,射殺された映像や写真などを指します。一方,歴史を振り返ると白人女性が黒人男性に襲われたと一言嘘をつくだけで,黒人がリンチにより殺された事件は数多くあります。

個人主義の白人社会

更に,米・The New RepublicのZoe Samudzi氏はアメリカの人種に切り込んだ意見を述べています。

Their public affronted pearl-clutching at and condemnation of the filmed horrors permits them to claim moral-political superiority over other whites(邦訳:撮影された射殺映像を咎め,それに驚愕する行為は,彼らが他の白人よりも道徳的かつ政治的優位性を主張することを可能にする)

しかし,その優越感はあくまでも感情の1つであり,実際に白人優越社会の瓦解をもたらすために行動を起こすこととは話が大きく異なるのです。

最後に,次回は個々の事件ではなく,警官により殺害される黒人事件の全体像に迫ってみます。それでは,また。

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