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vol 4. 不公平な暴力の背景

vol 2,3では現代社会に蔓延している,警官による黒人への過剰暴力を取り上げてきました。vol 4ではその歴史的背景に,私なりに迫ってみます。数多くの説がある中で,私が最もそれらしいと考えるものを紹介します。

囚人貸出制度

1865年4月Appomattoxで南軍のR.E.リー将軍が北軍のU.グラント将軍に降伏し,南北戦争が終わりました。敗れた南部は米国政府主導の下で再建期を迎え,人種平等や黒人議員の選出などの改革を迫られますが,1877年に政府が撤退すると白人至上主義団体などが勢力を増し,再び黒人に対する差別が横行します。アラバマ州モンゴメリーを拠点とする非営利団体Equal Justice Initiativeの調査によると,1877年から1950年の間に,約4,084人の黒人がリンチによって殺害されました。

そして奴隷制は形を変えて残ります。その最たる例がアメリカ南部におけるConvict Leasing(囚人貸出制度)です。ここでアメリカ合衆国憲法修正第13条の第1項を紹介します。特に太字になっている箇所に注目してください。

Neither slavery nor involuntary servitude, except as a punishment for crime whereof the party shall have been duly convicted, shall exist within the United States, or any place subject to their jurisdiction.
(邦訳:奴隷制および本人の意に反する苦役は、適正な手続を経て有罪とされた当事者に対する刑罰の場合を除き、合衆国内またはその管轄に服するいかなる地においても、存在してはならない。)
                     出典:American Center Japan

つまり犯罪者であれば奴隷制のような苦役を科し続けることが可能でした。この法の抜け穴により,南部の白人政治家は新たに自由の身分となった黒人を犯罪化する法律,Vagrancy Law(浮浪者取締法)を急いで制定し始めます。ホームレスや失業者,町中の浮浪者,泥酔者,大きな声で威嚇的に話す者など,多くの黒人たちを犯罪者とみなそうとしてきました。南部の収監者数が激増すると,囚人となった黒人は労働力として南部の工場や林業などに貸し出され,言うまでもなく白人経営者/地主層は大きな利益をあげました。この辺りから,黒人は犯罪者であるという幻想が流布し始めます。

偏見が蔓延る大衆文化

また,文化的側面として19世紀から20世紀初頭にかけて人気を博したミンストレル・ショーがあります。顔を黒く塗った(Black Face)白人が黒人をまねて踊った差別的な行為です。劇中の黒人は滑稽で蔑まれており,白人に仕える黒人女性(Black Mammy)や年老いた黒人男性(Old Uncle),差別的に描かれた黒人の子供たちが登場します。更に,アメリカ大衆文化にも黒人のステレオタイプが浸透します。差別要素を含む人形や絵本,アニメなどです。これら文化的差別の証拠に関しては,ミシガン州のFerris State UniversityにあるJim Crow Museumのホームページ,又は"Ethnic Notions"というドキュメンタリー映画を見てみると良いでしょう。

麻薬戦争

また,政治的側面からは,1970年代よりニクソン大統領がWar on drugs(麻薬戦争:南米の共産党政権転覆を目論みアメリカが麻薬を大量輸入し,同時に武器を輸出していた事実に関して,私は詳しくないので触れません)を宣言し,警察による取締りを一気に強化しました。アフリカ系アメリカ人の使用率が高い固形コカインに不公平な量刑を科すことで重犯罪とし,レーガン大統領もその勢いに拍車を掛けます。特に,南ロサンゼルス地区など,黒人の多い貧困地区をターゲットにし,ギャングが売買するドラッグを持つ黒人を刑務所に送り込み,いわゆる大量投獄が姿を表します。そして,出所後も様々な市民権を剥奪され,その後の生活を一層苦しいものに変えています。麻薬戦争に関しては,NHKが入門ドキュメンタリーを放送しています。

とうとうアメリカは世界一の収監数を抱えるようになりました。アフリカ系アメリカ人に対する大量投獄や,ドラッグの量刑,そして投獄がもたらす影響に関しては,NAACP(全米黒人地位向上協会)が簡潔にまとめています。

Presumption of guiltがもたらす幻想

話を冒頭に戻します。アフリカ系アメリカ人が警官に暴力又は射殺される割合が高い,そして犯罪者として投獄される数も他人種と比較して突出している特徴は,歴史的・文化的・政治的背景によって導かれていると私は考えます。そして,これらは"Presumption of guilt(自訳:有罪らしい)"という言葉に集約されるでしょう。日本で言う冤罪でしょうか。「きっと黒人だから何か犯罪を犯しているのではないか」「黒人だから怪しい」と言うようなステレオタイプです。そして,ぜひ時間がある人はアメリカの人権弁護士,Bryan Stevenson氏が書いた"A Presumption of Guilt"と言う記事を読んでみると更に理解が深まるはずです。

次回は,アフリカ系アメリカ人が直面してきたHousing Segregation(居住区における人種差別)について書きたいと思います。

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