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vol 11. アメリカで黒人のまま生きる

アメリカ・ミネソタ州で黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警官に暴行され窒息死した事件をきっかけに,人種差別に抗議する声や運動は全米のみならず,世界中に広がっています。しかし,アメリカにおいて黒人への警官暴力は特に珍しいことではありません。Black Lives Matterというスローガンは2012年以降にSNS上で生まれ,今や「黒人の命は大切」と邦訳までされて国内の新聞やメディアの一面にまでその名を刻んでいます。もちろん黒人が不当に殺害されている事件は今回が初めてではなく,南北戦争以前は奴隷制下における白人領主からの暴力,解放後は黒人の地位向上を阻む白人至上主義者によるリンチ(私刑),そして現代では警官による制度的差別と,アフリカ系アメリカ人はいつも「抗議」の歴史を築いてきました。今回は,ジョージ・フロイドさんの事件には言及せず,代わりにアメリカで黒人としていきている(Living while black)だけで直面する困難について書いてみます。アフリカ系アメリカ人の無害にみえる日常的な行動で警察に通報される事件をまず10件まとめてみました。

1. 黒人ベビーシッター

2018年ジョージア州アトランタ。白人の子供2人のベビーシッターをしていたCorey Lewisさんが,スーパーマーケットの駐車場で女性3人から「子供たちは大丈夫か?話をさせて欲しい」と聞かれ,その要望を拒否すると女性らは警官に通報しました。Lewisさんが彼の母親の実家に到着すると,追跡していた警官がやってきて子供たちに降車を要求し「大丈夫か?」と質問を重ねました。黒人男性が白人の子供と一緒にいることは"普通ではない"行為であり,それは通報に値する犯罪行為なのであれば,人種隔離の精神はまだ根強く生きてることでしょう。ちなみに,異人種間結婚を禁じる法律は1967年のラヴィング対ヴァージニア州裁判で米国最高裁が違憲としました。

2. イェール大学の黒人学生

2018年コネチカット州・ニューヘイブン。同大学院のLolade Siyonbolaさんが,論文執筆中に共有ルームで居眠りしていたところ,白人学生のSarah Braaschさんが「あなたはここにいるべきじゃない。警察に通報する」と威嚇し,実際に警官がやって来ました。警官は生徒IDの提供を要求するも,在籍していることを正当化する必要はないと拒否,その後警官が事務室に問い合わせたのちSiyonbolaさんがイェール大学の学生だということが判明しました。黒人が勉学に疲れ仮眠を取ると,通報されるのでしょうか?

3. スターバックス

2018年ペンシルベニア州・フィラデルフィア。商品を購入せずにトイレを使用し,その後も友人の到着を待っていた黒人男性のDonte RobinsonさんとRashon Nelsonさん2人が店長から退店を要求されるも,拒否したため営業妨害と不法侵入で通報されました。その後,黒人2人は手錠をはめられ逮捕・連行されます。トイレの使用は飲食されるお客さんのみ限定と言うルールは日本でも良く目にする光景です。しかし,守らなかったために逮捕されると言うのは果たして白人にも起こりうるのでしょうか?ちなみに,レストランなどにおける人種隔離は1964年の公民権法によって違憲とされるまで,White only & Colored onlyという看板を平然と掲げていました。

4. プラスチックのフォークとナイフ

2018年アラバマ州サラランド。Waffle Houseでプラスチック製ナイフとフォークの追加料金を請求され,それに驚き注文を止めた25才の黒人女性Chikesia Clemonsさんが店長に訴えるため電話をしようとした所,3人の白人警官が現れ彼女を逮捕しました。揉み合いになりClemonsさんの服は脱げ落ち,警官は反抗する彼女を抑えつけるために「腕を折る」と威嚇しました。黒人女性との些細な言い争いに怯えた店員が通報し,終いには上裸に近い状態へ,そして逮捕されるのであれば,いつになったら黒人は安心して白人のいるお店へ行ける日が来るのでしょうか?

Civil rights lawsuit filed over woman’s arrest at Alabama Waffle HouseChikesia Clemons was arrested in 2018 at a Saraland, Alabama,www.ajc.com

5. バーベキュー

2018年カリフォルニア州オークランド。春のお祝いとして地元の黒人家族が屋外でバーベキューやダンスを楽しんでいたところ,石炭を利用すべきでないエリアで使用していたため,近隣の白人住民より通報が入りました。誰1人逮捕されることはありませんでしたが,石炭を指定外の場所で使用していたことは通報に値することなのでしょうか?

6. フィットネスクラブ

2018年ニュージャージー州セコーカス。LAフィットネスというジムを利用していた黒人男性2人が正式にお金を払っていながらも警官により退店を命令されました。会費を払っていた黒人男性Tshyrad Oatesさんと,ゲストパスで利用していた友人の2人は入店時にしっかりとスキャンしたのにも関わらず,再度スキャンを要求されます。Oatesさんがジムを利用して以来,再度スキャンを要求された人を見たのは彼自身が初めてだったと言っています。シンプルに偽装パスで入店したことを疑ったのか,それとも当時黒人利用者は彼ら2人しかいなくそれを疑問に思ったのか,真相は分かりませんがこの事件に関与した店員3人は既に解雇されています。

7. 黒人の政治家

2018年ウィスコンシン州マディソン。選挙キャンペーンのためお宅訪問をしていた黒人女性議員のShelia Stubbsさんが,近隣の白人住民から麻薬密売人がいると通報され警官がやって来る騒ぎがありました。Stubbsさんは牧師として活動する傍ら,同州のデーン郡監督委員会のメンバーであり,現在は黒人女性としてウィスコンシン州議会の議員を務めてます。たすきがけをし,選挙名簿や活動用の服装をしていたStubbsさんがどうして麻薬を違法に売買する人に見えたのでしょうか。ちなみ,1970年代からニクソン大統領やレーガン大統領によって始められた麻薬戦争の結果,クラックコカインの不平な重刑化により大量投獄の被害を被ったのは,黒人やヒスパニック系でした。

8. 前オバマ大統領のスタッフ

2018年ニューヨーク州West 106th Street。ニューヨークの新しいアパートに引っ越しをしようとしていたDarren Martinさんが,段ボールを5階の部屋まで移動していました。その様子を疑い,同じ建物に住む白人住民が不法侵入している黒人がいると通報,そしてニューヨーク市警がやって来る事件がありました。警官はMartinさんの身体検査をした上,住民から武装した黒人が大きな武器を建物に持ち込んでいると通報を受けたと説明しました。実際にその建物は白人入居者が多いですが,自分たちのコミュニティに異人種が移り住んでくることを差別的に妨げることは1968年の公正住宅法によって違憲とされています。

9. 水を売る

2018年カリフォルニア州サンフランシスコ。路上で水を販売していたアフリカ系アメリカ人の少女Jordan Rodgersちゃんをに販売許可証の提示を求め,白人女性のAlison Ettelさんが通報。地元企業のTreatWell Healthに務めるEttelさんはRodgersちゃんが騒がしくしており注意するための行動だったと言っていますが,通報している様子がTwitter上に投稿されると,特定の人種を標的にした行為だと非難が集まっています。

10. ゴルフのプレイが遅い

2018年ペンシルベニア州ヨーク。5人の黒人女性グループが当州にあるGrandviewゴルフコースでプレイをしていました。その様子を見ていた男性のJerry Higgensさんが,黒人が非常にゆっくりプレイして他のプレイヤーの妨げになっている,そして普段は4人のところ5人でプレイしているのは普通ではないと警官に通報しました。逮捕者はいませんでしたが,黒人がゆっくりゴルフを楽しむことは犯罪なのでしょうか?

まとめ

次回にもっと多くの事例を紹介します。黒人が頻繁に通報される問題の根幹は,白人と黒人のどちらが怪しい行動をしているかどうかではなく,自ら対処することを避け,警官と言う公的権力を用いて解決しようとする事件にはかなり頻繁に人種問題が絡んでいると言う事実です。そして,アメリカで起きている不公平な警官暴力による被害を受けているのはジョージ・フロイドさんだけではないことは十分念頭に置いておくべき事柄だと私は考えます。偽札疑惑だけでなく居眠りや引越しなど私たちでさえ日常的に行っている行動が,主語がアフリカ系アメリカ人となった場合,それは白人の場合とは異なる結果をもたらすことが非常に多いのです。

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