香咲弥須子

Yasuko Kasaki. NY CRS(Center for Rememberin…

香咲弥須子

Yasuko Kasaki. NY CRS(Center for Remembering & Sharing ) A Course in Miracles. 著書多数。 yasukokasaki.com. crsny.org 旅文通マガジン『私たちの私の旅の私たち』始めました。

マガジン

  • 私たちの私の旅の私たち

    • 13本

    香咲弥須子+山本テオ、ふたりの旅文通。マンハッタンからそれぞれの地球へ。

最近の記事

ディア・ミスタ・バートルビー

ミスタ・バートルビーをご存知でしょうか。 一年半前に知って、深い衝撃を受けたその人をご紹介します。 彼は、何があっても、何を要求されても、攻撃せず、防衛せず、ただ一言、 “I would prefer not to do”. (日本語訳:「しない方がいいと思うのですが」「しないで済めばありがたいのですが」「遠慮させてくださいませんか」etc.) とだけ返す人なのです。 (たまに、”I prefer not to do”.「私はそれをしない方がいいのです」と少しだけキッパリし

    • サタンタンゴの雨

       12月某日。ニューヨーク。その朝、雨はまだ降っていたけど、予報ではもう止むはず。そして気温はかなり高かったのです。  小さい折り畳み傘を広げてさして外出すると、小糠雨の向こうに、雲がのびのびした形で広がり、間に青空も見えました。大通りの広い空に、雲間からくっきりとした青が現れた瞬間に立ち会い、iPhoneでパチリとしたい衝動を抑えました。  大通りの真ん中で立ち止まって撮影するのは褒められたことではないし、何より、十日前に同じ場所で転んでいたから。左腕をしたたかに打ち、痛

      • 私たちの平和憲法、私自身の掟

         福岡市の中心部、博多から広がる11月のイルミネーションは、延々と続き、マンハッタン顔負けの煌びやかさです(たぶん東京よりも? それはわたしには判断つきかねます。東京滞在中にわかるかもしれません)。  その輝きと、キャリーバッグと共に行き交う多国人の群れ、耳に届く多言語、駅や道路の特大サイズ、入り組んだ(と、イナカモノ、いえ、異邦人?のわたしには感じられる)地下鉄とバスの路線に、クラクラしながら、あちらこちらを走り回り、そして大勢の方々との深い交流を持った週末でした。  

        • 旅文通11ー(例えばレバノンの)森の記憶

           この一ヶ月で、世界がものすごいスピードで様変わりしていますね。  テオさん、ニューヨークのピンク(映画『バービー』ブーム)は跡形もなく消えましたよ。今はハロウィーン前のオレンジ色が至るところに。空き店舗と物騒なニュースは増す一方。Covidも伝染力をますます発達させているかのよう。そして日々増殖するエスプレッソバーとカナビスストア。  ただし、様変わり(=眼に見える様相が目まぐるしく動いている)が途切れないのは事実とは言え、変化しているものは、実は一つもないですね。  

        ディア・ミスタ・バートルビー

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        • 私たちの私の旅の私たち
          13本

        記事

          かぼちゃ色の季節の前(あるいは、大雨が去った夜)に。

          前回からだいぶ間があきました。原爆のことに触れた次は、映画『オッペンハイマー』のことを、と思っていたのですが、昨晩のごく小さな出来事についてシェアすることにします。 ―――今、ごく小さな出来事、と書きましたが、それは出来事というほどのものではないので、ただ、ちょっとした心象風景と言った方が正確かもしれません。同時に、あらゆる経験に大小の違いはないのですから、こうしてわざわざその心象風景を思い出して書こうとすることで、私はそれを、自分の経験として受け取ることを選んだ、というこ

          かぼちゃ色の季節の前(あるいは、大雨が去った夜)に。

          八月の光、が、去る前に

           八月の空の明るさには異様なものがありませんか。  『八月の光』と言えば、ウィリアム・フォークナーの小説で、そこに描かれるアメリカ南部の夏の光も異様なのですが、日本人にとっては、フォークナーより何より、八月は“ピカドン”の光に覆い尽くされているように感じます。  あの二度に及んだ原爆の、異様に明るく、同時に、想像を絶する暗さを持つ光がどうしても迫ってくるのが日本人の八月ではないでしょうか。  わたしは八月、たいていはニューヨーク近辺にいるのですが、日本人なので、こちらで見

          八月の光、が、去る前に

          旅文通9- 旅情続く・・・その秘密

             テオさん、お帰りなさい!  短期間にニューヨーク様変わりしていなかった?  みんな(若い女性だけでなく老若男女)、ピンク着ているでしょう?  映画館は長蛇の列。例の原爆問題(Oppenheimerがらみのきのこ雲画像問題)などものともしない勢いのBarbie です。  ダウンタウンでは、毎週のようにコーヒー専門店がオープンし、また毎週のようにカナビスショップがオープンしています。ニューヨーカーのダイエットは、昼間はカフェイン(でシャキッとし)夜はカナビス(でぐっす

          旅文通9- 旅情続く・・・その秘密

          ハリール・ジブラーン/愛について、など。

           ハリール・ジブラーンのドローイング展と、オープニング・トークに行ってきました。(A Greater Beauty: The Drawings of Kahlil Gibran @Drawing Center.)  ジブラーンは、言わずと知れた『預言者』の作者です。  『預言者』(原題<The prophet>)は、たぶんほとんどのアメリカ人が知っています。もっとも一般的なコーヒーテーブル・ブックスの中の一冊です。“聖なる本”と呼ばれるものでもあります。30カ国語に訳されて

          ハリール・ジブラーン/愛について、など。

          コーマック・マッカーシーの奇跡

           コーマック・マッカーシーの訃報。 「言わずと知れた、現代アメリカ文学を代表する作家」 と、どのメディアも、追悼記事を載せました。  わたしは全作品を読破してはいません。映画だけで知っている作品もあります。 (日本語でも、早川書房がきっちりと、丁寧に、出版してくれているようですね。日本で公開されている映画作品が全部ではないので残念です。たとえば、< The sunset Limited> のような傑作。)  映画 <No Country for Old Men>(タイトルは

          コーマック・マッカーシーの奇跡

          ニューヨークの医師たち(の一部)

           そう言えば、大腸内視鏡検査のお誘いメールがまだ来ません。前回の検査から5年経ったならクリニックより、「そろそろ次の予約ですよ」と通知がくるはずなのですが、まだ時期が来ていないのでしょう。  パンデミックがあったりして、時間感覚(特に年次)がぼんやりになっています。  アメリカでは、50歳を超えたら大腸内視鏡検査を開始することになっています。もちろん強制ではなく、推奨です。その年齢に達したら、費用を保険会社が持ってくれるというだけのことです。  ・・・だけのこと、と言っても

          ニューヨークの医師たち(の一部)

          旅文通7- 旅情とか、トキメキとか。

          (こちらは、山本テオさんとの旅文通マガジンの記事です。マガジンご覧くださいね)  6週間ぶりにニューヨークに戻ってきたら、入れ違いに、テオさん出発してしまいました。そして直後に、ケベックの大規模な山火事で、ニューヨークの空一面が濃いオレンジ色に染まることになったのでした。屋内にいても、喉がいがらっぽくなるほどの高濃度。欠航便続出。テオさん無事に飛び立ててよかった。  一昨年?は、カリフォルニアの山火事の煙がここまで届きました。今回の煙は、たぶんフロリダまで行くだろうと言われ

          旅文通7- 旅情とか、トキメキとか。

          さようなら、ありがとう、東京中野サンプラザ

           サンプラザ、と聞いて「あれのことね」とわかる人は、日本にどのくらいいるのでしょうか。    サンプラザとは、東京の、中央線中野駅北口にある複合施設で、いちばん知られているのはコンサートホールとして、それから結婚式場として、だと思います。  設立当初は、『全国勤労青少年会館』という正式名称があって、かつての労働省の管轄でした。とても真面目な建物で、私たち中野区民は、さまざまに使わせてもらっていましたし、“勤労青年”のための催し物がいつもあったはずです。  上階には、全国の新聞

          さようなら、ありがとう、東京中野サンプラザ

          わたしたちが歩く回廊

           わたしゃアラバマからルイジアナへ〜、  バンジョーを持って出かけたところです🎵  アラバマと聞いて、日本人が真っ先に思い浮かべるのが、この、フォスター作の『おおスザンナ』ではないでしょうか。 (フォスターと言えば、『スワニー河』もすぐに思い出され、同時にメロディも流れてき、訪ねた時の、その澄んだ水や河岸の枝垂れ柳などの風景も蘇ってきますが、スワニー河はジョージアとフロリダを流れていてアラバマではありません。) (ちょっとした驚きは、フォスターは南部の人ではなく、訪ねたこと

          わたしたちが歩く回廊

          身体ごとの変容(その3) - 蝶を心に -

           変容について書いている途中で、たくさんのことが起きて、変容という文字とともに、それらを経験してきた1ヶ月でした。  たくさんのことが起きて、というのは、もちろん、心の中でのことです。続け様の訃報に接して心に波が立つということも含めて。書籍の中の一行や届いたメールの一言に心の扉がまたひとつ開く、という経験も含めて。  扉が開くように感じるというのは、変容へのプロセスに違いないですが、サナギに大きな羽が出現して、蝶になって飛び立つような、華麗な変態とは違って、形として目に見

          身体ごとの変容(その3) - 蝶を心に -

          身体ごとの変容(その2)

           『三島由紀夫VS東大全共闘50年目の真実』(豊島圭介監督2020)  このドキュメンタリー映画を見つけたのは、出遅れて2021年の秋でした。日本滞在中にamazon prime videoでたまたま見つけて観て、その後ニューヨークに戻って、英語字幕版を観ました(Mishima : the last debate)。その後も何度となく観ています。短い期間で何度も見る映画、滅多にありません。それも、別に何かに役立てよう、調べものに使おう、などと思って観ているのではなく、ただ、

          身体ごとの変容(その2)

          身体ごとの変容(その1)

           7週間ほどの日本滞在を終えてニューヨークに戻ってきました。  早速(じゃないですよね〜。ようやく、と言うべきです)続きを書きます。続きというのは、ボゴタではなく、A Course in Miracles の続きということです。  A Course in Miracles. すなわち大芸術、と前回書いたものについてです。  ここに世界史を持ち出してくる必要はないのだとは思いますが、今は、ここをきちんと押さえておきたい気分なので、書いておきます。  世界史は、宗教の歴史

          身体ごとの変容(その1)