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旅文通9- 旅情続く・・・その秘密

 

 テオさん、お帰りなさい!

 短期間にニューヨーク様変わりしていなかった?
 みんな(若い女性だけでなく老若男女)、ピンク着ているでしょう?
 映画館は長蛇の列。例の原爆問題(Oppenheimerがらみのきのこ雲画像問題)などものともしない勢いのBarbie です。

 ダウンタウンでは、毎週のようにコーヒー専門店がオープンし、また毎週のようにカナビスショップがオープンしています。ニューヨーカーのダイエットは、昼間はカフェイン(でシャキッとし)夜はカナビス(でぐっすり眠る)というジョークも生まれました。ダイエット・ジョークにはもう一つあって、それは、「ニューヨーク式10:4ダイエット」。10時間はカフェイン、4時間はアルコール(この超物価高で、バーだけは連日遅くまで人があふれています)。

 余計な話のついでに。

 Ave. Aに、ベビー服専門店があったのを覚えてる? ベビーのお洋服と言えば、ピンクか水色か黄色と決まっているところ、その店にだけは、黒いベビー服がありました。さすが“とんがった”イーストヴィレッジ。地域の誇りであり、大事にされていた店でしたが、閉店してしまい、最近、新しいストアがオープン。何だと思う? ゴルフショップ。アルファベットシティに、ゴルフ店!
 ニューヨークはどんどんフラットな街になっています。

 さて、テオさんのお便りに深く感銘を受けているわたしです。テオさんが貴重なヴェネツィア博士だということは知っていたつもりだけど、これほど年季が入っていたとは! 3歳から6歳くらいの幼児期? それはすごい。『旅情』をテレビで観て惹かれた・・・たぶん、その一本に、世界というもの、人生というものの、盛りだくさんの情報が詰め込まれていただろうから、幼いテオちゃんの感受性はビンビンに反応したのでしょうね。
 中年のおじさんとおばさんの恋に違和感? 下手をするとおじいちゃんとおばあちゃん? その通りよね。で、設定は二人とも38歳というのだから、「若いわよね〜」。笑

 わたしが『旅情』を観たのは中学に入ってからです。サウンドトラックの方が先でした。
 給食の準備時間、掃除時間、下校時間に放送部が流す音楽のLPコレクションの中に映画音楽があって、それで繰り返し聴かされたのを、片端から観ていました。中野武蔵野館だったかしら。今は少なくなった名画座の一つです。
 名画座や文芸座にひとりで通い始めたのは、12~13歳の頃で、一方では母と新宿や日比谷のロードショー館にも時々行って、ランチをし、デパートで買い物して帰るという、子供っぽい“お嬢様ライフ”もまだやっていました。 
 ある日、“大泣きできる”はずの映画(何だったか忘れた)を二人で観に行き、いつまで経っても、握りしめていたハンカチが使えないので首を傾げていたら、間違えて隣のシアターに入ってしまったことがわかり、、、ということがありました。私たちが観たのはラブコメ『小さな恋のメロディ』。こちらはビージーズですよ〜。今トレーラーを覗くと、可愛い〜〜〜!と蕩けそうになるけれど、当時は、恋というものは、十代の特権、くらいに捉えていましたからね。わたしの中には、少なくとも、日本人の大人の恋というコンセプトはなかったと思います。ただ、「有楽町で会いましょう」という歌があったので、大人になったらわたしも有楽町のダンスホールに行くのだ!と信じていたところもあった記憶が・・・。

 テオさんが持っている博士号は、ヴェネツィアだけではないですよね。いずこにしろ、彼の地を語るときの視点が、付け焼き刃の観光客とは違うし、細部への愛の深さが感じられます。だからね、わたしはテオさんからいつも、好奇心の育て方について学んでいるのよ。例えば映画を観る。惹かれると何度も観る。じっと観る。もっとよく観たいと思う。実物を見に行く。そこに人がいる。仲良くなる。惹かれたものは、すでに、愛するものというよりは、自分のものになっていて、そこで出会った人は、当然フレンズになる。テオさんは、そこでさらに、映像も言葉も再度自分で整理して、カラフルかつ見事に整理されたノートブックにして、こぼさず細胞に染み込ませていくのよね。

 旅情というのは、物珍しい世界に身を置いて、新しい出会いにドキドキすることではなくて、懐かしい佇まい、懐かしい目の前の人の眼差しに“再会”してじんわりと情が胸の内に広がっていくことなのね。それが大人の恋というものかも。

 愛の眼差しと言えば、『黄昏』(The Golden Pond)の中のキャサリン・ヘプバーン、彼女は70代半ばで、死を目の前に見ている老夫婦の妻役だったけど、あの眼差しは素敵ね。当時は、その通りに受け取って観たけれど、今となっては、70代、まだ若いわね。
 作中、ジェーン・フォンダが後方宙返りで湖に飛び込むシーンがあって、ストーリーの目玉にもなっているわけだけど、あれは、実際に、彼女が怯えながら練習した成果で、キャサリン・ヘップバーンが実演して見せて励まし、指導したということですよ。

 そして『黄昏』と言えば、あの湖畔のゴージャスさ。ジェーン・フォンダが後方宙返りで飛び込んだ湖の静謐さ。ニューハンプシャー州の湖なのだけど、テオさん、行ったことある?

 今回は、どうでもいいような呟きになってしまったけど、次回は、ニューハンプシャーを含めた東海岸の旅を伝えたいと思います。テオさん、ぜひ、バス事変の顛末、詳しく聞かせてください!




 


 

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