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唯一無二のブックレビューの書き方⑦

「前座」とは? 2行で書ききれたら完璧!

 ブックレビューは「前座」「場面」「日記」の3つで書けることを前提に、第4回〜6回までは「場面」の書き方をお伝えしてきました。

 今回は「前座」の書き方についてお話します。

 「前座」は、レビューの冒頭で、物語の内容を大まかに説明するパートです。こう聞くと「あらすじ」のことかと思うのですが、一見同じ様に見えて「前座」と「あらすじ」では、目的が全く違います。

 「あらすじ」の目的は「本の概要を伝える」ことです。どんな内容なのかを、書き手の偏見・思い込み・自分語りなしに、わかりやすく書いたものです。「あらすじ」はAmazonに載っています。そちらに任せましょう。

 それに対し「前座」の目的は、概要を伝えることではありません。このあとに続く「場面」を引き立てることなのです。

 この連載では、先に「場面」の解説を済ませてしまいましたが、ブックレビューの構成は

①「前座」
②「場面」
③「日記」

という順番になっています。

 では、なぜ先に「場面」の書き方をお伝えしたかというと、「前座」は「場面」の引き立て役だからです。「場面」が決まらないことには「前座」で何を書くかも決められないのです。ただの引き立て役なので、「前座」は短ければ短いほどいいです。出来れば、2行で書ききってしまうことを目指しましょう。

 では、この2行で何を書くのかですが、ここで今までにお伝えしてきた「場面」の書き方を思い出していただきたいのです。

 「場面」とは「その本の面白いと思ったポイントを考え、それが最も表れているシーンを探すこと」「そのシーンを、固有名詞2つ(超おまけして3つ)で表現すること」だとお伝えしてきました。この「固有名詞」を、事前に「前座」で説明してしまうのです。 

 前回の「桃太郎」を、もう一度例にとります。

 前回は「桃太郎の格好良さ」を伝えるために、鬼のジョナサンとの戦闘シーンを「場面」としてピックアップするというシチュエーションを想定しました。この場合、固有名詞は「桃太郎」と「ジョナサン」の2人にのみ与えること、それによって桃太郎とジョナサンが戦う様子が際立つことを見ていただけたと思います。

 この場合「前座」の役割は、「場面」に登場する2つの固有名詞「桃太郎」と「ジョナサン」の説明を前もってしておくことです。

 例えば、こんな書き方になります。

「桃から生まれた不思議な少年・桃太郎が、村を荒らす鬼ジョナサンを倒すために旅に出る物語」

固有名詞①「桃太郎」=「桃から生まれた不思議な少年」
固有名詞②「ジョナサン」=「村を荒らす鬼」

 このように、「場面」に登場する固有名詞を、あらかじめ「前座」で事前に説明してしまうことで、この後に語られる「桃太郎とジョナサンの戦闘シーン」(場面)の理解がぐっとスムーズになるのです。その上で、固有名詞同士の関わりがわかるような1文を作って下さい。この場合だと「桃太郎」と「ジョナサン」が「倒す⇔倒される」の関わりであることを示す文章になっています。

 「何に固有名詞を与えるのか」=「最も伝えたいところは何なのか」はレビュアーによって違うので、「前座」の内容は、人によって大きく異なります。本の概要をフラットな目線で紹介する「あらすじ」とは、その点で大きく異なります。

 「桃太郎」といえば、犬・猿・雉の3匹の動物たちを、きび団子で子分にするくだりが有名ですが、上記の「前座」では一言も触れていません。なぜなら、「場面」のパートで動物たちに固有名詞が与えられないのであれば、動物たちの存在は最も伝えたい部分ではないからです。「場面」に出さない固有名詞は「前座」でも出さないでください。「前座」の優先度はレビューの中で最も低いため、短けば短いほどいいのです。固有名詞だけでなく、他の言葉もなるべく削って簡潔にすることを心がけて下さい。そうすることで、「場面」に焦点を絞った「前座」を書くことが出来ます。

 「前座」とは、レビュアーの独断と偏見にまみれた「あらすじ」のことなのです。独断と偏見、と言ってしまうと聞こえは悪いのですが、これは要するに、レビュアーの「切り取る力」「編集力」が問われているということです。

  さて、今回は冒頭で「前座」は2行で書く、とお伝えしました。1行は上記のように、固有名詞の説明に使って下さい。そして、もう1行は「舞台設定」の説明のために使っていただきたいのです。

 第3回で「竹取物語」についてAさんが話している様子を例にあげました。Aさんのレビューは素晴らしかったのですが、一方で「すごい美人な女の人が、プロポーズを断りまくる話」という様に説明してしまっているので、竹取物語がまるで恋愛ドラマのような印象になっています。いくら「唯一無二のブックレビュー」が「レビュアーの偏見・思い込み・自分語り」を書くべきものだとは言っても、これではミスリードになってしまいます。

 受け手側の誤解を防ぐために「舞台設定」を1行で説明しておきましょう。「舞台」とは、「時間」と「場所」のことです。

「時間」=現代/過去(時代小説)/未来(SF小説) 

「場所」=国は?/村?/町?/学校?(学園小説)/職場(お仕事小説)?/そもそも実在する場所なのか?(ファンタジー小説) などなど

 例えば、

「竹取物語」=平安時代初期の(時間)貴族の生活(場所)

「桃太郎」=古くから伝わる(時間)日本のおとぎ話(場所)

「ハリー・ポッター」=現代の(時間)イギリスの魔法学校(場所)

「鬼滅の刃」=大正時代の(時間)鬼が人を喰う世界(場所)

などです。

 先の桃太郎の例を再び出しますが、この場合の「前座」はこうです。

古くから伝わる、日本のおとぎ話です。(←舞台設定)
桃から生まれた不思議な少年・桃太郎が、村を荒らす鬼ジョナサンを倒すために旅に出るというストーリーです。(←固有名詞の説明)

 これで2行ですが、この後に続く「場面」を引き立てるには十分です。このように「前座」では舞台設定と固有名詞の説明以外はしない、と決めると、余計な言葉が入って来ない分「レビュアーが一番面白いと思ったポイント」をクリアにすることができます。

 ただ、特例もあります。その本の存在自体が、何か「いわくつき」な場合は、そこに触れたほうが「美味しそうに見える」ことがあるのです。「竹取物語」であれば「日本最古の物語」といういわくがあります。「鬼滅の刃」であれば「漫画を原作にした映画が、日本の興行収入で1位になったばかり」といういわくです。密林の奥深くで見つかった古文書である、とか、先日直木賞をとったばかりの、などといういわくもあります。「いわくつき」の本は、読書欲をそそります。その場合は「前座」のパートで一言入れてもいいと思います。

古くから伝わる、日本のおとぎ話です。(←舞台設定)
桃から生まれた不思議な少年・桃太郎が、村を荒らす鬼ジョナサンを倒すために旅に出るというストーリーです。(←固有名詞の説明)
様々な映画や漫画、ゲーム、CMのモチーフになるほど日本中で親しまれている物語です。(←いわく)

 アナウンサーとしての経歴が10年を超えた今思うのは、「何かを伝える」時に1番大切なのは「余計なことを言わない」ことなのだということです。レビューにおいても同様で、あれもこれも大切な気がして、言いたいことを全て伝えようとして書いたレビューに傑作はありません。1冊の本の中から、伝えたい「場面」をたった1つだけ選びましょう。そして「前座」では、その場面を引き立てることを考えましょう。「伝えたい」ことだけを純粋に突き詰めていった先に、震えが走るほどエモいレビューが完成するのです。

【結論】

Q.「前座」とは?

A.1番面白かった部分=「場面」を引き立てるためのパート。「舞台設定」と「『場面』に登場する固有名詞」の説明のみを行う。2行で書ききることを目標とするが、「いわく」があるときは書き加えてもいい。

⑧「日記」とは? 物語を旅するということ

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