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連載百合小説《とうこねくと!》東子さまがフルートを吹けば(6)

 みなさん、こんにちは。北郷恵理子です。
 前回のお話はこちらからどうぞ。


 私たちは、白樺林に囲まれた離れにやってきました。
「今日はお日さまが気持ちいいわねぇ」
 そうおっしゃって気持ちよさそうに伸びをした東子さまは、お屋敷から持ってきたフルートを組み立て始めました。東子さま、学生時代には吹奏楽部でフルートを吹いてらっしゃったそうで、今でも趣味で吹いているそうです。その演奏を聴くのは、私は初めてです。なんだか……ドキドキしてきました。
「さーて、やりますか」
 そうおっしゃった東子さまは、フルートをかまえます。
 
「……!」
 
 私は息を呑みました。東子さまがフルートに息を吹き込んだ瞬間、その場の空気は東子さまのものになっていたのです。朱色のワンピースが白樺林に映え、鮮やかな色のコントラストと、東子さまが奏でる華やかな音色が美しく混ざり合います。その音色は、さっきまでの空気をすべて吹き飛ばしてしまうようです。東子さまは温かな笑みをたたえ、心から楽しんでフルートを吹いているのがよく伝わります。
「すごい……東子さま……」
 私は東子さまに釘付けでした。このままずっと、フルートを演奏し続ける東子さまを見ていたいと心から思いました。このままずっと、東子さまの音色に浸っていたい……
 
「ふぅ……どうだった?」
 演奏を終えた東子さまがこちらを向きます。私はすっかり放心状態で、言葉を発せられませんでした。
「恵理子ちゃん、東子さんのフルートに聴き入ってましたよ」
 陽子さんが言います。
「あらあら、恵理子ちゃんったら」
 クスッと笑う東子さま。
「あっ、私何か飲み物買ってきますね!」
「ありがとう、陽子ちゃん」
 陽子さんが飲み物を買いに行ったのを見守って、東子さまは私に近づいてきました。
「恵理子ちゃん」
 東子さまは私の肩にふれました。
「もう一度聞くわ。どうだった?」
 私は、暴れる心臓の鼓動を押さえながら口を開きました。
 
「すごく……美しかったです」
 
「ふふっ……あはははっ!」
 私が言うと、東子さまは急に笑い出しました。
「えっ!? 私、何か変なこと言いました!?」
「フルートの感想を聞いたつもりが、美しいって言われるなんて思ってなかったから!」
「あっ……」
 それに気づいた私の顔は、火がついたようにボッと熱くなりました。
「ふふふ、可愛いお顔がまた真っ赤っかよ」
 東子さまは楽しそうにそう言うと、熱く火照った私の頬にキスをくださりました。
「そんなことされたら……また真っ赤になっちゃうじゃないですかー!」
 私はケタケタと笑う東子さまをポカポカと叩きます。
 
 白樺林の方から爽やかな風が吹いて、ふざけ合う私たちを優しく撫でていきました。

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