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連載小説《アンフィニ・ブラッド》第5話

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 互いの指を絡ませ合いながら、伏木アトリと阿武野ニルはベッドに潜り込んでいた。時刻は午前零時。アトリの住むマンションの一室で2戦目を終え、ふたりは息を整えながら会話を楽しんでいた。
「アトリさん、今度の演奏会はご両親も観に来るんでしょ?」
「うん。ニルと付き合い始めてから両親を招待するのは初めてだ。しかもニルは、入団して初の演奏会だね」
「なんか……すごく緊張してきちゃった」
「ハハッ、大丈夫だよ。リラックスしていこう。ニルのクラリネットの腕前は僕が保証するし、ステージの上では僕がニルを導くから」
「さすが、我が四祈吹奏楽団の指揮者さん。心強いなぁ」
「他にも心強いメンバーがいるだろう? サックスの腕もルックスも一流のコンマス、柊辺エルト。それに……フルートの神戸シオン」
「シオンさんは本当にすごい人だね。正真正銘のトッププレイヤーだよ。自信と誇りに満ち溢れてて、それが全て演奏に現れてる。美しいだけじゃない、あんなに色鮮やかなフルートの音色は聞いたことがないよ」
「本当にその通りだ。彼女はすごい。他の人達と全てが違う。何者なんだろうな……彼女は、一体」
「本当にね。……あ、そろそろ帰らなきゃ」
 そう言うとニルは布団からゴソゴソと抜け出した。
「泊まっていかないの?」
「うん、明日も早朝練習したいから帰るね」
「送ってくよ。遅い時間だし」
「ううん、いいよ。私の部屋も近いんだし、ダッシュで帰るから」
「本当に大丈夫?」
「大丈夫だってば。もう、心配性だなぁ」
 言いながら、ニルは着替えを終えた。白と黒を基調としたゴスロリワンピース。大きな白のリボンがついた黒のハンドバッグを持ち、小走りで玄関へと向かう。アトリもそれを追う。
「じゃ、また明日の練習でね」
 右手を挙げるニル。やはり部屋まで送っていった方がいいのではないかとアトリは思ったが、「また明日」と右手を挙げてニルを見送ったのだった。


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