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連載百合小説《とうこねくと!》東子さまの、裏切りのキス……?(1)

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 みなさん、こんにちは。北郷恵理子です。
「やーんもう可愛いっ! 可愛すぎるわぁ! もふもふ~!」
 自宅の中庭で、まるで子供のように無邪気に秋田犬の赤ちゃんとふれ合っている奥さま──神波東子さまの付き人をしています。
「あーん! 何でこんなに可愛いのよキミは~っ! もふもふもふむふふ~っ♪」
 ……もふもふと言いながら「むふふ」とこぼしているのを、私はもちろん聞き逃しませんよ。

 秋田犬に会いたいという東子さまの願いを叶えてくださったのが、パソコン教室でお世話になった西村さんです。西村さんの親戚の女の子が飼っている秋田犬に赤ちゃんが産まれたので、連れてきてくださったのです。
 飼い主に忠実で、可愛らしくも凛々しく、堂々たる風格……。私も、東子さまにとっての秋田犬のような付き人になりたいものです。
「東子さん、すっかり夢中だなぁ」
 縁側の奥の座敷に座って、はしゃぐ東子さまを私と一緒に見ていた西村さんが私に話しかけてきました。
「そうですね。ふふっ」
 秋田犬をたかいたかいしたままぐるぐる回る東子さまを見ていたら、なんだかこちらまで楽しい気持ちになってきます。それはきっと、西村さんも同じなのでしょう。西村さんのお顔もやわらかくほころんでいます。
「そういえば、西村さんの親戚の方はそろそろいらっしゃるでしょうか」
「そうだなぁ、もうそろそろかな?」
 ピンポーン、と玄関チャイムが鳴りました。その女の子でしょうか。
「はーい!」
 私は立ち上がり、玄関へ向かいます。
 
 玄関の戸を開けると、黒髪ボブの可愛らしい女の子が立っていました。20歳くらいの子でしょうか。白と黒を基調とした、フリフリのゴスロリ服を着ています。
「こ、こんにちは……。あの……修さんの親戚の、西條葵と申します……」
 少しおどおどした様子で、その女の子──西條さんは言いました。
「いらっしゃいませ! わたくし、東子さまの付き人の北郷と申します」
「北郷さん……綺麗なお方……」
 西條さんは、大きな瞳で私を見つめてきました。その視線は、私の瞳から、私の唇に……
「あの、西條さん……?」
「……あっ、すみません。北郷さんがとても綺麗なので、見とれてしまって……」
「は、はぁ……」
「本日はよろしくお願いします……。あ、あの……」
「どうしました?」
「えっと、あの……神波さんは、どちらに……?」
「中庭におりますよ! さ、上がってください」
「ありがとうございます……。おじゃま、します……」
 恐縮したように、西條さんは靴を脱ぎ始めました。

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