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連載百合小説《とうこねくと!》東子さまの知らない恋物語(2)

 みなさん、こんにちは。北郷恵理子です。
 前回のお話に引き続き、今回のお話も私の高校時代の回想シーンです。


 ある日の放課後。この日もまた、誰もいない教室にふたりきりです。6時限目が体育だったこともあり、私たちは体操着のまま語り合っていました。汗をたっぷり吸った体操着はジメッと体温をこもらせて、独特の甘酸っぱい匂いを生ぬるく漂わせます。
「北郷ちゃんさ、好きな人いるの?」
 Tシャツの袖とハーフパンツの裾をぐるぐると限界までたくし上げて肌の露出度が上がった南武ちゃんは、唐突にそんなことを聞いてきました。
「えっ? どしたの急に」
「ううん。やっぱ高校生だし、恋バナしたいじゃん」
 そう言うと、南武ちゃんは答えを迫ってきます。
「で? 好きな人は?」
「えー、いないよ。南武ちゃんは?」
「アタシ!?」
 速攻で質問を返された南武ちゃんはものすごく動揺していました。
「あ、アタシは……」
 あんなに威勢がよかったのに、急にモジモジし出した南武ちゃん。
「えっ、何? 照れてるの?」
「べっ! 別に照れてないし!」
「いやいや、南武ちゃんめっちゃ動揺してるから。てかその突然のツンデレ何よ」
「つつつつツンデレとかじゃないし!」
 動揺をまったく隠せていない南武ちゃん。両手をブンブン振って、その動揺をごまかそうと必死になっています。
「で? 南武ちゃんの好きな人って誰よ」
「いっ、言えるわけないでしょ! もうバカっ!」
 真っ赤な顔で私をポカポカと叩く南武ちゃん。必死になっている南武ちゃんが可愛くて、私はケラケラと笑うのでした。
 
 あの時、南武ちゃんが発した言葉の意味を、いつも強気なその顔が真っ赤になった意味を、私はのちに知ることとなるのです。
 
 *
 
 クラス内での忌々しい出来事があった後も、南武ちゃんは変わらず私に接してくれました。むしろ、南武ちゃんは私を心配してくれたのです。
 
「なんでそんな大事なこと、アタシに真っ先に言わないのさ」
 誰もいなくなった放課後の教室。南武ちゃんは真剣な目で私を見つめています。
 私の恋愛対象が女性であること。そして、それが原因でクラス内で差別を受けたこと。南武ちゃんには全部内緒にしていました。
 
 私は、南武ちゃんに余計な心配をかけたくなかった。いつもと変わらず、なんの苦もなく、ただ南武ちゃんと笑いあっていたかった。
 それに、私が女の人を好きだなんてカミングアウトしたら、南武ちゃんは気味悪がって私から離れていってしまうのではないかという恐怖と不安に駆られていたのです。
 
 でも、南武ちゃんは違いました。
 
「アタシは北郷ちゃんの味方だよ」
 南武ちゃんは、変わらずまっすぐな瞳で私を見つめていました。

「北郷ちゃんが泣いてたら、アタシも悲しくなる。これは北郷ちゃんひとりの問題じゃないよ」
「でも私、南武ちゃんに心配かけたくなかったんだ。こんな私のことで」
「『こんな』って何? アタシにとって北郷ちゃんは大切な存在なんだよ。北郷ちゃんのこと想ってるアタシの気持ちも考えてよ」
「……ごめん。でも、南武ちゃんは大切な友達だし──」

「友達……?」
 私の言葉をさえぎり、南武ちゃんが小さく呟きました。



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