おいしい温度。燗の利き酒Vol.4『みむろ杉/純米吟醸』
日本酒は、自分の魅力と特性を最高の形で表現してくれる温度を求めている。
「同じ日本酒で、燗の温度を変えると味わいがどれほど変化するか」を試す『おいしい温度。燗の利き酒』シリーズの第4段。
今回から、燗酒の利き酒方法を変えました。きっかけは、日本酒界のカリスマ 千葉真里絵さんの著書『最先端の日本酒ペアリング』を購入し拝読したところ、燗の付け方が詳しく載っていて、
そこには、燗付けの訓練方法として「温度を上げながら香りをよく確かめ、5度刻みで利き酒する(最適な温度を確かめるため)」との記載があり、その方法で試してみました。詳細は以下2項の通りです。
千葉さんによると、さらに燗付けのプロセスとして一旦急冷して再び温度を上げていく点を説明されており、「温度を上げながら一杯だけ(一度だけ)味わうなら急冷の必要は無い。ただ、徳利に注いで飲んでいると、急冷してないお酒は、徐々に味わいに締りがなくなる。冷めるほどに美味しくなくなる」と言われていて。
これまで3回このシリーズをやってきて、従来の利き酒結果の実感をまさに説明して頂いたようで、大発見!って感じでした。
何かというと、これまでの燗の利き酒結果では、一般的には甘みを感じやすく美味しいとされる35℃(人肌燗)あたりの温度帯で、味わいがぼやけてしまって、どうしてもその温度で美味しいと思えなかったんですね。
理由は単純で、上記の千葉さんの説明に沿うと、これまでのぼくの利き酒は一度60度程度までお酒の温度を上げてから、自然冷却で温度を下げながら5℃刻みで利き酒をしていたから。
美味しくない方向に向かって利き酒をしていたわけですね。有り難い発見に感謝です。
前置きが長くなりました。
以下、利き酒していきます。
1. 銘柄選定
奈良県の三輪にある、『今西酒造』さんの醸されるお酒。地元流通の漢字『三諸杉』ではなく、今回は県外流通のひらがな『みむろ杉』。
奈良の三輪といえば、日本の神社の元祖である大神神社(おおみわじんじゃ)のある場所。日本一古い神社であるとの言い伝えがあり、酒の神様も祀られるところです。
日本酒が古来、神社への神聖なお供え物であった点、今西酒造さんが今でも大神神社の酒を醸されている点を考えると、
このお酒こそ、まさに日本酒の元祖。
上記の歴史は後で知ったのですが、みむろ杉の「お米の甘さ・美味しさ」をそのまま丁寧に表現した味わいが以前より大好きだったんですね。そこに来て歴史を知ったものだから、さらに愛が深まった、そんな銘柄です。
裏ラベルの写真です。
2. 用いた酒器等の道具と燗付けの方法
今回から、道具と燗の付け方を一部変更しました。ちろりは今後、錫や銅の本格的なものを揃えたいと思ってます。(ネット調べでは、アルミ製もそんなに悪くないよ!)とのことで、今回は家にあるアルミ製です。
1) 道具
・8勺サイズの利き猪口(磁器)
・ちろり(アルミ製)
・温度計:TANITAの料理用デジタル温度計
3) 燗付け方法
・鍋に70℃あたりのお湯をはる。
・ちろりにお酒を注ぎ、ちろりごと鍋の中へ浸け湯煎。
・デジタル温度計をちろりの中に浸け、温度を計測。温度を上げていき、30℃から5℃刻みで利き猪口にその都度注いで利き酒。
・利き猪口についても、湯煎しているちろりの横に浸けて温めておく。
写真のような感じです。
3. 利き酒結果
以下は、上記の通り湯煎で燗付けした日本酒を徐々に5℃刻みで上げていき、「これ以上温度を上げても美味しくならない」と判断できる温度でやめています。
30℃=日向燗 結果:○
常温(25℃前後)から少しずつ上げていって、まろやかで優しい飲み口が実感できる。酸味と甘みの融合感。
ただ、少し全体的な飲み口が柔らかすぎるか。
35℃=人肌燗 結果:◎
この温度が美味しい。
酸味の輪郭感が少し出てくるおかげで、甘みが綺麗に優しく表に出て出てくる。まろやかで優しい飲み口の中、この甘みと酸味のバランス感が一番いいと思う。
お米の綺麗な甘みが特徴のこのお酒。その特徴を一番的確に表している。
40℃=ぬる燗 結果:◎または○
美味しい。35℃よりも酸味がやや前に出てくる感じがあり、味わいが全体的に引き締まる感じが出てくる。
45℃=上燗 結果:△
この温度あたりから更に酸味が立つ感じがあり、甘さが奥へ引っ込む。酸味と甘さの丁度良いバランスが崩れ始める。
お酒単体だと、やや酸味が立ちすぎるか。
味が濃いめの料理と一緒なら美味しいと思う。
50℃=熱燗 結果:x
酸味がさらに前面に出てくる。甘みが奥へ引っ込んでしまい、かわりにアルコールの刺激感がやってくる。
アルコールのボリューム感は決して悪くはないが、この温度帯は美味しいとは思えない。
ここで温度を上げるのはストップ。
4. 総評
前回までと燗付けの方法を変えたところ、低めの温度帯の美味しさを感じ取ることが出来ました。これは大きな収穫です。
「人は体温に近いところで甘みを感じやすい」というのは本当でした。
柔らかな優しい飲み口をベースに、お米の真ん中にある甘みを、酸味との抜群のバランス感で表現したこのお酒の特徴。それをもっとも的確に表していたのは、35℃~40℃の温度帯だったと思います。
前回までは磁器製の徳利を湯煎する方法だったので温度上昇が緩やかでしたが、今回のちろりは温度反応が良いため、5℃刻みで利き酒をするのが正直大変でした!
温度を上げる前からある程度の適正温度帯の目星をつけた上で燗を始める必要があるなーと。
このあたり、訓練が必要ですね。何でも下手クソから徐々に上手くなっていくプロセスが楽しいので、今後の楽しみが一つ増えました。燗付けの腕を上げたら、目の前の日本酒がもっと美味しい顔を見せてくれるんだろうなーって。
手間としても、技術的にも決して簡単ではない燗の世界の入口に立った気がして、なんだか嬉しいです。
ごちそうさまでした!
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