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仮病と判明したスウェーデンの奇病

「あきらめ症候群」という奇病

「あきらめ症候群」というのを聞いたことがあるでしょうか?身体のどこにも悪い所はないのに、子供が話すことを止め、食べることも止め、そのうち目を開けることさえ止め、全般的に生きる気力を失くして寝たきりになる病気です。

この病気は、主に東欧・バルカン半島方面からスウェーデンにやってきた難民家族の子供だけに見られる奇病で、2000年前後から報告されはじめました。投薬や手術などの医学的治療はほとんど効果がありません。しかし、患者とその家族に永住権を与えると治る、という大変恐ろしい病気です。


ここまで読んで、「こんなの仮病に決まってんだろ!」と叫びたくなった人がいるかもしれませんが、もうしばらく茶番にお付き合いください。


エスカレートする茶番劇

難民に同情的な世論が強いスウェーデンでは、この奇病が報告された当初から、"子供が病気なのだから可哀想な難民家族を国外退去にするな"、と署名活動が始まったり、複数の政党が声明を出したり、国王が懸念を表明したりして、大いに盛り上がりました。難民家族の国外退去処分を見直す法案も成立しました。

 また、2015年以降、欧米社会で吹き荒れた "難民ウェルカム" の機運に乗って New YokerBBCEconomist、 Independent といった海外大手メディアが続々とこの奇病を取り上げて記事にしました。
2019年には "Life Overtakes Me" (邦題「眠りに生きる子供達」)というタイトルで、この奇病のドキュメンタリー映画が制作されました。そして、なんと、アカデミー賞の短編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされてしまったのです。


「親に病気のふりをしろと言われた」

ところが、2019年9月、スウェーデンの Filterという雑誌で、子供の頃あきらめ症候群に罹っていたとされた人が、"親に病気のフリをするよう言われていた"、とカミングアウトしたため、大騒ぎになります。

上記 Filterの記事は有料なので、以下に無料の Expressenの記事から、あきらめ症候群のフリをしていた人達の証言の一部を紹介します。そのうちの一人 Anahit Arakelyanさん(女性)は以下のように語っています。

2009年の秋、私が10歳のときに、父と継母が私を "あきらめ症候群"にすると決めました。その後、学校は止めさせられ、行動指針を申し渡されました。"話すな、笑うな、独りで外に出るな、何に対しても反応するな"、と指示され、ヨーグルトと栄養ドリンクで生活しなければならなくなりました。

https://www.expressen.se/nyheter/apatiska-barnen-berattar-vi-tvingades-spela-sjuka/

彼女は、その後居住許可を取得し、スウェーデンで暮らしています。

また、もう一人の証言者である Nerminさん(仮名、男性)は以下のように語っています。

2005年の秋にスウェーデンの Kiruna に来ましたが、数か月後に難民申請がリジェクトされたことがわかりました。その日から、私の病人として生活が始まりました。両親は私を車椅子に座らせ、食べ物を与えず、友人達にも会わせませんでした。両親は私のてんかんの発作について医療スタッフにウソを言っていました。私は目を開けてはいけない、と言われていましたが、我慢できず目を開くと、首をひどく叩かれるのです。

https://www.expressen.se/nyheter/apatiska-barnen-berattar-vi-tvingades-spela-sjuka/

彼も2015年に居住許可を取得したそうです。


続々と明るみに出る新事実

この仮病スキャンダルが発覚して以来、あきらめ症候群に関する新証言や新事実が続々と出てきました。例えば、

*アカデミー賞候補になったドキュメンタリー映画に出てくる少女は、映画では寝たきりで、おしめをし、チューブで栄養を取っていたが、実際は病気に罹っているはずの期間、親と元気に外を歩いていた。・・両親は、病気のフリをしたらパリのディズニーランドに連れてってあげる、と少女に約束していた


*病院のスタッフはみんな、病気を演じている難民の子供がいることを知っていた。しかし、あきらめ症候群の子供には、抗精神病薬の投与や電気療法など強度のうつ病患者に与えられるような治療が施された。"レイシスト" とレッテルを貼られるのが怖かったからだ


*ノルウェーの病院?が、スウェーデンのあきらめ症候群の子供達数人を受け入れたことがあったが、彼らは、親から離れてノルウェーにいるときは全く健康だった


*あきらめ症候群の子供を世話していた親は、自治体から何百万クローナという手当をもらっていた


この仮病スキャンダルが発覚した後も、"あきらめ症候群は詐病ではない"、と主張する専門家はいます。しかし、2020年2月、スウェーデンの Statens beredning för medicinsk och social utvärdering(国家保健社会評価委員会?)は、あきらめ症候群の診断や治療に関する科学的根拠はない、と声明を出すに至りました


NHKの遅れてきたフェイク・ニュース

詐病事例が報告されたからといって、全てのあきらめ症候群患者が詐病である、とは言えないのかもしれません。しかし、こうしたケースでは、一方の事実を報道し、もう一方の事実を知らせなければ、フェイク・ニュースを広めているのと同じです。事実をテーブルに乗せないと、そもそも議論ができません。スウェーデンでは、スキャンダルになったとはいえ、幸いこの詐病の事例が明るみに出たため、"難民が可哀想だ!"という一方的で感情的な世論はかなり鎮静化し、とりあえず議論がされるようになりました。

問題は海外のメディアです。スウェーデン国外のメディアで、子供が病気のフリをさせられていたという事実を報じた報道機関は寡聞にして知りません。ちなみに、あきらめ症候群を紹介した New Yorker や BBC、Economist、Independent のツイッターを一応チェックしましたが、この仮病スキャンダルを報道しているところは見つけることができませんでした(2022年7月現在)。

NHKは、今年(2022年)になって "Wake up on Mars" という、あきらめ症候群に関するもう一つのドキュメンタリー映画を、遅ればせながら、放映しました。私は見てませんが、詐病の事例があることにも言及しているでしょうか?片方の事実を一方的に報道するだけではフェイクニュースを広めているのと同じです。





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