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八百屋は簡単に事業展開できると思っている人達へ【八百屋からみた“食”no.39】

「八百屋なんて簡単」

いや~ひさびさに聞いたんで所感を。
異端の八百屋を紆余曲折21年ほど続けています。本当にいろんな方に支えられてきたし、正直運もあります。仕事にばかり運使ってどうすんだという御声は置いといて。

個人的には【八百屋は個人運営で最も難しい商い】と常に思っています。継続できる収益性を常に生み出しにくい職種。だから他人に全く勧めないし、ベンチャー企業&しくみ作って多店舗展開とかマニュアライズした運営でうまくいくなんてビタ1文思わない。テンプレでできるわけないでしょ。同じノウハウで同じプロセスを辿れないのが八百屋商売。出店地域に住む人達の「食を担う/責任の一端を担う」覚悟であり「他人と向き合ってファンになってもらう」仕事なんだから。さらにいえば、店舗運営+小売と、生産者直販と、マルシェ・イベントでは収益や継続に対する考え方(経営方針そのもの)が大きく異なります。

なぜ言えるか。全部やってきたから。
前身の八百屋ベンチャーで、大半のチャレンジと出会いと失敗を経験したから。

だから私は安売りをしないし
だから私は催事をやらないし
だから私は多店舗展開をしないし
だから私は業務卸をしないし
だから私は通販をしません
※もしくは優先度が限りなく低い

そして
美味しく作る生産者から直接仕入れたいし、
美味しさ第一主義で揃える仲卸からも仕入れたいし
美味しいもんで街を作ろうする商店街の各店主が好きだし
美味しいもんで(もしかしたら売る私よりも)喜んだり待ち望んでくださる近隣のお客さん+遠くからでも買いに来てくださる&発送依頼してくださるお客さんが多い現在の店が大好きです。

私は常に「美味しい野菜を渡すという現場」に居ます。
この初心と醍醐味を忘れて、ヒト(取引先/お客さん)やカネ(収益)がついてくるわけないでしょう。今回のケースで一番ショックを受けたのは、安く値切って仕入れて(付加価値つけて)高く売る転売ヤーみたく思われたこと。本当に心外。八百屋の付加価値は手間にこそ発生します。認証や表現力ではありません。美味しくないモノを渡せば信用も収益もすぐに零れ落ちるのは自明の理。農も食も大手も個人も変わらんでしょうに。
「我々の仕事は魚を切って並べるだけの仕事ではない」と某漫画の某料亭主人も言ってた(笑)ように、私の仕事も野菜を並べて売るだけの仕事ではありません。産直の鮮度だけで八百屋できるわけないじゃない。八百屋に言えたとして、刺身こしらえる料理人にそんなこと言えます?

『店に来るお客さんが買って、美味しいと言って次また買いに来る』この繰り返しこそが幸福で、これに飽きを感じるなら八百屋&食の提供やめた方がいい。

「八百屋なんて簡単でしょ」って言ってくる人達(過去の視察企業や希望を持って開業を目指す個人店主)はこれまでも結構居ました。随分軽く考えるんだなーとか、それ面と向かっていま続けてる私に言うんだとか、自分に置き換えて言われた時に不快に思わんのかな(アンタ今からそれやるんでしょ?)とか、言われるたびに思ってた。
で、軽々しく言えるのは「不特定多数(一般)向けの店舗運営」をやったことがないからだろうと結論付けました。実際、目立つプレスリリースして資本も募って華々しく新規開店して半年1年で撤退/倒産なんて話は過去ゴロゴロ。希望に満ち溢れた数字(収益計画)も甘く軽かったってことです。経営資源という残り時間があるうちに2の手3の手が打てなかっただけ。目新しいと思っていたことが目新しくなかっただけ。時代や環境のセイにしただけです。
目の届く&手の届く範囲で自分だったら買いたいと思える品を常時年中売場に出しているかどうか。品目増やしても同じプロセスを続け、増幅させ続けていけるかどうか。いま続いている個人店や伸びている食品小売の共通項でもあります。一定の運営ルール(マニュアル)・商品力・ホスピタリティ・算盤。すべてに偏らずすべてが成立していないと続きません。

“自分だったら買いたいと思える商品”が私の場合は野菜でした。野菜は劣化します。商品価値の低下速度が数時間単位。調味料や食品と大きく異なる点ですし、自分で調理加工する(商品数を調整できる)弁当惣菜飲食とも異なる点。常に鮮度という時間経過と向き合い、ベター&ベストで相手に渡し対価を得て運営し続けるその繰り返しです。

「八百屋なんて簡単だ」と過去私に言ってきた人達へ。
私はこれからも産直八百屋という店舗運営を続けます。
簡単だと言ってきた人達、誰ひとり続けられなかった運営形態をね。
美味しいと言って買ってくださる人が居て、収益が取れて運営できているうちはですけど、まぁできるだけ。

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どの業態・規模・職種でも継続している人達は素晴らしいです。やる前から簡単なんて思わず、店を実際に見に来てもないのに簡単なんて言わず、リスペクトを持ったやりとりをぜひ。

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