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光に堕ちた涙 -もしくは運命に踊らされた悲しみの系譜

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私の回顧録。 不定期で更新。
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#大阪

最終章 "人"という字に"夢"が寄り添って"儚い"と読みます

最終章 "人"という字に"夢"が寄り添って"儚い"と読みます

あの北新地220万の乱から嘘のように静かな日々が流れていました。
出稼ぎから帰ってきた風俗嬢とカロリを飲み、職業不詳の男性客とシャンペンを軽く飲み、全裸で踊れば着物姿の初老の女性に箸で"息子"を掴まれる。
ざっくり言えばこんな感じの毎日を過ごしていました。

この日もいつもと同じく"貧"と"富"を結び、資本主義の縮図を見せつけるかの如く走る阪急電車に乗り込みました。
握り締めたエナジードリンクがひ

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第19章 昼は大学生、夜は水商売!あたいはちょっぴり哀しい魔法少女なの!

第19章 昼は大学生、夜は水商売!あたいはちょっぴり哀しい魔法少女なの!

飛び交う高級酒、パラパラを踊る従業員、知らぬ間に消えた黒人とフリーザ様。
この異様な雰囲気の中、席の片隅で悪魔のような眼差しで飲酒する大学生、それが私でした。
黒人からの告白を受けたフリーザ様が消えて以降の数十分間は記憶にございません。
(※ただ単純に悲しく悔しかったので、目の前のシャンペンをひたすら飲み散らかす妖怪と化していた)

せっせと酒を注ぎ、オオスズメバチの巣みたいな髪型のホステスが歌う

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第五章 愛はユンボより重く、気の抜けたシャンパンより味気ない

第五章 愛はユンボより重く、気の抜けたシャンパンより味気ない

チクタク、チクタクとJさんのアルコール爆弾は確実に彼の体内を蝕み、意識を遠い別世界へと誘って行きます。

Jさんは奥の灰皿の前に置かれた空き瓶ケースに腰掛け、買ったばかりの赤マルに火をつけました。

「まだ序盤やのに酔うてもうたわ。」
"死神が振り下ろした鎌"、"アルコール時限爆弾"。
私は歯の裏まで出かかった言葉を吐き気を催しながらも胃の中に逆戻りさせました。

私は清潔で健やかな花王のような人

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序章

序章

今日は解体新書ではなく、私の回想録にしたいと思います。

大学時代、濡れた犬のような異臭を放つポロアパートで一人暮らしをしていた私は、授業と部活とアルバイトに殺されていました。

吸い殻が溢れるペットボトル、ゴミ箱はなく無造作に置かれたゴミ袋、酒の空き缶。
私の居住する部屋には、人間の荒んだ心が百貨店のように敷き詰められていました。

日本国民なので"健康で文化的な最低限度の生活を営む権利"を持っ

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第一章 井の中の蛙大海へ

第一章 井の中の蛙大海へ

扉の向こうは有名人のサインだらけ。

内装はオールピンク。

鮮やかな色ですが、どこか悲しく暗い雰囲気には変わりありませんでした。

鼻をかすめる香りはどこか懐かしく、その香りは私を北新地から難波へと連れて行ってくれました。
その香りを思い出すのにそれほど時間はかかりませんでした。
目を閉じるとその風景が目に浮かんできます。
それは風俗の待合室の香りでした。
悶々とした男達が全く興味のない雑誌の興

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第二章 初陣の夜、鬼達は静かに刃を研ぎ澄ます

第二章 初陣の夜、鬼達は静かに刃を研ぎ澄ます

記念すべし初出勤。
0時オープン5時閉店というトリッキーな営業体系を取る店舗。

「おはようございます!」私は清潔で健やかな毎日を過ごす花王のような人間(実際は不潔で自堕落な生活を送る貧困層)なので、大きな声で挨拶。

初出勤なので皆さんの自己紹介を受けました。

1.代表
グループの副ボスでこの店のトップ。「君臨すれども統治せず」を貫き、店舗の実務は先日紹介したHさんに任せている。丸坊主にハット

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第三章 アネモネの花は邪悪な毒蛾に食い潰される

第三章 アネモネの花は邪悪な毒蛾に食い潰される

「ベルエ一本や」
男性客は席に着く前にオーダーを告げました。

夜の世界ではドンペリニョンと並ぶ定番シャンパン。
ラベルに飾られるアネモネの花が象徴的。

「いらっしゃいませ!」と特攻隊Kと唐獅子牡丹Nはすぐさま席に案内。

さすがだと私は感心しました。
客がいないため従業員が近い一番手前の席にあえて案内しました。
全盛期の巨人を支えた名二塁手 仁志敏久を彷彿させる迅速と丁寧を兼ね備えたご案内。

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第四章 雨音は危険な報せ

第四章 雨音は危険な報せ

授業→部活→夜勤の無限ループ。
私は大学生なのか。それとも捕虜なのか。
現代版蟹工船と言わんばかりの生活。
夢と希望を乗せてきた船は舵が取れず、ただただ太平洋上を彷徨うばかりです。

その日も堂島川を眺めながらエコーを深く吸い、川の向こうの景色に叶わぬ希望を乗せて気体より重い煙を吐き出していました。

その日は生憎の雨でした。
「この雨が俺の汚れた心を洗うシャワーになれば」
雨は激しく降るわけでも

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