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カルマの行方

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サラリーマン丸井和彦は平和な街"高槻市"に億劫としていた。 その丸井の前に現れた日雇い労働者宇賀はある仕事を持ちかける。                          ➖「あ…
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#この街がすき

第十六話 サイレンと2発の弾丸

第十六話 サイレンと2発の弾丸

「丸ちゃん、来てくれてありがとうね」
優華は手元の水割りで口を濡らして言った。
「かまへんで。俺はただこの昭和町というイカれた街を体感したかっただけや。決してお前に会いたいなどという思いは1ミクロンもないで。あっ、こりゃすまん、あんた文系か。早口やけど精神は希ガスくらい安定しとるで。あ、こりゃすまん、あんた文系か。まぁ俺のエネルギーは丸井というでかい質量と早口のスピードからきてるからなぁ。つまりE

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第十四話 それでもコスモスは凛と咲く

第十四話 それでもコスモスは凛と咲く

 その日の夜、丸井は御堂筋線昭和町駅に居た。
 地上に上がり、松虫通りとあびこ筋が丁度交わる交差点に立った。
 ガードレールの端に小さなコスモスの花壇があった。
 「昭和町抗争」で治安悪化が進み、白昼堂々と衝突することもしばしばあった事から地元住民の1人がコスモスの花壇を設置した。
 コスモスの花言葉は「調和」。その花はたとえ散ったとしてもまた新しい苗が植えられ、数年間に渡りこの交差点で"願い"と

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第十三話 西成暴動が産んだ怪物

第十三話 西成暴動が産んだ怪物

 昭和町はあべのハルカスのお膝元に位置する阿倍野区の下町だ。
 かつては大阪市内南部きっての飲み屋街として発展し、大阪府内でも比較的安心して暮らしていける数少ない町だった。
 しかし、時代の波というべき"西成暴動"が昭和町を怪物へと変貌させる。
 西成暴動とは大阪府警の巡査がドヤ街にある銭湯"大関"にて、日雇い労働者と缶ビールを巡った口論に発展し、「お前ら独房ぶち込むぞ」と発言した事が後日、西成区

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第十二話 大阪のスイスは怪物に食べられました

第十二話 大阪のスイスは怪物に食べられました

 机の上のストロングゼロの空き缶はハイライトの吸い殻でいっぱいになっていた。
 丸井はしかめっ面で火をつけた。ハイライトの煙が目に入りポロリと涙が出た。
 昨晩の酒が少し残っているのか軽い頭痛がした。

午前6時に起床した丸井はオロナミンCより黄色い尿を終わらした後、会社に電話をかけ長期休暇の申請をした。
「あん?長期休暇?仕事どうすんの?え?クライアントは?あん?まぁええわ。はい。ほな。」
ガチ

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第十一話 布施駅のアスファルトは冷たい

第十一話 布施駅のアスファルトは冷たい

 会計の時、優華は丸井の前に手をかざし、万札を2枚机に出した。丸井は何も言わず、頭をペコリと下げ、先に店を出た。
 外気は酒で壊れた身体をアイシングするかのようにひんやりとした。
「丸ちゃん、今日はおおきにね。」
優華は酔いが回ったのか、おぼつかない足取りで店から出てきた。
「何をいうてんねや。こちらこそご馳走さんやで」
 丸井は酔っ払ったフリをして、優華の肩を叩いた。
 ささやかながらのボディー

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第十話 とれたてのカルマはいらんかね?

第十話 とれたてのカルマはいらんかね?

 しばし続いた沈黙を破るように優華はデンモクを手に取り、慣れた手つきで送信した。
 ピピピッと電子音が流れた後、画面上にタイトルが現れた。

"時代おくれ 河島英五"

 昭和を代表するシンガーソングライター河島英五。
 男の哀しさ、生き様を太い声で表現した名歌手だ。
 丸井は赤子の頃に父親から子守唄として聞かされていたため、この名曲には敏感に反応した。
「河島英五やんけ。子供の頃思い出すわ!バ

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第七話 布施"嘆き"の壁

第七話 布施"嘆き"の壁

 外に出ると雨はすっかり止み、綺麗な月が人々の罪を照らすかのようにはっきりと見えた。
 「きれいな月やね。余計に酔ってしまいそうやわ」
優華はセミロングの髪を風に靡かせながらそう言った。
「月はいくら綺麗でも、この機械油の臭いで台無しやがな。鼻の穴に556ぶち込まれた気分や」
 丸井はグニャっと曲がったハイライトの煙で綺麗な満月を覆い隠すように夜空に吐き出した。
「ほんま口悪いな丸ちゃん。556鼻

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