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第十三話 西成暴動が産んだ怪物

 昭和町はあべのハルカスのお膝元に位置する阿倍野区の下町だ。
 かつては大阪市内南部きっての飲み屋街として発展し、大阪府内でも比較的安心して暮らしていける数少ない町だった。
 しかし、時代の波というべき"西成暴動"が昭和町を怪物へと変貌させる。
 西成暴動とは大阪府警の巡査がドヤ街にある銭湯"大関"にて、日雇い労働者と缶ビールを巡った口論に発展し、「お前ら独房ぶち込むぞ」と発言した事が後日、西成区の日雇い労働者全体に「日雇い労働者は罪人として処理され、逮捕される」とデマで伝わり総勢1500人が西成警察前で暴徒と化した事件。
 しかしながらこれは第一次でしかなく、その後「警察官にパンツ盗まれた」「安全靴に唾かけられた」などの理由で度々暴動に発展。
 現在に至るまで18次に及ぶ暴動が発生している。
 大阪府知事の広保貴之は「西成区に根付く"怒り"の系譜を如何にして断ち切るか。それは簡単なようだが、女性が使う"かわいい"という言葉より謎に包まれている。」と発言。男女差別だとして一部のフェミニストからバッシングを浴びた。
 それ以来西成区が特別危険区域認定。警察当局の締め付けが強化され、半グレ集団と違法滞在の外国人マフィアが隣町である昭和町に流れ込んだ。
 それ以来半グレと外国人マフィアの抗争が勃発。これは「昭和町抗争」と呼ばれ、現在も止むことなく続いている。
 特にあびこ筋と松虫通がぶつかる昭和町駅前交差点は衝突の舞台となる事が多く、道には常に薬莢が転がっている事から「弾丸のドンキホーテ」と呼ばれている。
 半グレ集団は10代後半から30代前半までの比較的若い世代が多い為、最年少で当時16歳の少年がマフィアの凶弾に倒れ、社会問題となった。
 この抗争で多くの若者が命を落としたが、その死は報われることは無く、憎しみの業火が武器や弾丸に燃え移り、また新たな火に変わるだけだった。

 丸井は西成が産んだ怪物"昭和町"の歴史を頭の中で整理したあと、新しいハイライトの封を開け、中から一本取り出し口に咥えた。
百円ライターをカチカチっとするが、ガス切れで火がつかない。
 チッと小さく舌打ちしたあと、どこかの飲み屋でもらったマッチで火をつけた。
 ハイライトの重い煙が部屋全体に充満した。


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