歩く産業廃棄物

職業:町工場  好きな漫画:特攻の拓 がんばれ元気 好きな女優:永作博美 篠崎愛

歩く産業廃棄物

職業:町工場  好きな漫画:特攻の拓 がんばれ元気 好きな女優:永作博美 篠崎愛

マガジン

  • カルマの行方

    サラリーマン丸井和彦は平和な街"高槻市"に億劫としていた。 その丸井の前に現れた日雇い労働者宇賀はある仕事を持ちかける。                          ➖「ある女の口噛み酒を手に入れろ」➖            報酬は世界で一番美味い酒を永遠に飲める権利。           "東大阪内戦"、"昭和町抗争"、地図から消された町"富田林"、町工場と日本最大の秘密結社という二つの顔を持つ街"八尾"、そして"大阪オリンピック"が抱える闇。             なぜ、大阪はこれほどまでに多くの哀しみを抱えるのか? 過去と現代が紡ぎ出した大阪府という怪物が、暴力と混沌にまみれた近鉄電車に乗ってサラリーマン丸井和彦を飲み込む。     ※この物語は"パラレルワールド"で架空の歴史を辿る大阪府を舞台としています。今我々が生きる"時代軸"とは一切関係ありません。

  • 光に堕ちた涙 -もしくは運命に踊らされた悲しみの系譜

    私の回顧録。 不定期で更新。

  • 格闘家解体新書

    格闘家の歴史語ります。 ミスってたらごめんなさい。

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序章

何かが焼けた臭いがする。ほんのり漂うアンモニアはラーメンの黒胡椒のように存在感がある。 寂しそうな近鉄電車から降りた乗客はパスポートを手に改札に向かう。 雑居ビル…

平野区に群がる狼〜八尾アリオと環状線が生んだ混沌〜

序論大阪市平野区とは、言わずと知れた大阪の中心都市であり、私の地元。  その歴史を辿ると、義務教育を満期で出所した人なら一度は聞いた事のある"征夷大将軍"坂上田村…

第十七話 #あの頃の近鉄復帰戦線

 あの頃の近鉄復帰戦線とは、布施を起点とする"嘆きの壁"を東大阪の文化を失うきっかけとなり得るとして、壁撤廃へと動く過激派。  近畿大学長瀬キャンパスを占拠した「…

第十六話 サイレンと2発の弾丸

「丸ちゃん、来てくれてありがとうね」 優華は手元の水割りで口を濡らして言った。 「かまへんで。俺はただこの昭和町というイカれた街を体感したかっただけや。決してお前…

第十五話 茶道と水割りは紙一重

 「ペルセウスビル」の3階に目的の店があった。  安っぽい扉の上には「赤い狐火」の表札がある。  丸井は大きく2回深呼吸してから重たい扉を開けた。  向かって左手側…

第十四話 それでもコスモスは凛と咲く

 その日の夜、丸井は御堂筋線昭和町駅に居た。  地上に上がり、松虫通りとあびこ筋が丁度交わる交差点に立った。  ガードレールの端に小さなコスモスの花壇があった。 …

第十三話 西成暴動が産んだ怪物

 昭和町はあべのハルカスのお膝元に位置する阿倍野区の下町だ。  かつては大阪市内南部きっての飲み屋街として発展し、大阪府内でも比較的安心して暮らしていける数少な…

第十二話 大阪のスイスは怪物に食べられました

 机の上のストロングゼロの空き缶はハイライトの吸い殻でいっぱいになっていた。  丸井はしかめっ面で火をつけた。ハイライトの煙が目に入りポロリと涙が出た。  昨晩の…

第十一話 布施駅のアスファルトは冷たい

 会計の時、優華は丸井の前に手をかざし、万札を2枚机に出した。丸井は何も言わず、頭をペコリと下げ、先に店を出た。  外気は酒で壊れた身体をアイシングするかのように…

第十話 とれたてのカルマはいらんかね?

 しばし続いた沈黙を破るように優華はデンモクを手に取り、慣れた手つきで送信した。  ピピピッと電子音が流れた後、画面上にタイトルが現れた。 "時代おくれ 河島英五…

第九話 "いいちこ"と正反対の男

「じっくりいいちこ飲むなんか久々や。美味いなぁ」  グラスを傾けながら、ポロリと言葉が溢れた。 「正反対やろ」  優華はこちらをじっと見てそう呟いた。 「嫉妬してる…

第八話 金玉取られたアントニオ

"サンクチュアリ"。看板にはそう書かれていた。  三階の一番奥に小さな看板を掲げた店だった。 入り口には大阪府知事広保貴之の選挙ポスターが貼られているが、黒のマジッ…

第七話 布施"嘆き"の壁

 外に出ると雨はすっかり止み、綺麗な月が人々の罪を照らすかのようにはっきりと見えた。  「きれいな月やね。余計に酔ってしまいそうやわ」 優華はセミロングの髪を風に…

第六話 そこどけそこどけ生野が通る

大阪市生野区。 西成区と肩を並べるほど治安悪化が進んでいる。  大阪市から特別危険区域に指定されて数年が経つが治安は一切回復しないでいた。 生野区の入り口と呼ばれ…

第五話 心の仮性包茎

 彼女は丸井のすぐ横についた。カウンターに置かれた手が小さく震えている。典型的なアルコール依存症の症状だ。  チラッと彼女と目があった。1秒にも満たない短い時間だ…

第四話 アルコールとのどごしと油臭さと

 長瀬駅を下車した丸井は外の雨に億劫としていた。  改札の前にある東大阪入場管理局でパスポートを開示した丸井は、国内でパスポートを持ち歩くめんどくささに顔をしか…

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序章

何かが焼けた臭いがする。ほんのり漂うアンモニアはラーメンの黒胡椒のように存在感がある。 寂しそうな近鉄電車から降りた乗客はパスポートを手に改札に向かう。 雑居ビルのエレベーターにはバンクシーの作品がひっそりと佇んでいる。 東大阪市をぐるんと囲んだ"壁"は人々の心より冷たいコンクリート。 壁の上の高圧電線は触れるだけでピカチュウもビックリするほどの電圧で感電させる。 壁の前に落ちた吸い殻の数は東大阪市民の嘆きそのものだ。 「そこどけーそこどけー生野が通るーそこどけーそこどけー

平野区に群がる狼〜八尾アリオと環状線が生んだ混沌〜

序論大阪市平野区とは、言わずと知れた大阪の中心都市であり、私の地元。  その歴史を辿ると、義務教育を満期で出所した人なら一度は聞いた事のある"征夷大将軍"坂上田村麻呂の息子が開発した歴史があります。  その長い歴史の中でも懐古の風景を失うことなく発展し、夏の杭全神社は地車と多くの人々で賑わう、非常に趣深い街、それが大阪の中心都市である平野区なのです。 人口19万人と大阪市24区で最も人口が多いことから、大阪市内における平野区の重要性が分かります。(※平野区は十津川村の54

第十七話 #あの頃の近鉄復帰戦線

 あの頃の近鉄復帰戦線とは、布施を起点とする"嘆きの壁"を東大阪の文化を失うきっかけとなり得るとして、壁撤廃へと動く過激派。  近畿大学長瀬キャンパスを占拠した「近大紛争」では数ヶ月に及ぶ激闘となったが、自衛隊の出動で撤退を余儀なくされた。  行き場を無くした戦線は東大阪市の日新高校に立て篭もった。  幸い生徒含む学校関係者は誰もおらず、女子生徒のリコーダー目当てで不法侵入した男がいたものの、自首する事を条件に解放され、そのまま枚岡警察署に出頭した  大阪府警機動隊は正門側に

第十六話 サイレンと2発の弾丸

「丸ちゃん、来てくれてありがとうね」 優華は手元の水割りで口を濡らして言った。 「かまへんで。俺はただこの昭和町というイカれた街を体感したかっただけや。決してお前に会いたいなどという思いは1ミクロンもないで。あっ、こりゃすまん、あんた文系か。早口やけど精神は希ガスくらい安定しとるで。あ、こりゃすまん、あんた文系か。まぁ俺のエネルギーは丸井というでかい質量と早口のスピードからきてるからなぁ。つまりE = mc²、相対性理論やな。あっ、こりゃすまん、あんた文系か。」 童貞特有の早

第十五話 茶道と水割りは紙一重

 「ペルセウスビル」の3階に目的の店があった。  安っぽい扉の上には「赤い狐火」の表札がある。  丸井は大きく2回深呼吸してから重たい扉を開けた。  向かって左手側にカウンター、右手側にボックス席が2つ。客は誰もおらず、カウンターの中にポツンと1人女性がいた。  女性は携帯電話を触る手を止め、こちらを見た。  大きく見開いた目のクマは遠目でもすぐに確認できる。背負った悲しみが形となって現れたように見えた。  「丸ちゃん!来てくれたん!」  優華はセミロングの髪を後ろで束ね、や

第十四話 それでもコスモスは凛と咲く

 その日の夜、丸井は御堂筋線昭和町駅に居た。  地上に上がり、松虫通りとあびこ筋が丁度交わる交差点に立った。  ガードレールの端に小さなコスモスの花壇があった。  「昭和町抗争」で治安悪化が進み、白昼堂々と衝突することもしばしばあった事から地元住民の1人がコスモスの花壇を設置した。  コスモスの花言葉は「調和」。その花はたとえ散ったとしてもまた新しい苗が植えられ、数年間に渡りこの交差点で"願い"として咲き続けている。  コスモスの横の信号が青に変わり横断しようとしたその時だ

第十三話 西成暴動が産んだ怪物

 昭和町はあべのハルカスのお膝元に位置する阿倍野区の下町だ。  かつては大阪市内南部きっての飲み屋街として発展し、大阪府内でも比較的安心して暮らしていける数少ない町だった。  しかし、時代の波というべき"西成暴動"が昭和町を怪物へと変貌させる。  西成暴動とは大阪府警の巡査がドヤ街にある銭湯"大関"にて、日雇い労働者と缶ビールを巡った口論に発展し、「お前ら独房ぶち込むぞ」と発言した事が後日、西成区の日雇い労働者全体に「日雇い労働者は罪人として処理され、逮捕される」とデマで伝わ

第十二話 大阪のスイスは怪物に食べられました

 机の上のストロングゼロの空き缶はハイライトの吸い殻でいっぱいになっていた。  丸井はしかめっ面で火をつけた。ハイライトの煙が目に入りポロリと涙が出た。  昨晩の酒が少し残っているのか軽い頭痛がした。 午前6時に起床した丸井はオロナミンCより黄色い尿を終わらした後、会社に電話をかけ長期休暇の申請をした。 「あん?長期休暇?仕事どうすんの?え?クライアントは?あん?まぁええわ。はい。ほな。」 ガチャンと電話を切られた。  上司はあからさまに鬱陶しそうに返事をした。  この上司

第十一話 布施駅のアスファルトは冷たい

 会計の時、優華は丸井の前に手をかざし、万札を2枚机に出した。丸井は何も言わず、頭をペコリと下げ、先に店を出た。  外気は酒で壊れた身体をアイシングするかのようにひんやりとした。 「丸ちゃん、今日はおおきにね。」 優華は酔いが回ったのか、おぼつかない足取りで店から出てきた。 「何をいうてんねや。こちらこそご馳走さんやで」  丸井は酔っ払ったフリをして、優華の肩を叩いた。  ささやかながらのボディータッチだ。  酔っ払ったフリをしてどさくさに紛れながら女性を触ることから"ドサイ

第十話 とれたてのカルマはいらんかね?

 しばし続いた沈黙を破るように優華はデンモクを手に取り、慣れた手つきで送信した。  ピピピッと電子音が流れた後、画面上にタイトルが現れた。 "時代おくれ 河島英五"  昭和を代表するシンガーソングライター河島英五。  男の哀しさ、生き様を太い声で表現した名歌手だ。  丸井は赤子の頃に父親から子守唄として聞かされていたため、この名曲には敏感に反応した。 「河島英五やんけ。子供の頃思い出すわ!バブーバブー!!」  丸井は先ほどまでの沈黙が嘘のようにウキウキした気分に包まれて

第九話 "いいちこ"と正反対の男

「じっくりいいちこ飲むなんか久々や。美味いなぁ」  グラスを傾けながら、ポロリと言葉が溢れた。 「正反対やろ」  優華はこちらをじっと見てそう呟いた。 「嫉妬してるんやろ、いいちこに。」  グラスの中の氷をカラカラと奏で、優華は丸井に言った。 「なんやこら。ワシは酒に愛されて殺される人生願っとんねん。嫉妬なんかするかいや。いいちこの性格ごと肝臓にぶち込んで、糞と小便垂れ流して死んだらぁ。」  優華の言葉は丸井の心を撃ち抜いていた。  まろやかな口当たり、優しい香り、万人受けす

第八話 金玉取られたアントニオ

"サンクチュアリ"。看板にはそう書かれていた。  三階の一番奥に小さな看板を掲げた店だった。 入り口には大阪府知事広保貴之の選挙ポスターが貼られているが、黒のマジックで大きく"✖︎"と上から書かれていた。  ソ連崩壊後の東欧を彷彿させる飲み屋。  バイオレンスが何よりの表現技法である東大阪においてそれほど珍しい光景ではないが、"平和な街"高槻で暮らしている丸井にとっては、ハンマーで殴られたような衝撃的な事案であった。  優華は"✖︎印選挙ポスター"など見えていないかのようにサ

第七話 布施"嘆き"の壁

 外に出ると雨はすっかり止み、綺麗な月が人々の罪を照らすかのようにはっきりと見えた。  「きれいな月やね。余計に酔ってしまいそうやわ」 優華はセミロングの髪を風に靡かせながらそう言った。 「月はいくら綺麗でも、この機械油の臭いで台無しやがな。鼻の穴に556ぶち込まれた気分や」  丸井はグニャっと曲がったハイライトの煙で綺麗な満月を覆い隠すように夜空に吐き出した。 「ほんま口悪いな丸ちゃん。556鼻に入れられたことあんの?」  ムッとした顔で優華は丸井に問いかけた。 「あらへん

第六話 そこどけそこどけ生野が通る

大阪市生野区。 西成区と肩を並べるほど治安悪化が進んでいる。  大阪市から特別危険区域に指定されて数年が経つが治安は一切回復しないでいた。 生野区の入り口と呼ばれている桃谷駅では「そこどけそこどけ生野が通る〜」から始まる生野わらべ歌がJR環状線の電車到着を知らせるメロディーとして採用されている。  南巽、北巽、鶴橋という生野区で最も治安の乱れた地区を通る大阪メトロ千日前線は、同3駅を廃駅とした。  この動きに反抗したのは、鶴橋の一部を含む東成区の市民だった。  街頭インタビュ

第五話 心の仮性包茎

 彼女は丸井のすぐ横についた。カウンターに置かれた手が小さく震えている。典型的なアルコール依存症の症状だ。  チラッと彼女と目があった。1秒にも満たない短い時間だった。  恐らく20代後半だと思うが、綺麗な瞳の下には大きな"クマ"があり、それはファンデーションでも隠せず、瞳の大きさをより際立たせていた。何か大きな業を背負い、丸井を悲しみの奥底まで引きずり込みそうな瞳だった。  彼女はエイヒレと瓶ビールを注文した。  手慣れた注文。「(すぐわかる"常習者"のメニューやん。)」と

第四話 アルコールとのどごしと油臭さと

 長瀬駅を下車した丸井は外の雨に億劫としていた。  改札の前にある東大阪入場管理局でパスポートを開示した丸井は、国内でパスポートを持ち歩くめんどくささに顔をしかめていた。 「はい、まいど。気つけてね。夜は壁付近に行ったらあかんで。この前も二人行方不明なっとるさかい」 管理局の男性職員に警告された後、丸井はやっと駅から外に出た。  東大阪市は"街の首領"河野誠二が銅の密売で逮捕され、アメリカに身柄を引き渡されて以来治安悪化が進み、この状態の伝染を懸念した東大阪市が他地域との隔