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第十二話 大阪のスイスは怪物に食べられました

 机の上のストロングゼロの空き缶はハイライトの吸い殻でいっぱいになっていた。
 丸井はしかめっ面で火をつけた。ハイライトの煙が目に入りポロリと涙が出た。
 昨晩の酒が少し残っているのか軽い頭痛がした。

午前6時に起床した丸井はオロナミンCより黄色い尿を終わらした後、会社に電話をかけ長期休暇の申請をした。
「あん?長期休暇?仕事どうすんの?え?クライアントは?あん?まぁええわ。はい。ほな。」
ガチャンと電話を切られた。
 上司はあからさまに鬱陶しそうに返事をした。
 この上司が大嫌いだし、口が臭い。
 丸井が働いているのは高槻市直轄のゼネコン大前田組
 "大阪のスイス"こと北摂地域の発展に寄与したと言われているが、実際は官公庁とズブズブの関係で秘密結社"森嶋希を尊敬する会"との関係も噂されている。
 電話先の上司も国土交通省から天下ってきた50代。日中はネットサーフィン、夜は北新地に繰り出し、架空の領収書を片手に接待費を糞尿のように垂れ流す。
 日常業務の大半はすぐ部下に丸投げすることから"江夏"と陰口を叩かれながらも年収は2000万円以上が保障されている。
 豪雨の如く降り注ぐ天下りをショーシャンクの空ばりに受け止めるのは、公共工事に命を握られた企業の宿命だ。

 特別治安向上指定地域として認定された北摂地域はゴミ一つなく犯罪も減少し続ける平和の街として認識されているが、その裏では淀川を超えてきた"金"という怪物に心の奥底まで侵食されていた。
 談合、贈収賄、資金洗浄、金に関するあらゆる犯罪行為がある意味黙認され、企業とは名ばかりで実際は官公庁及び大阪府が垂らした糸の先で踊る人形でしかなかった。
 
 丸井はこの言いようのない苛立ちを抱えて今に至る。
 怒りに震える手でPCを立ち上げた。
 財布から取り出したのは昨夜優華から受け取った名刺。インターネットを開き、名刺に書かれた店名を検索。
「スナック 赤い狐火」
 なんとも不思議な名称だ。
 場所は大阪市阿倍野区昭和町。
丸井はこの街から生野区と同じ匂いを感じた。

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