見出し画像

医師のキャリアチェンジ:大学病院から地方の病院へ

憧れの職業でもある医師。医学部を出て医師になっても医師を辞めて転職しようとする人が案外います。私はときどき医師からのキャリア相談をお受けしますし、医師から他業種への転職をお手伝いしたことも幾度かあります。今回取り上げるのは医師の方は、どんな理由から医師を辞めようと考えたのか。どんな仕事に転職しようとして、最終的にはどのような道を選択したのでしょうか?

大学病院のハードな仕事環境

医師の大隅信彦さん(仮名/30歳)は、大学病院で外科医として勤務していました。勤務医はハードワークで大変です。大隅さんが研修医の頃、24時間連続勤務は日常的で、48時間連続勤務も珍しくなく、心身ともに非常にキツイ労働環境でした。しかし、患者さんを救う為という使命感で仕事をストイックに頑張っておられました。

研修医の期間が終わり内科医として勤務し2年が経過すると仕事にも慣れたのか周りが見えるようになってきたそうで、慢性的な人員不足、劣悪な労働環境、それらを改善しようとしない組織文化、非効率な業務プロセスなどに疑問を持つようになりました。

「2日間睡眠無しで連続勤務している状態で手術をするなんて、医療ミスが発生したらどうするのだ?…この状態を放置していて良い訳がないだろう」
「でも、休めば手術そのものが出来ずに見捨てることになってしまう…」
疑問を感じながらも、現場ではどうにもできないジレンマに悩まされていました。

あと医師の仕事はお金が目的ではないけれど、これだけ働いて年収が800万円なんて割に合わないとも内心思っていました。収入を補う為に、郊外の病院で夜勤のバイトを行う手もありますが、これ以上働いて体調を崩しては元も子もありません。

転職活動を通しての気づき

ふと、冷静に勤務先ならびに病院業界を見渡してみると多くの問題点に気づきました。例えば、医療経営に関しては経営の素人である医師が病院経営を担い、全国の病院の7割が赤字であるという現実です。「一人の医師として医療に従事するだけではなく、経営のプロとなり病院経営の立て直しをしたい」と考え、そのステップとして経営コンサルタントへの転職を希望して、人材紹介会社に登録し転職活動を開始しました。

そしてTOPクラスの外資系経営コンサルティング会社6社に応募しました。
しかし、4社で面接(2社は書類選考で不合格)になりましたが、ケース・インタビューと呼ばれる現役コンサルタントとの1対1のディスカッション形式の面接で大苦戦。その様子は…。

***
某企業の業績データの一覧表を見て、「その会社を黒字化する為の施策を考案せよ」というテーマでのディスカッションの一場面:

(大隅さん)「私が考える施策は、○○をすれば良いと思います。」

(面接官) 「それで本当に黒字化出来る?」

(大隅さん)「・・・・・」(沈黙)

(面接官) 「じゃあ、ちょっと初めに戻ろう。さっき渡した会社のデータを見てどう思う?」

(大隅さん)「え、あ、この会社の売上は前年から下がっています。」

(面接官) 「で?」

(大隅さん)「え?…」(汗タラタラ)
***

面接でもどかしい思いを幾度もする過程で、コンサルタントの仕事は自分には向いていないかもしれない、いや、努力すればキャッチアップ出来るかもしれないけれど、本当にやりたいことはこれなのだろうか、と考えるようになりました。

「医師の仕事で自分に出来ることは何か?」
「何の為に医師になろうと考えたのか?」
「医師として何をやりたいのか?」
「自分にとって一番大切なことは何か?」
などと自分自身について深く考えたそうです。

そして、出た結論は、「患者さんに向き合って、患者さんを何よりも大切にして、1人でも多くの人々を幸せにする。」というものでした。

地方の病院で高齢者医療に従事

それからほどなくして、大学病院を退職し、大隅さんのビジョンと同じ理念を掲げる地方の小規模な病院へ転職をされました。その病院が目指す医療と、大隅さんのそれがぴったりと一致しており、また新しいチャレンジとなる高齢者医療にも静かなる情熱を傾けておられて「毎日の仕事がこの上なく楽しい」とにこやかに語られていました。大隅さんは一度他業界へのキャリアチェンジを考えられましたが、ご自身の適性を見極め、納得感を持って深い覚悟とともに原点に戻られました。

行動してみて改めて気づいた自分の本当の思い。コンサルティング会社への転職活動は、大隅さんにとって価値ある寄り道だったのですね。

(2022年4月18日)
1級キャリアコンサルティング技能士
山本恵亮
プロフィール 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?