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退職の考え方(会社は教えてくれない)

(Twitterはこちら → @yanagi_092)

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前回記事のとおり、転職活動を通じて内定を得ることができました。いよいよ、新卒から15年間勤めた東京海上に対して退職を通知することになります。しかし、日本型終身雇用の会社においては、従業員が退職することを前提としていません。会社側も退職者への対応が慣れていないので、退職者がしかっかりと理論武装をする必要があります。


退職「交渉」の違和感

ぼく「よっしゃ内定ゲットだぜ。すぐに退職通知をした方がいいのですか!?」

エージェント「いや、待ってくださいww。まだ正式に内定通知書がきていませんので、退職交渉はそこからになります」

ぼく「分かりました。ところで、退職って『交渉』なのですか?私のような期間の定めのない労働者(一般的な正社員)は、決められた期限内に、会社へ雇用契約の解除の申入れをすれば良くて、会社の承認は要らないと思うのですが、合ってますか?」

エージェント「そうですよ、仰るとおりです。けど、やなぎさんのように法律的な感覚を持っている人は少ないので、一般的には『退職交渉』と言いますね。会社に言いくるめられて、なかなか退職できない人も多いですし・・・」

エージェント経由で「内定」との話を聞いていたのですが、正式な内定通知書の受領まで2週間~4週間くらい掛かります。特に外資系であれば、本国への稟議が必要な会社もあり、意外に時間が掛かることも想定されます。私は、このインターバル期間を通じて、退職に係る法律関係を整理していました。

なぜなら、退職という場面において「会社⇔労働者」の利害は全面的に対立しますので、自らの身は自らでしっかり守る必要があります。とはいえ、ここは労働者に優しい国、日本。ほとんどの法律関係は、労働者が極めて有利な規定になっています。

退職交渉


退職の申込み(いつでもOK)

一般的な正社員であれば、「期間の定めのない雇用」となります。そして、多くの人は「退職の申込み」と「有給休暇の消化」をごちゃ混ぜに考えてしまうのですが、これらはしっかりと分けて考えた方が良いと思います。以下、まずは「退職の申込み」について記載します。

民法第627条 (期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。

QA(大阪労働局のQAから抜粋&加筆)
会社の同意がなければ退職できないというものではありません(民法第627条)。
なお、民法では解約の申入れ日から2週間と規定されていますが、会社の就業規則に別途、退職の申入れ期間が規定されている場合は、原則として就業規則の規定が適用されます。ただし、就業規則で極端に長い退職申入れ期間を定めている場合などは、無効とされる場合もあります。

東京海上の就業規則においては「退職の1か月前に申入れすること」と定められており、一般的な大企業であれば1か月程度としている会社が多いと思います。これは、極端に長すぎると、その規定が「無効」とされてしまうリスクもあるため、各社の規定が概ねこの程度で落ち着いていると考えられます。

いずれにせよ、労働者に優しい日本においては、「退職日の1か月前(←各社の就業規則による)までに、会社へ退職の申込みを行えば、それで退職をすることができる」となっています。このように、労働者がいつでも辞めることができる権利を保護することによって、ブラック企業等の過重労働から保護している訳ですね。

しかし、退職を前提としない日本型終身雇用の会社において、このような知識を教えられることはありません。労働組合の勉強会等でこういったテーマを扱っても良いと思うのですが、世界的にも稀な日本の企業別労働組合は、人事部の下請け機関と化しているため、今後もこのようなテーマを扱うことは無いと思います。

そして、私の転職先の内定が出たのは3月上旬。経理部の筆頭として期末決算を控えていた私は、4~5月の期末決算をやり切ってから辞めようと思っていましたので、退職のターゲットは6月末で考えていました。あと、6月のボーナスをゲットしようとも思っていました【←これが一番大事】

ぼく「ということは、5月末までに退職の申込みをすれば足りるのか。とはいえ、無駄に遅らせる必要もないので、正式な内定通知書が来れば、すぐに会社へ退職の通知しよう。有給休暇の話は置いておいて、まずは退職日を固めよう」

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有給休暇の考え方

多くの方がご存じのとおり、有給休暇は労働者の「権利」であり、退職までに行使をしないと、その権利は消滅します。したがって、退職までに効率的な有給休暇の権利行使を検討する必要があり、この場合においては以下を頭に入れておく必要があります。

労働基準法第39条5項
使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。
ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。

前段においては、原則的に労働者は自由に有給休暇を取得できることが定められています。ただし、後段において、会社はその有給取得日を変更できるともあります。

ここで、更に踏み込んで「労働者が休みたい日」に対して「使用者(会社)が休ませたくない」というのは、どちらが優先されるのかという点まで理解しておく必要があると思います。

このように、互いの法的主張が対立する場合、どちら側に「立証責任があるのか」が重要になります。この点、会社側が有給取得日を変更したい場合は、会社側に立証責任がある訳ですね。では、何を立証しないといけないのでしょうか。それは、上記の労基法のとおり「有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる」ことを、会社側が立証する必要があります。

これは「その日に休まれると、人がいなくて困るんだよ」等のバイトのシフト的な理由では全然足りません。結局のところ、人のやりくりに係るリスクは会社側が負うものであって、労働者が負うものではなく、会社側が簡単に時季変更権を行使することはできないのです。

とはいえ、最高裁判例では「長期の連続した年休取得には、事前の十分な調整が必要」と述べていますので、労働者も節度を持った対応が必要なのですが、労働者の有給休暇については、想像以上に保護されているのも事実です。

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原則を理解したうえで、どこまで譲歩するか

「退職の申込み」と「有給の消化」について述べましたが、結局は、日本型終身雇用の会社において、人事部および労働組合がこういった啓蒙活動を行うことはなく、どうしても「会社寄りの法的解釈」しか耳に入ってこないので、退職は『交渉』と言われるような状況なのですが、正しく規定を理解すれば、そもそも『交渉』ですらないと思います。

しかし、東京海上は長年勤めた会社ですし、新人時代から育てていただいた感謝の念もあります。退職において、原則的に会社と労働者の利害が一致することはありませんが、それでもある程度は譲歩をして辞めたいと思っていました。

このように、原則を知ったうえで、それでも労働者側に「多少は譲歩してでも、揉め事なく綺麗に辞めたい」という思いがあるなら、その段階で初めて「退職『交渉』」になるのであって、「退職」=「退職交渉が必要」という訳ではありません。

品行方正


それでも上司を信頼したい

エージェント「やなぎさん、正式に内定通知書がきましたよ!」

ぼく「いよいよか・・・」

前述のとおり、退職という場面において、原則的に「会社⇔労働者」の利害は対立しますので、できれば録音をしておきたいところです。

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といいますのも、管理職等の責任者もこのような法律上の理解が不十分で、「本当に辞めれると思っているのか?」「急に辞められたら困るから却下」等の無茶苦茶な返答をする人も居るので、どのように自己防衛をするかを考えていました。

特に、東京海上においては、1970年代の自動車保険バブル以降に大量採用された、体育会の脳ミソ筋肉系(通称「脳筋」)管理職が、これらの無茶苦茶な返答をする話を聞いたことがありました。

このような背景もあって、労働者側からすると、録音をしない理由はありません。しかし、お世話になった上司です。奴隷の身分になった私ですが、奴隷から救い出そうと、裏で尽力いただいていたのだと思います。そんな上司に対して、だまし討ちのように録音をすることは、強い抵抗感がありました。抵抗感と言うとカッコイイですが、単に「嫌われる勇気」が無かっただけかもしれません。

このような葛藤のなか、私の出した答えは以下のとおりです。

ぼく「お世話になった上司だし、最初は録音をせずに正面から臨もう。ただ、そこで変なことを言うのなら、第2ラウンド以降、全て録音して全面戦争をすればいいさ・・・」

(続く)

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