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音楽とSF、音楽と世界観

 最近、ふと思いました。SF作品の中で、音楽って結構存在感があるなと。そこで今回は、SF作品と音楽の関係性や、作品における音楽の役割について思いを馳せようと思います。
 ※以下、常体でお届けしますのでご了承ください。


切っても切れない音楽とSF


 最近、『スノウ・クラッシュ』の新版を読んだ。1992年発売のSF小説、巷で話題の“メタヴァース”という言葉を生み出した作品なので、題名を聞いたことがある人も多いかもしれない。

 本作は、近未来のアメリカで暮らす、敏腕ハッカー兼ピザ配達員のヒロが主人公の物語。SF・ボーイミーツガール・ミステリー冒険譚といった感じで、割とポップな内容だ。

 詳細なあらすじや、ビジネス的観点での考察は他の人に譲るとして。私は、この中に登場するニッポニーズ(日本人)のラップスター“スシ・K”に大変興味を持った。 
 『スノウ・クラッシュ』の世界で、あまりにもステレオタイプな“スシ・K”なんて名前を付けたのは、1992年の価値観が故なのか、“スシ・K”本人が逆に奇を衒ったものなのか。何故、あんな技術の発達した世界において、人間が歌うラップがもてはやされているのか……。
 私は元々音楽が好きなので、そんなことに思いを巡らせ、興味深いなと感じた次第だ。

 さてさて。SF作品では、実はよく音楽の要素が登場する。軽くあげるだけでも……。

『スター・ウォーズ エピソード4: 新たなる希望』(1977/映画)

 惑星タトゥイーンの酒場、カンティーナにてエイリアンたちがジャズ・スウィングを演奏している。


『トロン: レガシー』(2010/映画)

 劇中のクラブで流れる曲はテクノ/ハウス(映画のサウンドトラックを担当したDaft Punkがカメオ出演)。


『デトロイト: ビカムヒューマン』(2018/ゲーム)

 主要キャラクターの一人(若者ではない)が、メタルやジャズを好んで聞く。
 若者の間ではVRでヘッドセットを付けてライブに行くのが主流だが、オーディエンスの前で演奏をする形式のライブを復活させる企画が立ち上げられた。
 アンドロイドのボーイズバンドが、ミュージックアワードを受賞。音楽業界において、人間のミュージシャンが占める割合が5%以下になっている。


『トム・ハザードの止まらない時間』(2018/小説)

 400年以上生き続ける主人公は、長い人生で多くの楽器を扱い演奏する。道端でリュートを弾き生活費を稼いだり、バーでピアノを演奏したりと、彼のあまりに長い人生では常に音楽が流れている。


 SFの世界観において、音楽がどんな風に扱われているのかについて注目するのはとても面白い。

 SFと親和性の高い音楽をぱっと想像すると、『トロン: レガシー』のようなテクノ、ハウスといったジャンルが思い浮かぶ。SFはやはり機械文明/技術の発達した世界だから、機械を用いた音楽”ジャンル”と結びつけるのは簡単だ。

 一方で、『デトロイト~』のように音楽の“提供形式”や“演者の属性”が、その作品の世界観と密接に関係しているのを見るとワクワクする。『デトロイト~』では、雑誌での記載に留まっているが、かなりリアリティのある設定になっていて好きだ。
 このゲームを作ったのはフランスの会社だが、舞台が2038年のアメリカということで、流行している音楽が(多分)ロックやポップスに設定されているのもリアルでいい。

 そんな中、作品冒頭で「遠い昔」と口上がある『スター・ウォーズ』は音楽もレトロフューチャーな雰囲気。
 カンティーナで演奏される音楽は、今の私たちが見ても何かわかるような管楽器で奏でられており、ジャンルもスウィングやジャズ。それが、宇宙船やエイリアンに溢れた世界で演奏されるからこそ、楽しさも際立つという面白みがある。


音楽と世界観

 このように、音楽はSFの世界観を物語るのに大変便利な要素だ。SFに限ったことではないが、その世界における
 ・技術レベル
 ・人々の関心事や価値観
 ・人/金/物/情報の流れ
 といった内容を表現出来るからだ。ライブやリリース情報の習得、チケット購入、音楽の楽しみ方、演者と聴衆、金儲けをする仕組み……。あらゆる要素を自然に表現することで、世界観がよりわかりやすくなる。

 これは、小説を書く側にとって結構ありがたい。そして世界観を理解しやすくなるという点で、読者にも嬉しいことだ。特に、SFのように世界観が複雑で難しい場合は、かなり重宝するのではないだろうか。

 例えば。もしそのSFの世界観では、VRでライブをするのが主流ならば。よりいい音質でライブをするために、少しでも“情報量”が少なくて済む音楽ジャンルが流行るかもしれない。音楽そのものの情報量を減らして、音質の方に割り振れば、高音質のライブが出来る。

 その流れで設定するなら、案外と近未来の世界で流行るのは、ギター一本弾き語りだったりするかもしれない。演奏はシンプルに、その代わり高音質で没入感がある。そんな音楽が、機械とデータ仕掛けの世界で流行っていたら面白い。また、技術革新の段階によって流行が左右されている描写もあれば、なかなか楽しいんじゃなかろうか。

 余談だが、拙作の中にも一つSF×音楽の作品がある。

『ティーンズ・イン・ザ・ボックス ※カクヨム掲載』

 ジャンルは恋愛だが、近未来の世界観で繰り広げられる青春ストーリーだ。SFの世界観の中で音楽を扱うことにより、技術レベルや登場人物の成り立ち、作品のティーンエイジャーたちとサブカルチャーのテンションを自然に描けて助かった記憶がある。


 こうして考えると、世の中に音楽を扱ったSF小説や映画がもっとたくさんあってほしい。近未来の音楽業界で奮闘する人間とアンドロイド混合のバンドのSFロードムービーとか、歌を歌う機械が暴走して宗教を始めたとか、そういう作品が色々あったらきっと面白い。もちろん、SF以外の分野でもあったらいいのになと思う。

 音楽で世界観を表現した作品でおすすめのものがあったら、そして、もしあなたがそうした物語を作り上げたなら。読んで/観てみたいなぁと思うので、是非とも教えて欲しい。
 映像で味わう空気感を、文字から聴こえる音楽を目の前に、ワクワクと心を躍らせたい。



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© 2022 Aki Yamukai

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