私は演じることで生きている
◇◇ショートショートストーリー
みつ子は台本に何度も書き込みをしています。演出の是沢がその場でどんどんセリフを変えていくので、常に緊張感と共に、稽古に臨まなければいけません。
彼女はデパートの販売員をしていますが、彼女にとって職場は生活のための収入を得る場所であって、自分の魂が心から求めている所ではありません。
彼女は稽古場では、演技にメラメラと火がついて、心を震わせながら舞台の世界にのめり込み、生きている実感を得ることができるのです。
真夏の夜も、汗だくになりながら稽古は遅くまで続きます。10人以上の団員が毎日集まって、学生時代の部室のような雑多な空間で、いい芝居が届けたいという共通の価値観のもとに稽古を重ねるのです。
この日もまた是沢から檄が飛びました。
「みつ子、動きがまだぎこちないんだよ、客席からどう見えるか分かってるのか、顔の向きはそっちじゃないだろう、出来ないなら、役から降りろよ」
みつ子は、悔し涙を流していました。
「昨日は、この角度がいいって言ってたのに、今日は違うなんて、言ってる事が私にはわからない、私に何を求めてるの・・・」
是沢の演出に沿うように懸命に頑張るみつ子ですが、彼についていくにはみつ子はまだまだ経験が浅いのです。
自分の中にしっかりと落とし込めなければ演じられないみつ子は、勘が鈍い自分が歯がゆくて仕方がありません。
劇団に入るまで彼女は自己表現が人一倍苦手なタイプでした。
両親の離婚で小学生の時からおばあさんに育てられて、25歳になるまでできるだけ人に嫌われないで生きていく方法ばかりを考えていた彼女は、自分の思いを人に主張したことなど、一度もありませんでした。
相手が望む事は何なのか、そればかりを考えて、自分はさておき、相手に合わせていたのです。
ところが2年前に、友人が出演する、地元劇団の芝居を観劇して、いつもと違う生き生きとした姿で演じる友人を見て衝撃をうけ、すぐさま入団したのです。
初めて端役で出演した時、舞台の上にいる自分が、とても自由で解放された気分がしました。
「普段の私は、わたしであって、私じゃない、私は舞台にいる私が好き」みつ子はそう思ったのです。
稽古の最中にぼんやりしているみつ子を見て、是沢の檄が飛びます。
「みつ子、お前やる気あるのか、お前集中しろよ」
彼女は我に返りました。
「みつ子、役になり切って、思いっきり、やれよ」と再び是沢の声です。
みつ子は、「私が生きている実感を得られるのは、ここしかない、とにかく演じることで自分を表現していこう」と決めました。
彼女は役柄のセリフを語ります。
「私は、ここで生きていくの、どうしてって、この場所こそが、私が一番私らしくいられる場所だからよ」
「みつ子、いいよ、それそれ、やればできるじゃないか」久々に是沢が誉めてくれました。
みつ子は、「あー、私はここにいる、これが私なんだ」と、改めて自分の居場所を確かめていました。
彼女は今、演じることで生きている実感を得ているのです。
【毎日がバトル:山田家の女たち】
《上手じゃなかったけど、娘じゃない気がしたわい》
贈られて来た、温室みかんを美味しく頂いていたばあばとの会話です
「お芝居を観るのは楽しいけど、演じてその人になりきるんは難しいじゃろね」
「ほうよー」
「なりきっとったら、観客には伝わるんよねー、あんた、前におしばいに出た時に一生懸命やりやったねー」
「どうじゃった」
「上手じゃなかったけど、娘じゃないような気がしたんよ」
「私はセリフを言うのが精一杯じゃったんよ」
私も一度だけ、お芝居に出た経験がありますが本当にいい経験になりました。
【ばあばの俳句】
気合入れガッツポーズで夏に勝つ
何とも元気なイラストと俳句が誕生しました。91歳のおばあちゃんの句には思えませんが、母の句とイラストです。
自ら奮い立たせて、夏に打ち勝つ心意気が感じられます。
厳しい毎日ですが、母には乗り切って欲しいと思います。
▽「ばあばの俳句」「毎日がバトル:山田家の女たち」と20時前後には「フリートークでこんばんは」も音声配信しています。お聞きいただければとても嬉しいです。
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私のアルバムの中の写真から
また明日お会いしましょう。💗
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