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言葉の引き出しの鍵

◇◇ショートショートストーリー

涼子の言葉の引き出しには生活に必要な最小限の言葉しか入っていません。喜びや、感動の言葉は全て封印してしまいました。
エキゾチックな顔立ちの涼子はとても美しい少女ですが、いつも沈んだ顔をしています。それがまた彼女のアンニュイな雰囲気を醸し出しているのかも知れません。

涼子がよく使う言葉は、「はい」「ええ」「いいえ」「どうも」「まあ」「特に」「少しだけ」「知りません」「いやですね」「お断りします」この10の言葉で過ごしています。

本来、彼女はイタリア人の父の明るいキャラクターを受け継いで、いつもチャーミングにおどけて会話して、彼女の回りにはたくさんのファンがいました。

ところが3年前、彼女の両親が父親の不倫が原因で別れることになり、父親がイタリアに帰ってから、自分の回りの全てが信じられず、人との会話すら、めんどくさくなって、自分の殻に閉じこもるようになりました。

涼子は高校三年生、高校生活も最後だと言うのに、友達と呼べる人は一人もいませんでした。自分でバリアを張っていたのだから仕方がないことでしたが、最近の彼女は少しだけ反省し、メランコリックになっていました。

涼子は学校の帰りに家の近くの遊園地のベンチで、ぼんやりマンガを読むのが好きでした。誰にも気を遣うことなく、自分らしく居られる場所が遊園地だったのです。

小さい頃は父親とよく遊びに来ていました。二人で遊んでいると「まー、素敵な親子、お父さんはカッコ良くて、娘さんは可愛い」そんな言葉をよく耳にしていました。

涼子がこの場所が好きなのは、自分にとっては優しかった父親のことを思い出せるからかも知れません。遊園地でマンガを読んでいると、昔のお茶目な涼子に戻れた気がするのです。

この遊園地で、奇跡が起きました。

涼子はその日、時々出会う可愛い男の子と遊んでいました。いつもは沈んでいる彼女も、子どもと一緒だと、昔の涼子に戻ります。

思いっきりの笑顔で子どもと遊ぶ姿は、間違いなく素敵な美少女です。

可愛い坊やと「また遊ぼうねー、バイバイ」と、別れたところで、彼女に近づいてきたスーツ姿の女性がいました。

その人は「こんにちは、私は、タレント事務所のものなんですけど」と、おしゃれなデザインの名刺を見せました。「子どもと遊ぶあなたの姿を見ていたんだけど、是非、うちの事務所に入りませんか、あなたは、本当に可能性があると思うわ」

涼子は、驚きましたが、すぐさまこう答えました。「私なんかでいいんですか、笑顔だって少ないし、言葉も上手く話せないし、ひねくれ者だし・・・」

「あら、あなた、そんなことないですよ、子どもと遊んでいたあなた、本当に素敵だった」

涼子は、やっと本来の自分を取り戻しそうです。

「ありがとうございました。母と相談して、お電話させていただきます」そう答えて、その女性と別れてから、涼子は呟きました。

「私、変われそうな気がする、だって言葉の引き出しの鍵が開いたから」


【毎日がバトル:山田家の女たち】

《難しい年ごろは心を閉ざすんよ》


新聞を隈なく見ているばあばとの会話です。

「涼子さんのお母さんは何て言ったんじゃろかねー、とにかく自分の言葉に引き出しが開けられるきっかけがあってよかったわい、たぶんお母さんも応援してくれると思うよ」

「お母さん、これは小説ですけど」

「そう言うても難しい年ごろはあらいね、何かのきっかけがあって心を閉ざすんよ、そしたら中々話さんなるけんねー、ほじゃけんきっかけは大切なんよ、そのきっかけを人に作ってもろたんは幸せなんよ」

母はショートショートストーリーも実話のように話してきます。創作した私としてはとても嬉しい事ですけれど。


【ばあばの俳句】


応援はセミの合唱いざ仕事


この時期は朝になると蝉の声が一層高くなります。朝一日の仕事を早く済ませようと頑張っている母は、蝉のにぎやかな合唱を応援歌のように感じて日課をこなしています。


セミの合唱が母にとって頑張れと言う応援歌のように聞こえていると言う様子を詠みました。母らしい解釈が楽しいなと思います。



▽「ばあばの俳句」「毎日がバトル:山田家の女たち」と20時前後には「フリートークでこんばんは」も音声配信しています。お聞きいただければとても嬉しいです。

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私のアルバムの中の写真から

また明日お会いしましょう。💗

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