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お気に入りはパリジェンヌのスケッチ

◇◇ショートショートストーリー

細身の黒のパンツに、シャリ感がある白いシャツの襟を立て、長い黒髪を風になびかせて、颯爽と歩く彼女は、道ゆく人が思わず振り返る素敵な女性です。

彼女の名前はリサ、フランス人の父と日本人の母の間に生まれました。両親は二人とも、フランスで画家をしています。

リサは幼い頃から両親の影響を受けて、絵に興味を持ち、美大に進みました。

リサが描くのは、お洒落なフランスの街角のさりげないスケッチです。柔らかなタッチの水彩画なので、日本人にはとても受けがいいのです。


「遅くなりました、個展は今日までになっちゃいましたけど、まだ春日さんは来ていないですかー」

「あー、リサの作品を毎回買ってくれてる人ねー、会ったことなかったけ、とってもダンディな人だよ」


「今日は会えるといいなー、春日さんに・・・」


リサは25歳から5年毎に、日本のギャラリーで個展を開いてきました。今までの個展で2回も、彼女の作品を買ってくれているのが春日さんなのです。でも彼女は一度もその人に会ったことがありません。

リサは今回こそは、その人に会いたいと思っていました。


「私のファンに、しっかりお礼を言わないとねー、来るかな今日は・・・」


その日の午後、ギャラリーに白いパーカーを着たジーパンにスニーカーのスレンダーな若者が入ってきました。


個展会場を一通り鑑賞した後、エッフェル塔を描いた絵の前で、立ち止まって作品をじっくり眺めていました。そしてリサに声をかけてきました。


「ギャラリーの方ですか、この絵、購入したいんですけど・・」

「えっ、あなたが買ってくださるんですか・・・・」


「ええ、あのー、僕はおじいさんの代理で来てて・・・」


「あー、おじいさんの代理で・・・」

「はい、本当はおじいさんが観に来たかったんだけど、病気で入院しているものですから・・・」

「おじいさん・・、お名前は、もしかして春日さんですか・・・」

「はい、春日と名乗っているって言ってましたねー」

「あー、春日さん、春日健一さんですか・・・」

「ええ、まー、そんな名前で購入しているみたいです・・・」

「と言うことは、本名じゃないんですか春日さん・・・」

「ええ、おじいさんは・・・服部理一郎って言います」


リセはその名前を聞いて驚きました。リセがお母さんから聞かされていた日本のおじいさんの名前だったのです。

フランスに留学していたリセのお母さんの昌子さんは、同じ大学の男性と恋仲になって、結婚したいと両親に伝えましたが、厳格な父親から国際結婚は許さないと猛反対され、フランスで二人だけで結婚式を挙げたのです。

それからお母さんは一度も日本には帰っていません。

リセは自分の作品を買ってくれていた人が、おじいさんだったと言うことを初めて知りました。


リセはその足で病院を訪ねます。

「おじいさん、リセです・・・、ビックリさせてごめんなさい、会いに来ました」

「リセ、お前、会いに来てくれたのか、ありがとう、元気そうだねー、お前の絵は、お母さんのタッチに似てるなー、一目で分かるよ」

「似てますか、お母さんのタッチに・・・」


「ほら、そこの絵、お母さんが描いた家のスケッチだよ、優しいタッチがそっくりじゃろ」


おじいさんは遠く離れた娘をたった一枚の絵を見ながら、思い出していたのです。その絵の横には、リセの絵が飾ってありました。


この日、リセはフランスのお母さんとおじいさんをスカイプを使って再会させました。

お母さんはおじいさんに向かって、何度も何度も頭を下げていました。

目にいっぱい涙をためていたおじいさんは、「昌子、お父さんが意地を張らずもっと早く連絡すればよかったなー、ごめんよー、リセの絵はお前の若い頃の絵によく似てるなー・・・」

この時、35年の確執が、嘘のようにゆるやかにほどけていきました。


【毎日がバトル:山田家の女たち】



《どっちかがおれんとねー》


リビングで、スナック菓子を食べながらのばあばとの会話です。


「それで終わり、会うことになって良かったねー、
お母さんと娘のタッチ、血はあらそえんねー」

「親子の確執は無理が無かった」

「他人ならきっかけがあったら、どうにかなるかと思うけど、身内は、こじれたら難しいわい、どっちかが折れんとねー」

ショートショートストーリーを書きながら、自分の人生を考えることが多くなっています。自分にとって、いい機会になっています。



【ばあばの俳句】


恋心灯して今日はバラの花


まさにバラの季節です。バラは様々な種類があってそれぞれに不思議な魅力を放っています。バラを眺めているとその気品やかわいらしさから女心が目覚めるような気がします。



幾つになっても忘れない恋心をバラに目覚めさせてもらったそんな気持ちを詠んだ句です

私は定年退職の時にいただいた50本のバラの花束が忘れられません。



「ばあばの俳句」「毎日がバトル:山田家の女たち」と20時前後には「フリートークでこんばんは」も音声配信しています。お聞きいただければとても嬉しいです。

たくさんの記事の中から、「やまだのよもだブログ」にたどり着いてご覧いただきありがとうございます。
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私のアルバムの中の写真から

また明日お会いしましょう。💗

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