ディストピアにやすらぎを

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ディストピアにやすらぎを

こんにちは。気の向くままに綴ります。 読書はエネルギー。最近は、いま読んでいる本、過去読んだ本の感想をぽつぽつ綴ってます。

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✏️カエルのゾゾ③-2

どうしようもなく、意地っ張りなカエルの物語。 ◎ どこへいけばいいのかも判らず、ただ岩壁に沿って飛び跳ねていくと、気がついたときにはそこへたどり着いていた。ゾゾは森の入口の前に立っている。  確かに村のいい伝えは本当なのかもしれない。森の中からはなんと不気味な雰囲気が醸し出されているのだろうか。臆病さのあまりそう感じてしまっているだけなのかもしれないが、実際、自分から進んで中に入ろうとは思えないのも事実だ。なにもかも呑み込んでしまいそうな暗さが漂っていた。向こうからは音す

    • ✏️カエルのゾゾ③-1

      どうしようもなく、意地っ張りなカエルの物語。 3、  井戸の世界はじまって以来の、もっとも騒がしい毎日が送られていた。それというのも、いままで誰一匹として振り向かなかった村はずれの丘に、立派な劇場が建てられたからである。若ものたちは劇場の舞台で唄いたいがために、我先にと駆け出していく。そんなことだから舞台はいつもごった返しで、間に合わなかったものはその足下の観客席で唄うはめになるのだった。  若ものたちの〈合唱〉が村中に渡り、年長者の目覚まし代りにもなっていた。オタマジャ

      • ✏️カエルのゾゾ②-2

        どうしようもなく、意地っ張りなカエルの物語 ◎ 教壇に立ちながら、年老いた一匹のカエルが、川面から顔を浮かび上がらせて横一列に並んだオタマジャクシたちになにやら説教じみたことを口にしていた。オタマジャクシたちは聞き漏らすまいと真剣な眼差しを向けていた。尊敬の念を抱かれるそのカエルこそ、学校の教育者であり、村のまとめ役、長老だ。  「よいかね、諸君。授業のまとめに言っておこう。良識あるカエルになりたければ村の皆とは仲良くすること。仲良くするためには歌を唄い、毎日の合唱を忘れ

        • ✏️カエルのゾゾ②-1

          どうしようもなく、意地っ張りなカエルの物語  2、  早朝。地平線から少しずつ太陽があらわれる。その輝きは大地の隅々にまで光を浴びせていき、闇夜を払い除けていく。  岩壁によって囲まれた井戸の世界は、まだ仄暗かった。明かりが差し込んでくるのはまだ当分かかるだろう。  ゾゾは誰よりも早く目覚めていた。村中のどこもかしこも眠りについている。静かだった。喧騒が聴こえてこないうちにゾゾは丘を目指して飛び跳ねていく。ぴょんぴょこ、ぴょんぴょこ。  蓮の屋根が沈んでいる。まだカエルた

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        • ✏️カエルのゾゾ
          4本
        • 📚いろいろな小説
          20本
        • 🤔脳内おしゃべり
          23本
        • 📚安部公房
          13本
        • 📚村上龍
          9本

        記事

          📕i

          西加奈子、著 i アイ シリア人のアイは、国籍の違う父と母に養子として迎えいれられる。 災害や戦争、貧困、世界のどこかでは誰かが犠牲になっている。 恵まれた環境で生活するなか、アイは悩み、苦しむ。なぜ自分ではないのか? アイとは違う感性をもち、互いに認めあえる友人ミナと、愛する人ユウ。見守り続けてくれる両親。 アイは自分が生きる意味を見出していく。 過去から現在まで、ほんとうに多くの惨事が伝えられてくる。 あたりまえのような自由や平和が、突然、様変わりする様子を。

          ✏️カエルのゾゾ①-2

          どうしようもなく、意地っ張りなカエルの物語 ◎  「ノケ、見ろ。空だ」  ゾゾが自分の聖域を紹介したのはノケだけであった。ノケには特別に知ってほしかったのだ。馴染みとはそういうものだ。  「ああ…うん」  ところが当のノケときたら感性が乏しいのか、なんと感動の薄いことだろうか。これには、さすがのゾゾも少しばかりがっくりきてしまった。ノケは毎回、同じような反応しかしない。  無感性野郎と内心で罵りはするが、ゾゾはノケに感謝していた。ゾゾの性分を知っているからこそ口を閉ざして

          ✏️カエルのゾゾ①-2

          ✏️カエルのゾゾ①-1

          どうしようもなく、意地っ張りなカエルの物語  1、  ゲ〜コゲコ、ゲ〜コゲコ。クワッ、クワッ。  ゲコゲ〜コ、ゲコゲ〜コ。クワッ、クワッ。  歌だ。歌が聴こえてくる。広場に集まったカエルたちが毎日恒例の〈合唱〉に励んでいた。  集団の先頭に指揮者が立ち、まず初めに唄いだすとそれに続いて皆が一斉に唄う。長いあいだ唄い続け、ようやく終わりを迎え口を閉じ、ひとつの歌が止む。  止んだかと思いきや、今度は指揮者だったカエルが集団に混ざり、集団の中からまた一匹が先頭に立ち唄い出すの

          ✏️カエルのゾゾ①-1

          📕新訳 走れメロス

          森見登美彦、著 新訳 走れメロス 他4編 言わずもがな、日本を代表する古典小説。 原作は友情を描いた感動的な作品であるが、森見登美彦が書くと、もうとにかく阿保、阿保のオンパレードである。 主人公の芽野は、廃部に追い込まれている詭弁論部を救うため、大学を裏から支配する存在、図書館警察の長官へ直談判しにいく。 廃部を撤廃する条件は、ピンク色のブリーフをはいて裸踊りをすること…なんと恐ろしい! 芽野は約束した、勝手に。 姉の結婚式を見届けたら、必ず大学へ戻ると。 それまでの

          🤔許す側と許される側

          許される側はすぐ忘れるけれど、 許す側はずっと憶えていることが多い。 昔のことだから気にするな。 頭で考えれば簡単なことのようだけれども、例えば、3度許して、3度裏切られたとして、そんな粋なことを言えるだろうか? 物語のなかにはあたりまえのようにいる超人的なメンタルの持ち主。それが最善で美的ではあるのだろうけど、 やはり、許される側が心を入れ替えるなんてことはめったにあるものじゃない。 人間は得をしたくてしたくてしょうがないのだ。 自分が可愛いものよ。

          🤔許す側と許される側

          📕 四畳半タイムマシンブルース

          森見登美彦、著 四畳半タイムマシンブルース 前作、四畳半神話大系のエピソード5的な位置付けの本作。 黒髪の乙女こと明石さんが映画を撮影するなか、四畳半の主である私、妖怪のような、いや妖怪である小津、その師匠である怪人物の樋口氏…etc…いつもの面々が集っていた。 そして、真夏の下鴨幽水荘。事件は起きる。小津がクーラーのリモコンにコーラをぶっかけ、壊してしまったのだ。 そこへ、未来からやってきた青年が現れる。私たちはタイムマシンを借りると、壊れる前のリモコンを手に入れる

          📕 四畳半タイムマシンブルース

          📕ニシノユキヒコの恋と冒険

          川上弘美、著 ニシノユキヒコの恋と冒険 男前で優しいニシノユキヒコ。 女は誰だって、彼に恋をする。 だけど、最後には去っていってしまう。 私なら、なんて呼ぼう。 西野幸彦、ユキヒコ、ゆきひこ、幸彦… 彼女たちの数だけ、ユキヒコの姿がある。 彼女たちの数だけ、ユキヒコの言葉がある。 だけどそこに、ユキヒコの本音はない。 本音のぶつけあいは必要なのだろうか? でも、本音を欲するときもあるのだろうな。

          📕ニシノユキヒコの恋と冒険

          📕センセイの鞄

          川上弘美、著 センセイの鞄 センセイは、ツキコさんが高校生のときの古文の先生である。ツキコさんがいつものようにひとり居酒屋へいったとき、たまたまいた。 30年ぶりの再会である。 センセイ、70歳である。 居酒屋で酒をちびちび。恩師と元教え子。 むかしから、なにも変わらない、センセイは相変わらず手厳しい。 そんな懐かしくも、新しくはじまるふたりの時間。そして、終わるように経っていくふたりの時間。 3回読んで、3回笑えて、3回泣ける小説というのは珍しい。また読み返したい

          📕神様

          川上弘美、著 神様 くまにさそわれて散歩に出る。 アパートの隣に引っ越してきた、くま。 すてきな出逢いやなと、口もとが緩む私。 はじめて読んだとき、 ハンマーで頭を叩かれるような、目が覚める感覚をおぼえたものだ。 著者を知る、すてきなきっかけだったと思う。 ひとから勧められた。 これを縁[えにし]というのだろうか。 とつとつとした印象のやわらかい文章のなかで、古風な言葉づかいや、登場人物たちのどこか浮世離れした存在感が形づくられている。 世界はまだすてきなんだなって

          🤔あいでんてぃてぃ・くらいしす

          言葉って道具みたいなところあって、便利に使ってるうちに、言葉に使われているみたいなことありますよね。 私も経験あって、こうじゃなきゃみたいなことずっと考えてると、整合性が合わなくなってきたときに自分で認められなくなって、勝手にぬかるみにはまっていくみたいなことがありました。 いわゆる、自意識過剰… 歳を重ねてから、アイデンティティ・クライシスにはまると、けっこう辛くなります。 ティーンエイジャーの頃やったら、精神の新陳代謝はやいし、友達と会ってるうちにどうでもよくなってく

          🤔あいでんてぃてぃ・くらいしす

          📕 永遠も半ばを過ぎて

          中島らも、著 永遠も半ばを過ぎて 写植を生業とする主人公、その友人?である詐欺師、出版社の女。言葉に関わる3人が集まったことで、思いもよらぬ方向へ。 間違って飲んだ薬で、主人公はハイになり、無自覚のままに書いた奇妙な本。 (著者が執筆していた当時、ほんまにそうやったんちゃうかなと思わせる箇所😅) 憑依されて書いたのだと、世間へ公表することに… 今夜すべてのバー、ではアル中を描き、 永遠も半ばを過ぎて、では薬中を描き、 日本ではもう出てこないだろうと思わせる、二刀流の使

          📕 永遠も半ばを過ぎて

          📕 今夜、すべてのバーで

          中島らも、著 今夜、すべてのバーで アル中の主人公はとうとう病院へいった。 そして、言い渡される死の宣告。 入院することとなり、仕方なく断酒を余儀なくされ… 飲酒をやめられない主人公と殴りあいをする医者、毒舌を吐きながらも主人公を放っておけない亡き友人の妹、憂鬱を晴らすために呑み続ける主人公。 笑える内容ではあるが、なぜアルコールが必要なのかと、アル中の作者だからこその説得力で書かれた小説だったように思う。 死を間近にして、呑みたい酒を我慢することが正解なのか?老患

          📕 今夜、すべてのバーで