ディストピアにやすらぎを

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ディストピアにやすらぎを

こんにちは。気の向くままに綴ります。 読書はエネルギー。最近は、いま読んでいる本、過去読んだ本の感想をぽつぽつ綴ってます。

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最近の記事

📕アルゼンチンババア

よしもとばなな、著 アルゼンチンババア 母が亡くなるとき、父は逃げた。 廃墟のようなビルで暮らす、アルゼンチンババア。 そこに帰ってきた父がいる。 外界から遮断された平和なそのビルで、父はアルゼンチンババアと暮らし、曼荼羅を描き、母の墓跡をイルカに変える。 生きている限り、世の中の喧騒というのは確実にあって、たまにうんざりすることがある。 そんな喧騒をずっと聞いておく必要なんてない。 平穏な時間があれば、ひとはそれなりに、幸せに生きていける。 アルゼンチンババアが

    • 📕ハゴロモ

      よしもとばなな、著 ハゴロモ 青春のすべてを捧げた、初恋のひととの恋愛が、ある日とつぜん終わりを迎える。相手には奥さんも子どももいた。承知の上だった。 孤独になった彼女は、生まれ育った故郷へもどる。 むかし出会った小さな出逢いたちが、彼女の欠けた魂によりそってゆく。 別れの形はひとの数だけあるし、幸せだったときの反動からくる絶望もひとそれぞれだ。誰かと比べるもんじゃない。 あたりまえのように周りにひとがいたりすると気がつきにくいけど、 いざ、孤独になってみると、ひと

      • 📕スウィート・ヒアアフター

        よしもとばなな、著 スウィート・ヒアアフター 事故に遭い、彼を失い、生死をさまよった小夜子。魂の欠如によって、幽霊が見えるようになる。 小夜子が酔い潰れないように見守ってくれる沖縄バーのマスター、姉の幽霊がいるアパートで暮らゲイの青年。 もとどおりにもどらない日常を過ごしながらも、少しずつ、まぶい(沖縄で魂を意味するのだとか)を取り戻していく。 ふだん、自分が生きていることを忘れがちかもしれない。 たぶん、死んでしまって、幽霊なんかになってみると、自分は死んでしまったん

        • 📕キッチン

          吉本ばなな、著 キッチン 両親を失い、そのあと面倒を見てくれていた祖母を失い、みかげはひとりになった。彼女の居場所は、台所だけだった。 そんな彼女によりそってくれる雄一とえり子さん。3人の生活がはじまる。 かけがえのない、束の間の時間が過ぎてゆく… 読書をしたての頃、この小説を読んで、不思議な柔らかい物語だくらいにしか思っていなかったけれど、 10年の月日を経てから、改めて読んでみると、一文字一文字に込められた優しさが文章から伝わってくるではないか。胸のあたりが暖かくな

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        • 📚いろいろな小説
          25本
        • ✏️カエルのゾゾ
          11本
        • 🤔脳内おしゃべり
          23本
        • 📚安部公房
          13本
        • 📚村上龍
          9本

        記事

          ✏️カエルのゾゾ⑥-3 完

          どうしようもなく、意地っ張りなカエルの物語。 ◎ 小さな穴があった。小さな穴だ。  ゾゾは井戸の世界からついに抜け出した。豪雨はやみ、黒雲でおおわれた空は晴れようとしていた。ところどころから光が差し込み、地上を照らしている。  ゾゾはことばがでなかった。  ようやく天井にたどり着いた、空だ! そう思いたかった。だがどうだろう。そこに雲はなかった。眼前にあるのは、限りない大地だ。  ゾゾは振り返った。小さな穴があった。  ゾゾは空を仰いだ。届きようのない高さだ。  ゾゾは正

          ✏️カエルのゾゾ⑥-3 完

          ✏️カエルのゾゾ⑥-2

          どうしようもなく、意地っ張りなカエルの物語。 ◎ 朦朧とする意識の中で聴こえてきたのは、ざぁという、落ちてくる雨の音だけであった。  ゾゾは目を覚ました。大丈夫だ。意識がなくなっていたにも関わらず、ゾゾの前肢は岩壁を力強く掴んでいたのだ。  「おれは空へいかないと」  視界が霞む。意識がまだはっきりとしていない。口からはぼそぼそとことばが漏れる。繰り返しうわごとのように。  「おれは空へいかないと」  振り出しに戻った分を挽回しようと、ゾゾは再び岩壁を登りはじめる。痛みが

          ✏️カエルのゾゾ⑥-2

          ✏️カエルのゾゾ⑥-1

          どうしようもなく、意地っ張りなカエルの物語。 6、  「大雨だ!」  雨がざぁと降ってくる。観客席のカエルたちが騒ぎだした。  ゲェコ、ゲェコ、ゲコゲッコ! ゲコッゲコ!  舞台ではノケが唄っている。もう誰もが雨にばかり意識がいき、その姿から目を離していた。  「うぅむ…。残念だが、これは仕切り直しが必要のようじゃのう」  長老は無念そうにつぶやくと、観客席のカエルたちに伝える。  「皆の衆、本日の合唱際はこれまでじゃ。また晴れた天気の下に集おうではないか」  皆、それに

          ✏️カエルのゾゾ⑥-1

          ✏️カエルのゾゾ⑤-3

          どうしようもなく、意地っ張りなカエルの物語。 ◎ 5−3  やれやれ。とうとう聴こえてきやがった。ゲコゲコ、ゲコゲコ、うるさい連中の歌が聴こえてきやがった。劇場から届いてくる歌はよく響いてきやがる。歌が遠のくのはまだまだ高所へいかなければならないか。  ゾゾが地上を見下ろせば、劇場が目に入ってくる。そこでは現在、カエルたちの合唱際が開催されていた。皆、声高らかに唄っているところだ。村の誰もがその一カ所に集まり、ひとつの想いを胸に抱いている。彼らの脳裏にあるのは歌、ただそ

          ✏️カエルのゾゾ⑤-3

          ✏️カエルのゾゾ⑤-②

          どうしようもなく、意地っ張りなカエルの物語。 ◎  登り、下り、落ちる。岩壁に挑み続けてきたゾゾの身体は数多の疵で痛々しい姿になっていた。そんな自分の姿を見て、  「おれも疵だらけだな」  …と思い出すようにいった。  岩壁に張りついているゾゾは不意に振り向いた。そこからは井戸の世界が一望できた。  村が見える。丘が見える。そこに建つ劇場が見える。眼下には森の茂みが鬱葱としている。  それは村の誰も見たことのない景色だった。  ゾゾだけがこうして目にしている。  「…」

          ✏️カエルのゾゾ⑤-②

          📕傲慢と善良

          辻村深月、著 傲慢と善良 婚約者が姿を消した… ストーカーに追われていた。 事件に巻き込まれたのではないか? カケルは婚約者であるマミを探すため、彼女が暮らしていた地元へいき調査する。 マミの過去に触れていく。 カケルは世慣れした、モテるタイプ。 マミは箱入り娘の、良い子。 前半はカケル目線で、ミステリー調に進んでいく。 結婚相談所や、マミがそこで出逢った男性たち、マミの友人。カケルの友人。彼らの証言から、カケルの知らないマミの姿が浮かび上がってくる。不穏な空気がずっと

          ✏️カエルのゾゾ⑤-1

          どうしようもなく、意地っ張りなカエルの物語。 5、  いつだったか、ノケにいわれたことがある。  「君の青春はなんと暗いのだろうか。見ろ、村のカエルたちを。ぼくらくらいの若い連中は皆、色恋沙汰だ。愛の告白を唄うやつだっているぜ。なのに、君ときたらどうだ! 一日中、こんなものさみしい丘で一匹ぽつりとして、そういう浮ついた物事とは一切関係ないときている。いや、同じ若ものとして心配してしまうよ、ほんと。歌も唄わない、連中同士で騒ぎ立てることもない、恋愛のひとつすらしていない様だ

          ✏️カエルのゾゾ④-1

          どうしようもなく、意地っ張りなカエルの物語。  4、  あれが最後の別れになるだろう。そう思うと、これまでのことが脳裏にありありと浮かんでくる。おせっかい焼きで、心配性なあいつがいなければ、おれはまた違っていたかもしれない。誰も信じず、この世の全てを呪いさえしていたんじゃないかな。頼みもしないのに、毎度、丘へやってきては唄おうぜなんて断れるとわかっていながら、誘いにきやがる。珍しくなにもいわないかと思えば、説教じみたことをわめき散らかすんだから、こちらとしては甚だ困り果て

          ✏️カエルのゾゾ③-3

          どうしようもなく、意地っ張りなカエルの物語。 ◎ 夜の静寂が破られた。聴こえてきはしないだろうと思っていた歌のせいだった。ゾゾの目論みがはずれた。まさか、もう夜も遅くになろうというのにまだ唄っているやつがいるのか。どうやら舞台にいるのは一匹だけのようだぞ。どれ、悪魔のふりをして驚かしてやろうか。そうすればもう二度と、夜に唄うようなまねはしないだろう。  地を這うように、ゆっくりと舞台へ近寄っていくゾゾ。まったく気がつかずに唄い続けるそのカエル。舞台袖で飛び出す頃合いを見計

          ✏️カエルのゾゾ③-2

          どうしようもなく、意地っ張りなカエルの物語。 ◎ どこへいけばいいのかも判らず、ただ岩壁に沿って飛び跳ねていくと、気がついたときにはそこへたどり着いていた。ゾゾは森の入口の前に立っている。  確かに村のいい伝えは本当なのかもしれない。森の中からはなんと不気味な雰囲気が醸し出されているのだろうか。臆病さのあまりそう感じてしまっているだけなのかもしれないが、実際、自分から進んで中に入ろうとは思えないのも事実だ。なにもかも呑み込んでしまいそうな暗さが漂っていた。向こうからは音す

          ✏️カエルのゾゾ③-1

          どうしようもなく、意地っ張りなカエルの物語。 3、  井戸の世界はじまって以来の、もっとも騒がしい毎日が送られていた。それというのも、いままで誰一匹として振り向かなかった村はずれの丘に、立派な劇場が建てられたからである。若ものたちは劇場の舞台で唄いたいがために、我先にと駆け出していく。そんなことだから舞台はいつもごった返しで、間に合わなかったものはその足下の観客席で唄うはめになるのだった。  若ものたちの〈合唱〉が村中に渡り、年長者の目覚まし代りにもなっていた。オタマジャ

          ✏️カエルのゾゾ②-2

          どうしようもなく、意地っ張りなカエルの物語 ◎ 教壇に立ちながら、年老いた一匹のカエルが、川面から顔を浮かび上がらせて横一列に並んだオタマジャクシたちになにやら説教じみたことを口にしていた。オタマジャクシたちは聞き漏らすまいと真剣な眼差しを向けていた。尊敬の念を抱かれるそのカエルこそ、学校の教育者であり、村のまとめ役、長老だ。  「よいかね、諸君。授業のまとめに言っておこう。良識あるカエルになりたければ村の皆とは仲良くすること。仲良くするためには歌を唄い、毎日の合唱を忘れ