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✏️カエルのゾゾ⑥-1

どうしようもなく、意地っ張りなカエルの物語。

6、

 「大雨だ!」
 雨がざぁと降ってくる。観客席のカエルたちが騒ぎだした。
 ゲェコ、ゲェコ、ゲコゲッコ! ゲコッゲコ!
 舞台ではノケが唄っている。もう誰もが雨にばかり意識がいき、その姿から目を離していた。
 「うぅむ…。残念だが、これは仕切り直しが必要のようじゃのう」
 長老は無念そうにつぶやくと、観客席のカエルたちに伝える。
 「皆の衆、本日の合唱際はこれまでじゃ。また晴れた天気の下に集おうではないか」
 皆、それには賛成らしく早々と散っていく。
 舞台で未だに唄い続けるノケ。長老はそこへ視線を向けて、どなるようにしていった。
 「ノケ! もういい、やめんか! 合唱際はこれまでじゃ」
 ノケはやめない。身体から出る限りの声で唄っている。長老はその一種異様な姿にゾゾの影を見た気がした。頭を左右に振ると、ノケを見捨てるみたいに去っていった。
 ノケの歌声は大雨によってかき消されそうであった。
 届け。届け、ぼくの歌。いけ、いくんだ、ゾゾ。
 空へ!

 暗い。
 目の前に道はなく、世界さえ見えない。
 おれはどこだ。ここはどこだ?
 もうダメなのか。
 空。
 空。
 自由。
 …コゲッコ…コッゲコ…
 歌?
 まさか。どうしてこんなときに、くそったれな歌が聴こえてくるんだ。
 気のせいだろう。
 それにしても暗いな。この暗闇にはなにもない。
 おれはどこだ。
 …ゲコゲッコ…ゲコッゲコ…
 歌だ。
 誰が唄っているんだ。
 やめろ、やめないか、おれの自由をまだ奪うつもりでいるのか。
 歌、唄、うるさい。
 …ゲコゲッコ!…ゲコッゲコ!
 うるさい、やめろ!やめ——
 ゲェコ、ゲェコ、ゲコゲッコ! ゲコッゲコ!
 歌だ。
 この歌声は…ああ、そうか、お前なのか、ノケ。聴こえる、聴こえるよ、ノケ。お前の歌が聴こえる。
 いかないと、おれは空へいかないと。
 空へ。
 自由を。

⑥-2へ続く

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