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【学生証大戦争】有効期限切れの学生証が使えるかご存知ですか?

☆高校生や保護者、かつて大学に通われたことのある方、大学職員に興味を持ってくださるに「へぇ~」と思ってもらえるように書きました。ぜひ最後までご覧ください!

まえがき -その教室の、隣の部屋で-

noteを始めて1年が経った。
1年前、初めて書いた記事の第2弾をイメージして綴ろうと思う。

初記事は、右も左もわからぬまま自己紹介を含めて書いてみた。
私は大学で職員として働いている。
そもそも「大学職員」という職業をご存じだろうか。

大学生ですら、大学職員の存在を知らない人は多いし、中学や高校にも職員がいることを知らない人は多いのではないだろうか。
日本の学校に通ったことがあるならば、ずっと身近にいたはずなのに意外と知られていない職業である。
ドラマ化もほとんどされたことのないはずだ。

ご存じの方が持つイメージは、昔ながらの書類の山に囲まれ、地味でAIに取って代われるイメージを持つ人が多いと思う。
1年前の記事は、その中でもドラマになりそうな事件や事故、「死」が身近にあるという側面を綴った。
そして第2章ではドタバタ入試劇を明かした。

あれから1年、せっかくの節目。
第2弾は、入試後からが本番となる「学生証づくり」のアレコレを取り上げてみる。

今回のご紹介は、あくまで数多ある大学の一例であり、大学ごとにセキュリティや仕組みが異なっている。ご参考程度にとどめておいてほしい。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

勃発、学生証大戦争!

中学や高校に通われた経験があれば、「学生証」と聞けばイメージできるだろう。
プラスチックでできているカードである。
ご参考までに「すずめの戸締り」で神木隆之介君演じるキャラクターが通っていた大学の学生証がこちららしい↓


しかし高校までで学生証を使った記憶はあるだろうか。
あったとしても学校ではなくお店で「学生証提示で~」割引の時くらいではないだろうか。

ところが大学に入ると一変する。
大学では、学生証を忘れると困ることが非常に多い。

例えば、授業の出欠
カードを読み込む機械にピッとあてることで出席を管理していることも多い(一応忘れた場合は紙に学生番号を書くなどの対応をしてくれることも多いとは思う)。

例えば、図書館や体育館
入口には改札口のようなゲートがあり、ピッとしないと入れない仕組みの大学が多い(特に図書館)。

例えば、窓口
証明書を発行したり、サークルで使用する教室の申請など、学生証を見せて本人確認をすることが多い。

一番困るのは、期末テストだ。
入試の受験票のように、学生証を机に出さないとテストを受けられない。無くしてしまった場合、臨時の学生証を有料で購入したり、有料で再発行を行わなければならない。

このように、学生証の価値は高校とは比べ物にならないほど高くなる。
そんな学生証がどうやって作られるのか。
ご紹介していきたい。

不十分すぎる学生証

さて、ここで突然のクイズだ。
↓この芹澤くんの学生証は、足りない情報がいくつもある。
それは一体なんだかわかるだろうか??

この学生証じゃ必要な情報が足りてない!
少し考えてみてほしい。




考えてみていただけただろうか。

「すずめの戸締り」の学生証に載っている情報は、7項目だ。
・名前
・顔写真
・誕生日
・学生番号
・学部、学科
・大学の住所と学長(総長)印
・バーコード

余談だが、
調べたところ立教大学に教育学部はないらしい(教育学科はある)。
また、大学のサイトを見たところ、写真は右側にあるらしい。
実社会を細かく描いている新海誠作品だが、学生証はちょっと変えないといけないのだろう。

せっかくなのでこのまま立教大学の本物の学生証と比べてみる。
すると、足りない情報が3つあることがわかる。

立教のサイト立教タイムトラベルから引用

①発行日
②有効期限
③有効期限の右にある(見づらいが)01回の文字

③は何の数字か予想がつくだろうか。
実は、弁護士バッチの裏にもこういった数字が書かれている人がいる。
答えは「発行回数」だ。

特に弁護士バッチの場合、失くしたことは公開されるらしい。
最新の発行回数でなければ本物じゃないということを意味しなければならないとのこと。

そう、つまり学生証づくりのファーストステップは全員分のこの項目を収集するところから始まる。
合計10項目のうち、大学の住所だけは一律で同じのため9項目を一人一人入力していく必要がある。
学生証の価値からして、迂闊に間違えることもできないのだ。

超短期集中決戦!

学生証作りは超短期決戦。
作ることが許される期間は、最長でも1ヶ月、最短なら3日で(徹夜してでも
!)作らなければならない。

ホワイト(というよりコスパ最強)と言われがちの大学職員の、時々現れるブラック週間。
こうなる理由は、大学入試の仕組みにある。

①V.S.国!収容定員バトル 
そもそも、大学はより多くの学生を集めたほうが学費という収入が増え嬉しい。
しかし物理的に教室に入り切る収容定員がある。
また、特に東京にある大学は国から「定員を超えるな!」と強く言われている。文科省の定員厳格化である。
どんどん厳格にしており(でも厳しすぎたため少し緩和されたりもした)入学定員の1.1倍を超えると補助金が打ち切られてしまう。

つまり、入学者を増やしたい大学V.S.減らしたい国のバトルが繰り広げられている。
結果的に大学は、補助金を打ち切られないギリギリの上限を目指すことになる。

②V.S.他大学!取り合いバトル!
ほとんどの私立大学は、追加合格を出している。
慶応や早稲田でさえ、学部によって3月20日より後に追加合格の発表をしている。

まず大前提として、合格者数と入学者数はイコールではない。
合格した人が全員入学してくれることはなく、少し多めに合格者を出している。

青山学院は合格者を出しても、早稲田に受かった人には逃げられてしまうし、
早稲田の合格者も東大に逃げられてしまう。

早慶が3月20日に追加合格を出すということは、MARCHはそれより後に追加合格を出す必要があり、MARCHがその後に追加合格を出すならうちは…という具合である。

入試センターはいかにギリギリまで入学者獲得のために粘るかが勝負だが、その裏で学務部(学生証を作る部署)の屍が積み重なることになる。

そして合格発表を出したらすぐに学生証を作り始められるわけではない。
受験生たちが家で『どっち行く!?』と家族会議を開く中、虎視眈々と手続き完了を待っている。
合格者が行う入学手続き(学生証に必要な情報を登録する)の完了を待たなければならない。

〜〜これからはデジタル学生証!?〜〜

"学生証といえばプラスチックのカード"というのは時代遅れになるかもしれない。
なにしろ、お金のやり取りでさえQRコードで完結する時代だ。
実際、東洋大学などではデジタル学生証を導入し始めている。

しかしすんなりとはいかない。
問題は大きく2つ。
1つ目は、スマホを持っていない学生はどうするか?
2つ目は、期末試験の受験をどう代用するか?

さらには将来的にはデジタル学生証をすっ飛ばす可能性もある。
例えば成績証明書の発行機で顔認証もできる技術はある。普及していけば、学生証そのものがいらなくなるかもしれない。
〜〜〜

😭あなたの名前、登録できません‼️

例えば、近畿大学の入学手続マニュアルを見てみると、こんなことが書いてある。

要約すると、
JIS第1水準および第2水準以外の氏名(漢字) の人は、後日『氏名(漢字)訂正届』に正確な文字を記入して提出してほしい、という内容である。

JIS第1水準および第2水準と準拠するとこうなる。
例えば、
『高』『崎』さんなら入力できるが、
『髙』『﨑』さんはどちらも入力ができない。
でも意外と『国枝』さんも『國枝』さんも入力できる。

ちなみに、『佐藤』さんの『藤』の字は、これだけ異体字があることをご存知だろうか。
多くの大学ではよくある『藤』に置き換えて学生証を作ってしまうはずだ。
思い入れやこだわりがあり、氏名を修正したい場合は申告すれば良い。
学生証は大学職員がせっせと作字してから印刷するので発行までに時間がかかる。

在学証明書などの場合、印刷できない文字は職員が手書きしてお渡しすることになる。
その結果、証明書の提出先から『これ、本物?』と聞かれることもある。

氏名は戸籍を根拠に登録をしているが、この時一緒に住所も確認している。
郵送物を送る必要があるからだ。
しかし住所のミスは非常に多い。
4月から上京して新しい家に住むとなった時、本人は大概まだ住所を覚えていない。郵便番号が違ったり市区町村が抜けていたりするのだ。

また、今後の課題としては性別だ。
日本の場合、戸籍に性別が載っているのでそれを根拠に登録できる。
しかし留学生は別だ。
パスポートを一人一人確認している。パスポートに性別はあるが、国によっては男でも女でもなく『X』と記載している国がある。

つまり、大学が根拠とする資料が第三の性と主張するのだ。
ところが、文部科学省の統計などで求められる性別は、男女の二者択一であり、どちらかの性別として申告しなければならない。

〜〜新しい顔にしたい!〜〜
高校生の時の顔は化粧もしてないし、髪型も可愛くなくて人に見せられない…そんなことを思うかもしれない。
中には、整形をするほど自分の顔が嫌で写真部分を削ったり真っ黒に塗りつぶしたりする人もいる。
窓口に申し出れば変更できるかもしれない。
最初から、写真は変更できないもの、と決めつけがちだが相談してみれば意外と柔軟に対応してもらえるかもしれない。

学生証の貸し借りはホントに懲戒??

一昔前と違い、昨今の大学は出席点が成績に含まれる授業も多い。
12年間皆勤賞を維持してきた高校生でさえ、大学に上がるとサボりマンへと変身するのだから不思議だ。
逆にいえば、教室に居さえすれば点数が入るのだから楽単(ラクタン=楽に単位が取れる)と考える人もいる。

出席確認の方法は教員に拠るが、大きく2種類ある。
1つ目は、授業後に必ず感想や考察を考えたコメントを書いて提出するというもの。
2つ目は、学生証を機械にピッと読み込ませるというもの。

特に2つ目の場合、友達に学生証を預けて出席点を稼ぎつつ自分はバイトや飲み会に参加、ということも可能だ。
しかし大抵学生証の裏には『貸し借りは懲罰の対象』という文言が入っているのでオススメできない。
※実際に貸し借りがバレて懲戒処分(退学・停学・訓告)となった例は聞いたことがない。

学生証の不正使用はバレる?
明らかに複数の学生証を持っていたらバレるだろうが、大学受験を経た人ならそこは上手くやるだろう。
不正使用というのは、貸し借りの他にこんなものがある。
① 再発行を繰り返し複数枚所持
→無くしたと嘘をつき、再発行して複数枚持てば活用方法はいくらでも考えられる。友達に貸すなら可愛いもので、闇に売ることもできる。
② 有効期限切れのものを使用
→ 退学・除籍・卒業した後も不当に学内の施設を使用

バレるパターンはざっくり3通りある。
① 隠す気がない
→ 複数枚の学生証を当然のように出席確認の機械にかざしたり、複数の学生証を並べてコピー機を使用したり。
一人当たりの印刷枚数は上限があり、学園祭が近いと印刷係が部員の学生証を預かって何千枚と印刷したいシチュエーションはある。

② 過失や故意のミス
→ 友達の学生証を入れていた財布を落としてしまい、窓口に届けられたり、不審・違反行為をしたことで学生証の提示を求められたり。
財布を落としてしまうのは不運だ。通常、落とし物係は中身を確認し、1枚目の学生証を見つければ満足して連絡をしてくれる。
しかし受け取りに来た学生が『それは自分の財布じゃない』と言ったり、受け取りに来た時に居た担当者が改めて中身を確認して別の学生証を見つけてしまったり。

③ 図書館
冒頭の『すずめの戸締』で触れた通り、学生証には有効期限と発行回数が記載されており、その情報は学内のデータにも連結している。
この項目が、タイトルにもしている「有効期限切れの学生証が使えるか?」の回答にもなっている。

もしあなたが大学生ならこう思わないだろうか?
有効期限切れでもピッとして出席読み込めるし、発行回数が何番であれ体育館に入れたぞ? と。
大学は高い学費を集めていて金持ちそうに見えるが、潤沢な資金のある大学は僅かだ。
全ての機械で学生証の全てを読み込んでいるわけではない。

出席用なら学生番号くらいだし、
研究室の施錠なら該当する大学院の学生かどうかくらいである。

しかし図書館だけはそうではない。
厳重なセキュリティが設けられており、3枚目も学生証を再発行した人が昔の(1枚目や2枚目の)学生証で入館しようとするとエラーになる。有効期限切れもエラーだ。
また、予約本の受け取りや図書の貸し借りなどで係員に学生証を渡すタイミングも多い。

あくまでここまでで述べた例は参考である。
大学ごとに状況は異なるし、詳細を公開することもない。
どこで足元を掬われるかもわからないので、学生証の不正使用は厳禁である。

学生証はシュレッダーで

まず、学生証はプリンターで作る。
学生証用の印刷機があり、無地の学生証をセットして『プリント』ボタンを押すとウィーンと印刷される仕組みだ。
実は学生証は、正規学生と非正規学生とで微妙にカードが違う。間違い探し並みの違いだが、印刷する時に間違えてはいけない。
非正規学生とは、半年〜1年だけの留学生や聴講生などのことである。

3月末、業者に出してはとても間に合わない時期に追加合格となった何百人の学生証を作る時。
もしカードの種類を間違えたり、学生の生年月日、学生番号や学部名、有効期限など一つでもミスが起きれば全てやり直しの危機である。
あなたが提出した住民票と手続き書類を合格者数分全て見て、誤字があれば住民票に揃えて、時には文字を作り、徹夜で印刷する。
これをほぼ1人(大学によっては2人程度)でやり切るのだ。

その4年後。
卒業(退学・除籍・死亡など)で返却された学生証はシュレッダーで粉砕し、処理に出す。

こうして学生証の4年間の寿命は朽ちていく。

〜〜学生証は返却しなきゃいけない?〜〜
学生証は大学から貸与されているものなので、返却しなければならないらしい。
とはいえ、危険に持っておきたい人は多いだろう。
卒業証書と交換で返却する大学が多いが、"忘れた"と言う人はいる。
欲しいと言えば穴を開けて返却してくれる場合もあるらしいが、全学生にその対応は難しいだろう。

終わりに

今回は、第2弾として1年ぶりに大学職員のお仕事紹介をした。
最後までお付き合いくださった方がいらしたら心から感謝申し上げる。ありがとうございます。

4月1日。
心新たに新しい学校に入学し、学生証をもらった時嬉しかったのではないだろうか。
無事手元に渡ったのなら、それはおそらく昨晩寝る暇もなく仕事をした職員がいる。
勿論、学費を納めているので受け取るのは当然だし、思いを馳せる必要もなければ、感謝する必要もない。
おそらく卒業するまで、学生証を作った職員と対面することはないだろう。

しかもせっかく作った学生証も、一定の割合で入学辞退となり日の目を見ることがない。
転職活動で語れるほどの業務内容でもないし、他の企業では役に立つこともない。将来学生証を使わなくなれば廃れる仕事だ。

でも私は意外と気に入っている。
新入生全員の顔と名前を確認し、本人の手に渡る物理的なモノを作り上げる。
入学してくれたら良いな、とか、
合格おめでとうございます! とか。
目の前の業務に追われながらもつい考えてしまうし、同じ時期、3月末にシュレッダーへ吸い込まれていく学生証を見ながらどんな学生生活を送ったのだろうと思いを馳せてしまう。

決して直接的に学生と関わることのない係。
しかし大学内の誰より先に目一杯の心を込めました。

ご入学おめでとうございます!
あなたにとって最ッ高の大学生活となりますように…。


ぜひ私初の記事、第一弾も読みにきてください👇👇

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