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大きなガレージは“オトコのロマン”?【#11家にまつわるストーリー】

配線、配管が終わると、断熱材が入りドライウォーラーがどんどん壁を仕上げていきました。

⬆ここからの続きです。

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そんな中、わたしたちが施主としてインストールしてほしい資材をネットを駆使して買い集めていました。拘りがある場合には、建築会社経由では希望のデザインや機能に限りがあるからです。夫にとっては人生架けているドリームホームなので、何かと拘ります。

照明器具、洗面台、ドア、キッチンシンク、蛇口、バスタブ、温水器、シャワーユニットetc ……コロナ禍でお店に行けないので決めるのも調達するのも一苦労です。

本来なら、お店に行って説明を聞き、見て触って選んでと、買い物も楽しみのひとつだったはずなのに、抗癌剤治療のため病院通いを続ける闘病の合間に、必要なものを期日までに供給しなければならずで、わたしにはかなりのストレスになっていました。

キッチンキャビネットのデザインは夫がデザイナーと電話やオンラインでのやりとりです。夫の描いたとおりにお願いしたら、5000ドルも予算オーバーすることがわかりました。一部のキャビネット扉にガラスを入れたり、電子レンジを置く棚を特注でお願いしたようです。

「えー!!たったそれだけのことでそんなに高くなるなら、それ要らないでしょ」と思わず意見。ガラスはおしゃれとも言えるけど、中が見えることがいつもいいわけではありません。機能的に変わらないなら5000ドル追加は考えちゃいます。不要なおしゃれは削ってもらい、妥協点をみつけ無事に発注できましたが、コロナの影響でキャビネットの製作、搬入にも時間がかかるようです。

コロナ禍による遅延の後で更新した契約では10月4日に完工と聞いていましたが、8月終わり時点ではとても期日までに終われるようには見えませんでした。

床材も夫は自分でインストールする予定でしたし、キッチンのカウンタートップも御影石のものを特注で自己調達する予定でいましたが、何しろコロナ禍で体調もすぐれないために、お店に行くことすらできないのです。

家の建築ってのは、あれやこれや果てしなくいろんなものが必要です。できている家を買うことがいかに簡単なことか!!

家を建てるだけでも最大級のストレスがつきまとうというのに、誰もが経験したことのないパンデミックのさなかです。おまけに、末期癌闘病の身でその全てを受け止め、進めていかなければなりません。

果たして家の完成は、夫の命に間に合うのだろうか?間に合ってほしい。その葛藤の中、想定してはいたものの、見積もりよりどんどん予算オーバーしていくこともわたしにとっては大きな不安材料でした。

夫が健康ならば、工期の遅れも、予算オーバーもそのうちなんとかなると思えましたが……。

闘病を間近で見守るわたしには、時間が迫っているように見えました。夫はいくらなんでもまだ数年は生きるつもりでいたようですから、自分が末期癌であることは家族以外、誰にも伝えていませんでした。

夫に万が一のことが起これば、建築途中の家はどうなってしまうのか?と心底、心配になっていました。業を煮やして夫には内緒で、建築会社のセールスマネージャーのジェフに、「夫の時間が限られていて、完工が余命に間にあうか心配している」とメールで伝えました。

ジェフとわたしたちが最後に会ったのは契約のときです。その後も夫とジェフは頻繁に電話で話していますが、声だけでは体が弱っていることは見えないので、わたしからの告白にはかなり驚いたようです。

伝えてくれたお礼と、できる限り早く進められるようにするし、バックにみんなついているからという励ましの言葉を返してくれました。

5月に、建築会社と夫の結んだ建築契約の契約者名にわたしの名前を追加する手続きをしておきました。万が一、夫が体調不良でサインできなくても、わたしのサインでも工事を前に進められるようにしておきたかったのです。

コロナで突然亡くなる人もいる状況下でのことなので、その時点では契約変更は、そのためと思われていたかもしれませんが、ここでようやく納得したことでしょう。

そんなバタバタした中で、大きな決断を迫られたのがガレージでした。

夫は類稀な車好きでした。

日本を脱出してからはやや落ち着いていましたが、独身のころから車には拘りがあったので、たくさんの車を乗り継いで来ました。クレイジー過ぎる数なので、いつかネタにするとして……!!

そんな夫、家を建てたあとの次なる目標は「余生はクラッシックカーを買ってガレージに並べてうっとり眺めること」だったのです。いつまでもおもちゃを欲しがる子どものようなオトナで呆れます。が、そういうヤツだったことは死ぬまでわたしの力で変えることはできませんでした。

というわけで、ガレージに対する思い入れは強かったのです。ドアは3台分ですが、奥行きがあるのでゆうに6台が入ります。おまけに、将来を考えてあとから裏にも横にもガレージドアをインストールできるように壁を設計してありました。

さて、決断すべきはこのガレージの内装です。ガレージですから、内装は仕上げない人もたくさんいます。いっぽう、ガレージとはいえドライウォールを入れてきれいに仕上げる人もいます。以前住んでいた米国二軒目の家のガレージはガレージ内まで天然木で内張りしてあり暖房設備まで整っていたぐらいです。

夫の下したガレージの仕上げについての決断は、GOでした。

巨大なガレージ全体に断熱材を入れて、ドライウォールで仕上げるというのです。このころすでにコロナ禍による資材不足で値上がりも始まっていました。

ガレージ内を仕上げることで17000ドルほどかかるとのことです。

ぎょえー!!

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【巨大ガレージの内装を仕上げることになりました】

ガレージなんて人が住むわけではないので、屋根と壁さえあれば良くない?このままでいいじゃん?って思ったものの、夫にとってガレージは“オトコのロマン”ってやつでしたから、

「あとですることはないだろうから今する。後悔したくない」

シレッとそう言ってのけました。

夫がDIYでするはずだった地下や、デッキもこれからプロにお願いしなければならなくなり、資金面では不安しかないわたしは頭をぶちのめされた気分です。

元気だったなら「余裕ができたらにしよう」と返したでしょうが、夫の余命を思うと、反対意見など言えるわけもありませんでした。わたしはだまって頷き、17000 ドルの追加金を建築業者に振り込みました。

わたしにとっては、夫の病状も心配ですが、次々に湧いてくる追加予算と、夫のクレイジーな判断でストレスはマックス。悲しみ、悔しさ、怒り、不安、苦しみ、肉体も精神もボロボロで、得体の知れない涙は枯れることなく出てくるし頭割れそうな毎日が続きます。

【#12家にまつわるストーリー】に続く



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