マガジンのカバー画像

ある死刑囚

9
ある男の死刑が執行された。 彼は冤罪であったが、法で裁かれ死刑との判決を受ける。 何度も冤罪だと、訴えてはみたが、彼の想いが届かなかった。 彼は復讐を誓う。 死んで悪霊となっ…
運営しているクリエイター

#ホラー

ある死刑囚(1)

ある死刑囚(1)

1

廊下から靴音が響く。
渇いたいつもの靴音であるが、
何故か今日は少し違う音だ。
その靴音は私の独房に近づいてくる。
それは、恐怖の音。

私の部屋の扉が静かに開いた。
「松本秀。今日の午後、刑の執行を行う。
身の周りの物を片付けておきなさい。」
と、静かな声で刑務官に言われる。

その声は悪魔の響きにも似た人間の温かさを
感じる事が出来ない音であった。

覚悟はしてはいたが、いざ刑が執行され

もっとみる
ある死刑囚(2)

ある死刑囚(2)

2
「貴方は誰ですか?」
と、聞いてみた。
きっと「死神です」と答えるだろうと、
予測のした上で聞いてみた。

「貴方の希望を叶えに天国からやって来た天使です」
と、言葉が明るい。
「天使だって?死神じゃないのか!
普通死んだ人の迎えは死神だろう!」

「普通はそうですが、貴方の場合は違います。
私は、天国から見てました。貴方は可哀想な人です。
真面目に生きてきたのに、人殺しと言う冤罪をかけられた

もっとみる
ある死刑囚(4)

ある死刑囚(4)

4
「何故、君の口から言えないんだ?
秘密にしないといけない事なのか?」
と、私はイラだった。

「別に秘密にしなければいけない事では無いのですが・・・・。そんな事はどうでもいいじゃ無いですか。」
と、言葉を濁した。
私は、相手の立場を尊重してそれ以上の追求はやめておいた。

「そんな事よりも、今からどの様にしますか?
最初にどこに行きますか」
と、天使は聞いてきた。

「先ずは、あの刑事だ。あの

もっとみる
ある死刑囚(5)

ある死刑囚(5)

5
私の下にはあの憎き刑事がいる。
暇なのか、椅子に座って茶を飲んでいる。
奴の背中に誰かが見える。
俺は天使に訊ねた。

「あれが、あいつの守護霊か?」

「そうだ、守護霊だ。あんまり良く無い守護霊だな。」

「良く無いって、どの様に良く無いのか。
教えてくれ。」

「あんなのに憑かれると、運は良くはならない。
アイツはそのままにして置いても
良い人生にはならないよ。
あの守護霊と、話してこよう

もっとみる
ある死刑囚(最終回)

ある死刑囚(最終回)

最終回

「貴方には辛いかも知れませんが、恨みなど捨てて、
また、呪うなんて馬鹿な事を考えずに、
天界行きの列車に乗る事をお勧めします。
私はその為に来たのです。
貴方を救いに来たのです。
貴方は確かに、少年時代はグレてどうしようも無い人でした。
でも、心を入れ替え、真面目に生きて来ました。
なのに不幸にも冤罪の判決を受け、悲惨な目に遭った。
貴方の考えていた事は、閻魔様には全てお見通しなのです。

もっとみる