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ある死刑囚(5)

5
私の下にはあの憎き刑事がいる。
暇なのか、椅子に座って茶を飲んでいる。
奴の背中に誰かが見える。
俺は天使に訊ねた。

「あれが、あいつの守護霊か?」

「そうだ、守護霊だ。あんまり良く無い守護霊だな。」

「良く無いって、どの様に良く無いのか。
教えてくれ。」

「あんなのに憑かれると、運は良くはならない。
アイツはそのままにして置いても
良い人生にはならないよ。
あの守護霊と、話してこよう。」
と、天使は守護霊の元にいく。

…一体何を話しているんだ!…
待つ事数分、天使は俺のところに帰ってきた。

「君も、あの守護霊とあって話すといいよ。」
と、天使は俺の手を取り、守護霊の元へ連れて行く。
俺は初めて守護霊という物に会うのだが、

奴の守護霊は俺の事を知っているみたいだ。
初め会ったのに、馴れ馴れしく話しをしてくる。

「君の事は覚えているよ。コイツのせいで
酷い目に遭いましたね。
ここに居るところをみると、刑は執行されたのですね。
いつですか、死んだのは?」

「死んだのは今日だ。真っ先にこの刑事の所に来たんだ、復讐しにな!」

と、恨みを込めて俺は言った。

「復讐?貴方の気持ちは解りますが、こんな人間はどちらにしても、運は落ちて行くよ。俺が守護霊だからな。」

「『俺が守護霊』ってどう言う意味だ?
守護霊はその人を護るのでは無いのか?」

「守護霊と言っても護る義務は無いよ。
その人間の生き方が悪いと俺の様な守護霊が付くのさ。
君だって、荒んだ生き方だったから、
あの守護霊が憑いたんだ。
要するに、守護霊が生き方を変える事は出来ないよ。
本人の生き方で憑く守護霊が変わるのさ。そう言う意味では、俺は最悪の守護霊。コイツはもう幸運から見放されている。」

「君はどんな守護霊なんだ?
『コイツが幸運に見放されている』
って、どう言う意味だ」

「私の事を聞きたいのか?それは言えない。」
と、突き放す様に会話を切った。
「何故ですか?」

「それは、閻魔大王しか判らないからだ。もう聞くな!」
と、守護霊は不機嫌な様子で去って行った。

「まあ、いいじゃ無いか。君が復讐しなくても、彼が憑いてくれてる。彼は守護霊としては無能な守護霊だよ。
安心してね」
と、天使が明るく言う。

「さっきの守護霊が言っていたが、守護霊って憑いた人を護るの役目では無いのですか? 『そんな義務は無い』って言っていましたが、
どうなんですか?」

「あの守護霊が言う通りに受け留めて下さい。
詳しい事は閻魔大王様に聞いてください。
次は何処に行きますか?」

「本当にこの刑事は不幸になって行くんだな」
と。俺はもう一度聞いた。

「今でも、コイツは不幸ですよ。女房には逃げられて、愛娘には嫌われて、孤独ですよ。出世の見込みも無い。
友達と言えば反社なヤクザ者。
誰にも相手にされてはいない。
そんな人を呪いますか?
こんな奴はほっといても、自滅していきますよ。
それもこれも、自業自得。自分だけの事しか考えずに生きてきたからです。貴方に対しても酷い事をした報いですよ。」

「さっきの守護霊の言葉が気になるのですが、
『護る義務は無い』
とは、どう言う事ですか?」
と、俺は謙虚な気持ちで聞いた。

「解りやすく云うと、守護霊は弁護士みたいな者ですよ。
優秀な弁護士は、その人の為にあらゆる努力をします。
だが、護るべき本人が悪人ならば、弁護士も力が入らない。
また、無能な弁護士では弁護が出来ない。
要するに、悪人には優秀な守護霊は憑かないのです。
と云うよりも、優秀な守護霊は去って行きます。」

「なるほど。俺には優秀な守護霊が憑かなかったのか!
・・・・。それも全部俺の自業自得か!。
今ごろ気づいても遅いのか!」

「まあ、これ以上は辞めておきましょう。
で、次は何処に行きますか?
あの弁護士の所に行きますか?」

「そうだね・・・あの弁護士の守護霊を見てみたい」

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