本郷矢吹

某県警に拝命後、県警本部で外事課に籍を置き、韓国語の能力を活かして朝鮮半島を中心とした…

本郷矢吹

某県警に拝命後、県警本部で外事課に籍を置き、韓国語の能力を活かして朝鮮半島を中心とした周辺国の情報を担当。国内外の情報機関の担当者と交流を持ち、警察庁では危機管理を担当。著作として「日本の長い一日」や「防衛のインテリジェンス」を出版している。

マガジン

  • 小説 偶然と必然、そして因果の叙事

    捜査第一課特別捜査係課長補佐並木義光は未解決事件であるタクシー強盗殺人事件の捜査を担当する中、書庫で貿易商夫婦の殺人事件のファイルを目にする。この事件も未解決事件であり、2つの事件を捜査すると偶然とも必然とも思える因果関係があった。その謎に挑む並木だが、並木本人にも知られたくない過去が存在した。

  • 本郷矢吹のColumn

    気になることをColumnにしました。新聞やテレビニュースでは報じない背景や原因、当事者の気持ちなどをコラムにしてみましたので、是非一読してみてください。

最近の記事

第3章「被害者の過去」-2

 この組分けはちょうど長机に座っていた位置で決め、隣同士で相談しやすいように配意した。各班は自分たちに与えられた捜査項目に対して何をすべきかメモしながら真剣な表情で話し合っていた。 「班長。ちょっと良いですか?」  佐藤と𠮷良は立ち上がって浅見の机に歩み寄ると2人で導いた結論を相談した。その際佐藤が並木を見たので並木もこれに加わると、佐藤は「防御痕のないこと」に対する推察を口にした。  一般的に包丁などの刃物が犯行に使われると被害者は刺されないように反射的にガードするがこれを

    • 違法とされた公安の情報活動

      Column~№18  名古屋高裁は岐阜県警が行った情報収集活動に対して違法の判決を下した。メディア報道程度の情報しか持ち合わせないが、裁判で情報収集と情報提供の2つを分けているのが非常に興味深い。  まず情報提供したのが中部電力の子会社という民間企業を考えれば違法という判決は当然だと思う。民間企業に情報を提供した理由は分からないが、どうせ幹部の天下りか何かではないかと考える。電力会社が警察幹部の天下り先になっているので、その可能性があるのではないかと邪推しただけで根拠はない

      • 総理を選べない議院内閣制

        Column~№17  自由民主党と立憲民主党の総裁(代表)選挙が連日報道されているが、極論で言えば投票権のない私には全く関係がない。だが国民として誰が総理であるかは関心を有するところであり、生活にも大きく影響を及ぼすことを考えれば、誰でも良いと言うことではない。  GHQが日本の制度をいろいろと変えた中でなぜ大統領制度を導入しなかったのだろうかと何回も思ったことがある。GHQの政策の是非はいろいろとあるが、日本のトップを直接選挙で選ぶ制度を導入しなかったことは残念に思ってい

        • 第3章「被害者の過去」-1

           出来ることに全力を尽くす。それは物事をなし遂げるための基本である。しかしどのような方法を選択するかが常に重要な鍵となる。捜査を尽くした未解決事件に対して新たな捜査項目を思考することは、すべての未解決事件で共通する難題だった。  並木が着任して1週間が過ぎた3月19日、改めて浅見、小山、佐藤、𠮷良、そして菅谷の5人の顔を1人ずつ見渡した後、 「この事件に関してなんだが、何か意見があれば聞かせてもらいたい」  と今後の捜査方針に関する意見を求めた。5人はその趣旨を理解していたが

        第3章「被害者の過去」-2

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        • 小説 偶然と必然、そして因果の叙事
          10本
        • 本郷矢吹のColumn
          18本

        記事

          クリーンハンズの原則

          Column~№16  「クリーンハンズの原則」という言葉がある。解釈を見ると「自ら手を汚した人間を法は手助けしない」とか、「違法な手段によって手にした権利は行使できない」などいろいろとある。そんな諸説の中で私は「法の執行者であるべき人間が法を犯しては人を裁くことはできない」と教わった。つまり人に対して注意をしたり不利益を与える者は、自分自身が真に誠実でなければ人を注意したり取り締まったりはできないということだった。  世の中には自分のことは棚に上げて立場でものを言っている人

          クリーンハンズの原則

          字幕の普及

          Column~№15  私がアニメ好きなのは以前このコラムでお話ししたが、今や漫画を含めた日本のアニメは重要な産業になっている。その結果アニメを通じて日本に興味を持つ人が世界で増えている。アニメを通じて日本文化を理解し、好感を持つ人々が増えることはソフト戦略として大成功を収めていると言えるだろう。  実際にアニメを観ているとエンディングで「海外事業」という文字を目にし、企業の海外に向けた積極的な事業展開の努力を窺い知ることができる。そんな作品に出逢うと海外でも人気アニメになる

          字幕の普及

          第2章「1枚のメモ」-3

           週明けの3月18日の月曜。川口中央警察署は慌ただしい朝を迎えていた。1階のロビーには免許更新に訪れた多くの来訪者が順番待ちをする一方で、長椅子には昨夜の事件関係者が腰掛けていた。その人混みを縫うように会議室へ到着した浅見は、 「24時間勤務の交替間際に変死だっていうんだから、ここの警察署の当直だけはやりたくないな」  と言った。既に出勤していた佐藤たちは黙って頷いているとそこに並木が戻って来ると、 「詳しい経緯は分からないが、朝方にあった変死に我々も現場臨場するようにとの指

          第2章「1枚のメモ」-3

          太平洋警察構想

          Column~№14  8月28日にオーストラリア政府が太平洋諸国フォーラムで「太平洋警察構想」を発表してこれが承認された。太平洋諸国に警察訓練センターを設け、更には多国籍の警察組織を創設するという。  この目的は太平洋の島嶼国に対する中国の影響力を排除することにある。中国は警察活動への協力ということで、現地に中国の警察官を派遣して訓練をしている。オーストラリアは中国の進出を日本人が想像する以上に警戒している。  この構想の狙いは別として太平洋警察構想は素晴らしいが、これを実

          太平洋警察構想

          北朝鮮の反動思想文化排撃法

          Column~№13  北朝鮮問題は私も現役時代には深く関わっていたが、北朝鮮問題は日朝間の問題であるとともに日韓間の問題でもあった。日本が韓国よりも交渉が進めば、韓国との軋轢が生じる。本来それぞれが独立国家であることを踏まえれば2ヵ国間交渉を独自に進めれば良いことなのだが、それができないため今も日朝とは交渉が進まない。  北朝鮮から見れば交渉するのであれば、安定した政権を相手にする必要がある。日本は安倍総理時代には政権が安定していたが、その前後の政権はどれも短命政権だった。

          北朝鮮の反動思想文化排撃法

          日頃の行いが大事

          Column~№12  8月26日に中国軍の情報収集機が長崎県・男女群島沖を2分間領空侵犯した。これに対して林官房長官は「主権の重大な侵害であるだけでなく、安全を脅かすもので全く受け入れられない」と非難した。  これに対して中国外務省の副報道局長は「中国はいかなる国の領空も侵犯する意図はない」とコメントを発表した。  フィリピンとの問題を見ても明らかだが、こんな副報道局長の談話を聞いて納得している場合ではない。尖閣諸島を含め、中国との間には領土問題が存在する。ただこの領土問題

          日頃の行いが大事

          第2章「一枚のメモ」-2

           次の日の土曜の夜、並木は久しぶりに大学時代の友人たちと酒を交わしていた。ひとりは鈴木晴貴(36歳)で、もうひとりは大野安博(36歳)だった。鈴木は厚生労働省の官僚で高校時代からの友人であった。そして大野は警察庁に勤務する警察官僚で大学時代からの付き合いだった。2人とも東京大学法学部というエリートで大野とは鈴木の紹介で付き合いが始まった。  並木と大野は同じ警察組織の人間だが、並木が警部なのに対して大野は神奈川県警察本部の外事課長も経験した警視正だった。警察官僚となると入庁し

          第2章「一枚のメモ」-2

          Anison Classic Japanコンサート

          Column~№11  8月24日にAnison Classic Japanのコンサートにお邪魔した。お邪魔したというよりも運営に関わっているので伺ったのだが、私はクラッシックが好きで、またアニメも好きなことからこの楽団の公演を気に入っている。  日本で唯一のアニメソング専門楽団で弦楽器にピアノを加えた編成だが、ちょっと大人の雰囲気のある公演が魅力の1つだ。本格的なクラッシック音楽とは違いショートな曲が多く、またバラードやポップなどいろいろな曲調が楽しめる。  来場者も栃木や

          Anison Classic Japanコンサート

          スパイ罪で起訴されたが……

          Column~№10  アステラス製薬の社員が「スパイ罪」で起訴された。身柄が拘束されたのは昨年3月のことで、1年が過ぎたこの時期に司法手続きが始まるという日本では考えられない不当な拘束期間である。しかもスパイ罪ということだが、具体的にどのような行為をしたのかも詳細は明らかになっていない。  権威主義国家での恣意的な逮捕は中国だけではないが、どのような行為で逮捕に至ったのかが判然としないのは釈然としない。司法権の行使はその国の自治権に基づくものであるため、他国が騒いでもどうに

          スパイ罪で起訴されたが……

          第2章「1枚のメモ」-1

           3月15日の週末、並木は菅谷に書庫からタクシー事件の検証結果と同時間帯検問の捜査報告書を持ってくるよう指示した。そして並木自身も着衣見分の捜査報告書を探すため一緒に書庫へ向かった。   菅谷は書庫へ向かう途中、 「随分とピンポイントですけど、何か分かったんですか?」  と並木に尋ねたが、 「何か分かったわけじゃないが、我々の仕事は事件の再捜査だからな」  と明確には答えてもらえなかった。そして菅谷が目的の捜査記録を手にすると並木は、 「他の資料も確認したいから、先に戻ってい

          第2章「1枚のメモ」-1

          人づてを「見聞き」に入れて大丈夫!?

          Column~№9  兵庫県知事のパワハラ問題で県職員に対するアンケートの中間報告を報じた記事で私は違和感を覚えた。それは「噓ではないが完全に世論操作を意図したもの」と感じたのである。  まず冒頭に申し上げるが、私は兵庫県知事を選ぶ投票権もない第三者であるが、パワハラ問題には不快感を覚える。パワハラは看過すべきではなく、また本人が「業務上必要な指導」という内容もパワハラに該当すると思っている。したがって兵庫県知事を擁護する気など全くなく、その行為は糾弾されて然るべきであり、

          人づてを「見聞き」に入れて大丈夫!?

          戒具の使用に正当な理由があるのを知らないのか?

          Column~№8  8月15日に大阪の西成警察署で戒具を使用した被疑者が死亡したという新聞記事を目にしたが、新聞社は何を伝えたくてこれを報じたのだろうか?  警察官の拳銃使用もそうだが、新聞記事にいつも責任者の「正当な使用であった」というコメントが掲載されている。そして掲載内容を読むと「こんな悪い奴がいた」というのではなく、「警察官が拳銃を使った」ことを報じている。今回の報道もそうだが「戒具を使用した結果、死亡した」と戒具の使用に問題を提議しているような内容だ。  ネットニ

          戒具の使用に正当な理由があるのを知らないのか?